第六話 教えてくれた
「あれ?止まった」
フクロウは止まった。
もう音は聞こえない。
やったね。
ホワイト。ありがとう。
俺は止まっている毛達の上に着地する。
この毛も、いつ動いて爆発してもおかしくない。
『おーい、ホワイト!フクロウ来てるし早く逃げよう!』
『わかった』
俺は地上へ飛び降りる。
ホワイトも毛の層の下から姿を現した。
『••••••だいじょうぶ?とくに手』
ホワイトは俺の全身と左手を見る。
もしかして、心配してくれているのだろうか。
『見た目よりは平気かな。ちょっと色々抉れただけだから』
爆風のせいで、俺の外見は相当やばいことになっていると思う。
その中でも左手は、特にぐちゃぐちゃだった。
だが、これらは上が剥がれたぐらいなので、割と大丈夫。
ヒグマと戦って来た経験則によると、これは魔力を動かしていれば直ぐに治る。
問題は痛いぐらい。
『••••••もうげん吐かないで。ちはるに能力使う。きて』
ホワイトは俺の右手を掴んで走り出す。
俺はそれに引っ張られる。
毛の爆発が届かない距離までやってきた。
『能力をとく。ちはるもといて』
『?。俺?』
『そう。うごけと思えばとける。『凄い光』』
ホワイトは光る玉を出し、毛の塊に投げる。
?。
?。
俺?
こう言う感じか?
何か動け。
直後、毛の層上部で、爆発が起こる。
爆発はとてつもない光と爆風を伴っていた。
それにより、猿達とフクロウが遠くへ吹っ飛んでいく。
すぐに、毛が動き出し地面に落ちた。
また爆発が起きる。
これは前の爆発よりも何倍も威力が上だった。
『••••••止血する。うごかさないで』
ホワイトは俺を押し、木に寄り掛からせる。
そして、俺の左手に触った。
『••••••『表皮停滞』••••』
全身の皮膚の表皮が止まる。
止まった表皮は、これ以上の血の流出も止めた。
つまり、かさぶたの役目を果たしてくれているっぽい。
そんな感じがする。
『ありがとう。治すのを手伝ってくれて』
ホワイトにすぐお礼を言う。
これのお陰で早くも魔力で体が再生し始めた。
『••••いい。それより、魔力、かわった?』
ホワイトは首を傾げ、聞いてくる。
?。
『••••••ちはるのひとみも白くなった』
『?。そうなの?』
『どっちも、わたしとおなじ』
ホワイトの瞳に、俺の顔が映る。
俺の瞳は白くなっていた。
?。
『??。もしかして、ホワイトはさっき毛の層しか止めてなかったりする?』
『うん』
フクロウを止めたのは俺の力だったのか?
確かに、そうでなければホワイトは毛の層とフクロウを二つ同時に止めた事になる。
つまり、俺の能力は他人の魔力とそれに付随する能力を真似する物だったりするのかな?
それだったら、非常に便利だ。
『そうだ。毛の層を止めてくれたのも本当にありがとう。あれで考える余裕が出来たから』
とりあえず考察は後回しにして、ホワイトにまた礼を言う。
毛の層しかの部分で悪印象を与える可能性がある。
かなり、嫌われたくなかった。
『••••••そんな遠慮しなくていい。おたがいさま。戦うときも、たよっていい』
『ま、まあ。手伝って貰っている立場で。森から出たいってのもそもそも俺の願望だし』
その割に、探索はホワイトに頼り切りだったし。
これは宜しくない。
『••••••もくてきは同じ。てつだいでもない』
『?。ホワイトもこの森を出たかったの?』
ホワイトは目線を逸らして、頷く。
俺の願いに付き合わせているだけとばかり。
その内容も気になる。
ついでに、何処かホワイトは調子が悪そう?
