第五十五話 電車内で治療
「これで。治って来ている。よな?治ってきているよね?セーフ?」
「••••きてる。だいじょうぶ」
少年をベットに寝かし、頭の傷口はタオルで抑える。
次に『領域』で少年の体を俺の肉体とし、その体を操作して傷口を塞ぐ。
最後に魔力を流す。
これで、完璧だ。
きっと治るはず。
少年に魔力を流す毎、俺の体調が全体的に悪くなる事以外は。
現在俺はダメージを共有する効果もある『領域』を使っている為だ。
つまり、少年も同程度体調が悪くなっている。
果たして、大丈夫なのだろうか。
師匠の言っていた通り、他人の魔力は相当強めの毒っぽい。
ベットに寝かして色々処理した後に使った『叛逆循環』があんまり効果がなかったから、これしか出来なかった。
「い、痛い、きもちわる、」
作戦通り、少年は目を覚ます。
やったね。
けれど、その顔色は非常に悪かった。
「き、、きもちわる、頭いた、、おええ」
「あ。その態勢は」
仰向けのまま、少年は吐き始める。
俺は少年を急いで横向きにし、その部分にゴミ箱の口を向ける。
「••••シーツとめた。これでよごれない」
「ありがとう。あの、すいません。自分で魔力を動かして貰えませんか?血が凄く出ていて」
「ご、ごめん、、頑張ります」
少年は自らの魔力を動かし始める。
俺も少年の魔力になり、その魔力を流し出す。
そうして、少年の傷はかなりのスピードで治っていく。
このスピードは相当早い。
何か、この人は通常の師匠とか今の俺ぐらいには魔力を動かせる人だった。
ここのタイミングで、コンコンコンと扉がノックされた。
「お、お客様!タオルをお持ちしました!タオルで体をお拭きください!」
「ありがとうございます。直ぐ出ますね」
先程タオルを取りに行ったウェイトレスの人だった。
丁度良い。
俺の体であの人を隠しながら、タオルを受け取ろう。
またドアに近づき、鍵を開ける。
「は?」
扉を開けた瞬間、ウェイトレスの人が倒れる。
また俺の肋骨に当たりそうだ。
けれど、倒れて来なかった。
誰かの手がウェイトレスの人を支えている。
「貴女はこの部屋にタオルを届けました。以上。ですので、次の作業に戻って下さい」
「はい。次は茹で肉をお届けします」
ウェイトレスの人の後ろには、19歳ぐらいの女性が立っていた。
整った顔と銀髪、白い瞳が特徴的だ。
何か、どこかで見た事があるような気がする。
一方、俺は女性が差し出したタオルを受け取った。
?。
「?。あの?どなたで?」
「••••初めまして。大空千晴さん。ポケットに入れている木の枝を構える必要はありませんから。失礼します」
割と不審者だったので、こっそり木の枝を準備していた。
何故かバレている。
追加で、女性は部屋に足を踏み入れようとして来た。
この侵入を防ぐため、女性の前に立ち塞がる。
「す、すいません。入らないで下さい」
「だれ」
「••••警戒する必要はありません。治療しに来ただけです。ユア。こちらに来なさい」
「も、申し訳ありません!今すぐ向か、ぐわ!」
ユアと呼ばれた少年が、ベットから床へ飛び上がる。
その着地時に足を滑らせ、少年は転んだ。
これの衝撃によって、少年やベットから色々飛ぶ。
飛び立った物は女性の服に少しぶつかった。
「••••••ちっ••••本当に貴方は••••いえ。焦らせた私の責任ですかね。部屋を荒らして、申し訳ありませんでした。貴方も謝りなさい」
「す、済まないと言っておこう。済まん。本当に」
「こんな事もありますよ。自分は大丈夫です」
「••••こんなこともある」
タオルを持って来たホワイトはそう言う。
その口調はかなり怒っていた。
「す、済まん。怒らないでくれ••••僕が本当に悪いから••••本当にごめん•••」
「時間をかけても良いので、貴方が掃除しなさい。そして、大空千晴さん方。部屋を交換しましょうか。私方の責任ですので」
少年はホワイトにむけて、頭を下げる。
一方、女性は青筋を浮かべながらこう言った。
「ありがたいです。ですが、彼が嘔吐したのは自分が悪い面もあるので。掃除は手伝います」
「••••わたしもやる」
「ありがとうございます。大空千晴さん方••••」
女性は青筋を消して、突然ホワイトをマジマジと見出す。
ホワイトは首を傾げた。
「なに」
「••••••貴女とは何処かでお会いしませんでしたか?」
「••••だれ?」
怪訝な感じで、ホワイトは答える。
