第五十四話 電車内での出来事
「帝国横断鉄道、等速号海東行き。ドアが閉まります」
あれから更に一週間経ち、まずカルミナ市の線路が完全に復活した。
そこからすぐ、電車のチケットを買ったのだ。
そして現在俺達は、この電車における自分達の部屋へ向かっている。
前回乗った二等車は色々寝づらかったのもあり、今回は特等車にしてしまった。
だから、相当お金もかかった。
最近、お金が減る一方だ。
だがホワイトは乗りたかったらしいし、ついでに一日しか乗らないので、まあいい。
「ひろい。でもホテルよりはせまい」
「確かに。電車としては破格だけど」
特等車の部屋のドアを開け、まずホワイトはそう言う。
部屋の中には、二つのベット、シャワールーム、トイレ、電話、お菓子の乗ったテーブル、金庫、など様々な物があった。
しかし、確かにあのホテルの部屋よりはかなり小さい。
一泊の値段は、特等車の方が3倍ぐらい高いのにだ。
まあ、そんなものか。
とりあえず、俺は1900万円を金庫に入れる。
「おいしい。たべない?」
そうしている間に、ホワイトは机の上にある謎の四角いお菓子を、真っ先に食べ始めていた。
このお菓子は、白と黄の中間な色をしている。
初めて見るものだった。
「じゃあ貰おうかな」
「わかった。口あけて」
ホワイトはそのまま食べ掛けを、俺の口に近づけて来る。
これを見、俺も口を開けた。
「どう?」
「美味しい。ちょっと甘くて油っぽいのがいいね」
「わたしもそうおもう」
丁寧に味わい、こう言う。
このお菓子は小麦粉を揚げた物だろうか。
少し甘く、それが丁度良い。
最近はこういう感じの事をするのが、ホワイトは気に入っているっぽい?
よくやっていた。
「ちはるは、今日ずっとへや?」
「そのつもりかな。ルームサービスでご飯も持って来て貰えるから」
ホワイトは、ついに自分の鞄をクローゼットに入れながら、聞いてくる。
俺としては最近割と忙しかったので、今日は体を休めたい。
後、電車内で何が出来るんだって感じだし。
「それなら、わたしもそう。くらえ」
「わー」
直後、何処か楽しげなホワイトが、腹に飛び付いてくる。
その勢いで俺はベットへ押し倒された。
「おれにお前のすべてをささげろ。えいえんにおれのそばにいろ。お前のやぼうもゆめも全てかなえてやる」
更にベットの上で、ホワイトに言われる。
これは恐らくあれだ。
ホワイトのテンションが高い時にする、ドラマごっこだ。
偶にやる。
「••••••魔王様••••私は••••」
「カット。へた。三点。かんじょうがこもってない」
「いや、ホワイトも相当棒読みじゃない?というか、何でまた俺が女性役?」
客観的に見たら、俺は上手い方のはず。
声も女の人の声にしているし。
これのせいか、割と大体俺が女性役だった。
「うるさい。テイク2」
「••••••誠に••••光栄です••••ですが••••魔王様の手を煩わせるには、恐れ多く••••」
「おれがぜんぶ叶えてやる。お前はすこし待つだけでいい」
ホワイトが顔を近づけて来る。
俺はさっと顔をそらした。
「申し訳ありません••••」
「これでもふまんか••••••カット」
「うまい。もうしわけありませんの部分がとくに。やくにのってきた」
「そっか。それを言うなら、ホワイトも心なしか感情が篭ってきた気がする。役に乗ってるぜ」
「うん。このままテイク3」
—-
「ひま」
ドラマごっこのネタは、すぐ尽きた。
これにより、ホワイトのする事も無くなった。
雷神?によって持っていた本が全部燃やされた、というのも原因で。
余りの暇さに、ホワイトは現在座っている俺の肩に両足を乗せ、イナバウアーみたいな体勢をしていた。
へそとか下着が色々丸見えだ。
一方俺は魔力だけを動かし、魔力を動かせる量や加工する技量を上げる練習をしていた。
「だったら何か食べる?ルームサービスで持って来て貰えるよ」
「たべたい」
「分かった。食べたい物とかある?」
「それはちはるの好きでいい」
