第五十九話 博物館とホワイト
「ついた。はくぶつかん。たのしみ」
帝都に来て、二日目になった。
今日は世界最大と言われているアルデヒトの全世界博物館に来ている。
ホテルの最寄駅から電車に三十分乗り、そこから広い石造りの道を十五分間歩き、ようやく博物館の入り口に着いた。
「これで入館料無料か。凄いね」
「すごい。すごくすごい」
機嫌が良さげなホワイトと、石造りの非常に大きな入り口から入る。
そのまま荷物検査を受け、近くからパンフレットと取った。
「まずは何処に行きたい?もう混んできたし、行きたい所は早めに行った方と良いと思うけど」
パンフレットを二人で見ながら、そう聞く。
開館してすぐの時間に来たのに、周りはもう混んできていた。
急いだ方がいいだろう。
後ついでに、ここで趣味探しも出来たら良いな。
「••••ちはるの行きたいところからでいい」
「じゃあ帝国の歴史ブースで」
—-
帝国の歴史ブースに着いた。
ここでは帝国の成り立ちと歴史について、実際の物品も絡めた解説が書かれている。
「すごい。むかしの共和国の国宝。こんなかんじなんだ」
けれど殆どが、帝国の生まれた1500年代以降の物だった。
だから、紀元前の事は全く分からない。
「へー。何このマネキン。ちょっと変な感じ」
だが、ホワイトは楽しそう。
良かった。
今見ている国宝らしきマネキンは、全身が不気味の谷に一歩踏み込んでいて、結構グロいけれど。
こうして、二人でマネキンの解説文を見る。
神人戦争後、帝国の初代皇帝が持ち帰った神聖共和国の国宝のレプリカのレプリカのレプリカらしい。
「これも。ドラマでも見た」
ホワイトはショーケースに飾られている、鉄で出来た天秤も指差す。
また近づき、解説文に目を向ける。
第十九代魔王『優劣』のミレが国民を選別する際に用いていた天秤との事。
初代皇帝が第三十五代魔王を打ち破った際に、持って帰って来たらしい。
「あと【『最悪』の魔王】に書いてあったやつ」
隣には赤褐色に錆びている剣も飾ってあった。
自称六百六十六代目魔王「馬鹿」のアルタイルが、当時のアルデヒトの帝城で人々を虐殺した際に用いた剣らしい。
「何か凄いね。貴重そうな物が多いと言うか」
「あれも。千年太陽王国からもってかえってきたやつ」
俺が肩車をしているホワイトが、またショーケースを指差す。
急いで、近くにいく。
「あれ?ギターじゃん」
「これ、いまここで流行ってるののげんりゅう。よんだ」
「そうなのか。へー。よく知ってるね」
ニ時間ほどかけて帝国の歴史ブースを見て終わったので、次は世界の神話ブースに来た。
肩車は継続中である。
とりあえず、一番近くに展示されていた古い石碑のへ向かう。
石碑には大きい絵が一つだけ描かれていた。
「なにこれ。すごい」
「おー。古くて凄そう」
その石碑には、人なのか怪物なのかよく分からない謎の生物が口から液体を吐き出す絵があった。
解説文によると、下雨神イツァが生贄の食べ過ぎで吐いている場面を描いたと思われる絵、らしい。
何か凄そう。
「すごい。みたことない。あっちもみたい」
暫く見た後、ホワイトが向かいのショーケースを指差す。
そこには土で出来た、表面がボロボロの丸い塊が飾られていた。
解説文によると、創造神V-V-Cが人間の作成に失敗した際出来たと言われる正体不明の物体、との事。
「これもきになる。あれもなに。ただのはい。みたい」
「?。ただの灰のように見えるけど。何だろう。あれ」
次は、ただ灰が飾られているショーケースを指差す。
近づき二人で解説文を読む。
太陽神TEMUTによって灰にされた人間と考えられている灰、らしい。
「すごい。そんなやついる。あれもみたい」
またホワイトが指を刺した先には、綺麗に丸められた紙が一つ置いてあった。
その紙は真っ白で傷一つもない。
最近作られた物っぽかった。
「何だろう。パッと見丸めた綺麗な紙だけど」
「わたしの予想。たぶんたたくために作った」
解説文を読んでみる。
審判神、因字原閻魔が死を待つだけの人を落ち着かせる為使った可能性があるメガホン、らしい。
「一番何これ。紙が変形してメガホンになるのかな?」
「多分そう。すごい」
また曖昧な表現だった。
というか、このブースの解説文って、全部曖昧な気がする。