この少年の上司っぽい人と何処かで会ったことがあるのだろうか。
逆に俺はこの人を何処かで見た事があると思う。
どこでだったか。
「••••やはり気のせいですかね。私も掃除は手伝います。従業員の方が来る前に。ユア。早く服を着替えて掃除しなさい」
「い、急いで!」
ユアと呼ばれた少年は焦って立ち上がろうとする。
床に手をついた瞬間手が滑り、床と体が衝突した。
また色々飛び散る。
「••••ゆっくりでも良いので。確実に。お願いします」
女性は青筋を立てながら、念を押すように言う。
—-
「はらたつ」
「確かに。まあそうだね。でも、こんな事も偶にはあるよ。一旦忘れて、茹で肉を食べよう」
掃除をし終わったので、シャワーを浴び体を拭いて服を着た。
そうして、俺は付属のドライヤーで髪を乾かしている。
一方、茹で肉はやっと来た。
原因はあの少年がドジをして、何回も茹で肉をひっくり返していたかららしい。
そこも含め、ホワイトはより怒っている、のかも。
「わかった。たのしみ。どんなあじなんだろ」
ひと足先に髪も乾かしたホワイトは、机に向けて駆けて行く。
部屋はすでに入れ替えて貰った。
構造は前の部屋と変わらない。
「おいしい。ちはるも早く」
俺も髪を乾かし終わったので、シャワールームを出る。
すると、ホワイトはもう既に茹で肉を食べ出していた。
更に俺の分の肉も、それに付けるタレも用意されていた。
「ありがとう。美味しいね。適度に硬いのが面白いし」
この肉は、右腕羊の腕肉を薄く切った物らしい。
それを鍋内のスープで茹で、こうしてその後タレを付けて食べる。
食べた事の無い独特な味だった。
それに右腕羊とは、一体何なのか。
謎である。
「生でもおいしい。たべてみて」
ホワイトが羊肉を茹でずにタレに付ける。
そのまま食べた。
何かやばい事だ。
「そう食べるものじゃないような、?」
「そうなの?おいしい。食べてみて」
隣に座っているホワイトが、生肉を挟んだ箸を差し出す。
食べてみた。
「美味しいけど、茹でた方が美味しくない?」
「••••そう」
魔力のお陰で、食中毒系は平気だ。
だが、茹でた方が美味しかった。
というと、ホワイトは残念そうになる。
「こっちも味が違って、別ベクトルに美味しい!生肉を食べるのは久しぶりだし良い感じ!ホワイトのお陰で、いいもの食べれたぜ!」
森にいた一時期、野生のヒグマの生肉を美味しく食うチャレンジをしていた事があった。
だが、りんごや葉っぱや土や虫をどう使っても、手間ほどは美味しくならなかった。
今食べている羊肉は、そのヒグマの生肉よりは美味しい、と思う。
気がする。
そう思い込む。
ただ、茹でた方が美味しい気がするだけだ。
「••••きをつかわないで。これ、口直し」
「あ。ありがとう」
ホワイトが差し出した茹で肉を、食べる。
美味しい。
「••••••むりにあわせなくていい••••••。また口直し」
「また。ありがとう」
肉を食べる
ホワイトはまだ暗い顔だった。
どうしよう。
「全然。そんな事ないよ。無理にじゃないって」
さっきの発言は無理やりだった気もするが。
こうも伝える。
「••••••ほかもそう••••やくそくした••••けど、へんなちはるのままでも••••わたしは悪くないとおもう••••むりにあわせる必要はない••••またまた口直し」
また肉を差し出される。
俺はそれを食べた。
「••••変な俺か。その変な部分って、趣味探しのためにあらゆる事をする所な感じ?それとも、あんまり情がない所の事だったりする?」
「••••••まえはつめたい所もあった••••いまもあった。すくなくなった••••これ、口直しの口直し」
「そっか」
一応、その辺は改善して来ているっぽい。
無理に合わせに行ってもいる気はするが。
とりあえず、いえい。
「••••けど、悪いことだけじゃない。それで何回もたすかった••••これは口直しの口直しの口直し」
更にホワイトが茹でた肉を差し出す。
一口で食べる。
「••••関係ないけど、食べさせる頻度が多くない?」
割とそのせいで、話しづらかった。
一応食べ終わってから、言葉を発していたから。
「••••やると気分いい••••••わたしの個人的な••••かんじょう••••」
「そ、そっか。全然、全然大丈夫だよ。流石に人前だったら恥ずかしいけど。逆に二人なら嬉しいというか」
「•••••••口直しの口直しの口直しの口直し」