『••••理由、少し聞いてもいい?』
『••••••わたしは故郷の森に帰りたくもある••••そのためにちはるがいた方がいい••••』
良かった。
ここはそこまで地雷では無いっぽい。
『そっか。森から出るまで、俺も全力で協力するよ』
『••••••••ありがとう••••』
俺から目を背け、ホワイトは言う。
暫くした後、恐る恐る俺を見上げてきた。
『••••••こっちも••••しりたい。ちはるはなんでここから出たいの、?••••家族とあうため?』
『••••それもある。まだ一人は会える可能性があるから。あと、この森だと気分が落ち込んだままになるって言うのもある』
ここにいては、この世界に来て良かったと思う事も出来ない。
早く出たい。
『••••••また会えるといい••••』
『ホワイトこそ。というか、そっちも遠慮しなくて良いよ。何でも聞いて。目的は一緒じゃん』
恐る恐るはしなくていい。
仲良くしたかった。
『••••うん。ありがとう』
こう言い、ホワイトは立ち上がる。
また歩き出した。
—-
進むたび、枯れていく森を進む。
ドンドン枯れ地に近づいていた。
『能力はおもうだけでもつかえる。けど、魔力をかこうして、ほうしゅつして、応用したほうがつよい」
そんな中、より詳しく魔法について聞いてみた。
ホワイトはかなりドヤ顔で、こう説明してくれる。
だが、今一ピンとこない。
『これ、魔力』
そんな俺を見て、ホワイトは木の枝を拾う。
俺に見せつけて来る。
『これ、能力』
ホワイトは木の枝をブンブン振り回す。
『これ、魔法』
ホワイトは木の枝を折って、投げた。
『どう。わかった?』
『?。あ。そのまんまの意味?魔力でそのまま攻撃するのが能力で、折って投げるのが魔法と』
『そう。だから魔法はためがいる。能力のおうようけいもしかり』
歩きながら、ドヤ顔でホワイトは言う。
説明は微妙に分かりやすいような分かりづらいような気がするが。
まあ、分かったしいっか。
『ちはるはどっちもつかいたい?わたしがおしえてもいい』
『使ってみたい。どう使う感じ?』
ホワイトは振り向き、そう聞いてきた。
そこで、俺は遠慮なく言ってみる。
魔法も能力も便利そうだし、使ってみたい。
『わたしのまねして。まずこうやって、ゴホッ!』
ホワイトはコケた。
そうして、全身に土を付ける。
他の場所を見ながら歩くから。
『だ、大丈夫?』
『••••なんかここ来てから、感覚がへん。ふだんならだいじょうぶ』
ホワイトは頬を紅くしている。
一応、聞いてみよう。
転ぶのはかなり危ない。
『感覚が変なら、休むか俺が背負うよ。何でも言ってくれて良いというか』
手を差し伸べ、そう言う。
教えて貰ってもいるんだし、当然だ。
『••••わかった。せおって』
まだ顔の赤いホワイトが、両腕を出してくる。
俺はその脇を持ち上げ、背負う。
ホワイトは首に手を回し、胴体に足を回す。
どこか温かさを感じた。
『ふだんなら転ばない。ほんとう。ふだんなら』
『そ、そっか。治るといいね』
—-
遂に枯れ地の中心部と思われる場所に着く。
そこには、非常に大きな穴が空いていた。
近辺には木や雑草が全く無く、動物も一切いない。
まさに死の大地だ。
『おおー。とんでもなく大きくて深い穴』
その穴は底が全く見えないぐらい深かった。
形は正方形であり、一辺は一キロぐらいあるだろうか。
完全な人工物だ?
『••••このあな、結界の影響をかんじない』
『?。この穴の底に竜がいる可能性が高いって事?それなら、どう降りよう』
穴の断面は凸凹もなく、かなり綺麗であった。
だから、手で掴めそうな石も足場になりそうな岩も、一切ない。
『••••••ちがう。竜はここにいない。魔力が全くうごいてない』
『本当に?じゃあ何処にいるんだ』
ここで元凶の便りが消えてしまう。
また森で迷う羽目になるのだろうか。
しかし今は二人だし、意外と何とかなるかも。
一人より二人だ。
『••••••なにか来てる。こっちに。きをつけて』
そう考えていると、背中のホワイトが耳元で囁いてくる。
一方、俺の五感はまだ何も捉えていなかった。
『二つの魔力をうごかしてる。はじめてみた』
『そんなやつがいるのか。今はどこら辺にいる?』
『五キロ先ぐらい』
『分かった。逃げよう。ここにいる意味も無いし』
流石の魔力感知能力である。
そんだけ遠くに居るならば、追い付かれる前に森へ逃げられるはず。
戦う理由も無いし。
『むり。もう来る』
『速くない!?やばそう!即逃げる!』
五キロ先から数瞬でここまで来るなんて。
赤い爪ヒグマの何倍の速度だろうか
俺は焦って走り出す。
『来ているやつを止める事って出来た!?俺と能力を交互に掛け直せば』
『やった。全くとまんない』
『やばい!』
どれだけ魔力を動かしているんだ。
俺もホワイトに能力を使われたら、かなり止まるのに。
ここで俺の聴覚が、何者かの音を捉える。
地面を這って後ろから来ていた。
また背後を向く。
来ていたのは、ただのヘビだった。
ヘビの全長は、ニメートルぐらいだろうか。
縞々模様の体をしており、マムシに似ていた。
しかし、ヘビは圧倒的に速い。
大口を開け、もう振り返っている俺達に飛びかかって来ていた。