まあ、ホワイトが楽しそうだしいっかって感じだけど。
——
他にも色々な所を丁寧に見て回り、博物館を出た。
合計滞在時間は、六時間ぐらいだろうか。
だが、これでもまだ午後四時だ。
今日は博物館を見る以外の予定も無い。
夕飯を食べるのにも早過ぎるから。
思い付いた趣味を試すのもありかも知れない。
まあ、その前にとりあえずホワイトのしたい事でも聞こう。
昨日は何故か色々、俺が前のめり過ぎたと思うから。
「これからする事はないけど、ホワイトはホテルに戻りたい?それとも周りを見て回ったりする?」
博物館の周りには大理石で出来たっぽい噴水や柱が多く立っていた。
かなり綺麗だ。
これらをホワイトが見て回りたい可能性も無きにしも非ず。
「そう••••ちはるはなにしたい?」
「?。俺?なんでも良いよ」
「••••わたしもちはるの好きでいい」
まただった。
こう言うのは、前までは珍しかったのに。
いつも、大体何かしらしたいことがある。
「それなら買い物とかする?良い感じのがあるかも知れないし」
「••••ちはるの好きでいい。わたしはなんでも楽しい」
「?。何かあった?本当に俺は何でも良いよ」
本当にどうしたのだろうか。
理由が分からない。
思う所でもあったりするのか。
「••••きょう、ちはるをつきあわせすぎた。だからちはるにかえしたい」
「そうなのか。ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。けど、俺は本当に良いって。そっちが良ければ何でも」
「ほんとうに?」
「本当にそうだよ。俺自身はしたい事があんまり無いから」
「••••ならこっち来て」
目を逸らしたホワイトに手を引かれ、少し暗がりのベンチへ連れて行かれる。
道ゆく人からは、見えづらい場所だった。。
「ここに頭。はやく」
すぐベンチに座ったホワイトは、自分の膝を叩く。
膝枕をするという事だろうか。
公共の場でする事では無い気がする。
「はやく」
「?。分かった」
まあ、人目も少ないしこのぐらいいいか。
そう考え、ベンチに寝転がる。
ホワイトの膝に頭を乗せた。
「••••どう?」
上を見上げると、夕日と覗き込んで来るホワイトがあった。
ホワイトは少し伺うような表情をしていた。
「?。良い感じに良い感じだけど。夕日も綺麗だし」
「そう。ちからもぬいてみて」
「?。了解?」
言われた通り、体から力を抜く。
かなりリラックスした状態だった。
するとすぐ、ホワイトは俺の髪を撫で始める。
「おちつく?」
「?。落ち着く?」
「かなしい目してた••••ドラマをみてる時。こきょう、思いだせたらいい••••」
昔、母さんにやってもらったなーと思ってはいた。
確かに、懐かしくはある。
そうだ。
この膝枕は落ち着く。
日本での事を思い出す。
と思ったら、ホワイトが顔を近づけて来た。
唇と唇が触れ合う。
「な、何?急に」
「••••ちはるとやってみたかった。ドラマでみて。膝枕も。でもそのままだったら、ざいあくかんあるから、やった」
顔を逸らして、ホワイトはそう言う。
最初から、これが目的だったっぽい。
でもまあ、膝枕とキスぐらいならいつでも平気だ。
俺とホワイトって兄妹っぼく見えなくは無いらしいし。
「別に、言ってくれればいつでも良いよ。これより変な事も他の人ともした事ある気がするし。全然良いから」
黒田とかイリカとかフレジアとか。
結構アウトラインスレスレなのをした気がする。
割と宜しくない。
「••••」
「?」
またホワイトが顔を近づけて来る。
唇が触れ合う。
直後、口に舌まで入ってくる。
「それは駄目というか。最低でも恋人か、18歳を超えてからじゃないと」
急いで首を振る。
恋人以外とこれをするのは駄目である。
俺とホワイトの年齢的にも良くないし。
両親と姉ちゃんが言っていた。
「••••なら今だけ恋人」
またホワイトは舌を入れてくる。
この世界では感じた事のないぐらい、温かい。
察してくれて、やってくれた。
というか、もしかして普段の行動を見ていればされたい事が察せるのか?
今、気付いた。
後キスが長過ぎて、かなり息苦しい。
ホワイトは呼吸が要らないから、その辺で差が出てしまっている。
というか、ホワイトは完全にドラマで変な事を学習している気が。