テーブルの上に置かれていたメニューを手に取り、食べたい物を聞いてみる。
そこで、一番困る返答をされてしまった。
俺に好物は無かったので、どうしようもない。
「だったら運命に委ねるわ。投げた木の枝が落ちたメニューを頼むって事で」
「まって。やっぱえらぶ」
「えー。はい。これ、メニュー」
ホワイトはさっと普通の体勢に戻る。
ベットにいる俺の横のに座った。
そのホワイトにも見えるようにメニューを開く。
メニューには、食べ物からデザートまで様々な料理の写真が乗っていた。
「これがいい」
ホワイトはある料理を指差す。
しゃぶしゃぶっぽい奴だ。
スープの入った鍋、薄い生肉が乗った皿、この二つがメニューの写真に映っていた。
「これか。分かった。えーと、料理を決めた後、電話を取ってと」
その辺にある料理の頼み方が書かれたプラスチックの板を見る。
こうしながら、部屋に付いた電話のダイヤルを動かす。
そのすぐ後、受話器を取った。
「ガチャ••••もしもし。右腕羊の茹で肉を一つ、お願いします」
「ご利用頂き、誠にありがとうございます。右腕羊の茹で肉ですね。かしこまりました。お時間を15分ほど頂きますが、宜しかったでしょうか」
「はい。大丈夫です」
—-
しゃぶじゃぶは全く来なかった。
もう茹で肉を頼んでから一時間ぐらい経つにも関わらず、だ。
「こない。することない」
そして余りに来ない為か、ホワイトは色々暴れていた。
俺の服の中に入ってモゾモゾしたり、魔力を他人のに高速で変える訓練中の俺の目を至近距離で見てきたり。
普段は余りしないことをしていた。
「もう一時間だし、流石に直接聞いてくるわ。何かあったのかも」
何回か電話をしたが、その度に申し訳ありません、後五分お待ち下さい、という回答が返ってきた。
それでも全然来ないので、直接行こう。
「わたしもいく」
ホワイトも俺から離れ、服をある程度整える。
その間に俺もベットから降り、靴を履いた。
こうして、ドアを開け、電車の廊下に出る。
「あぢ」
廊下に出た瞬間、鍋が降りかかって来た。
頭に鍋が被さり、ついでにその中の熱湯もかかる。
「ご、すまん!平気か!?貴様ら!」
「大丈夫ですか!?お客様!」
人型の魔力が二つ、俺に近付いて来た。
片方はウェイトレスの人っぽい。
「別に大丈夫です。所で、自分が被っているこれは自分達が注文した茹で肉ですかね?」
「も、申し訳ありません••••こちらのお客様がご注文されたものでして••••タオルをお持ちします」
自分で頭から鍋を取る。
去っていくウェイトレスの人、駆け寄ってくる少年、そして廊下に転がりまくっているしゃぶじゃぶの具材が視界に入った。
「なに?びしょびしょ」
開けていたドアからホワイトも出てきた。
ホワイトはこれらを見、首を傾げる。
「••••う、美しい••••••ごほん!貴様!服は全て僕が弁償するから許せ!これが体を拭くためのハンカチだ!え!?ズボン!いた••••」
少年がかなりのスピードでポケットに手を入れる。
と思ったら、そのポケットからハンカチごと、ズボンの裏生地を取り出してした。
この事に動揺した少年は体を揺らし、更に床も濡れていたため、少年は足を滑らす。
結果として、俺の肋骨に少年の頭が激突した。
「••••しんだ?」
少年は頭から血を流して、倒れ伏す。
床に、赤が広がる。
元々この少年は自らの魔力を動かしていなかった。
それにも関わらず、魔力を回している俺に相当な勢いで激突した。
「本当に動かない。うわ」
つまり、こけて鋼鉄に頭をぶつけたような物だ。
やばい。
打ち所が悪かったら、本当に不味い。
その上、俺は少年の魔力を見た事がなかった。
だから同じ魔力を流して治療する戦法も使えない。
とりあえず、証拠隠滅だ。
騒ぎになったら、もっと大変である。
「へ、部屋で治療してもいい?このままだとやばいし」
流れた血を『融合』で空気にし、そう言う。
能力で良い感じに治療が出来たらよし。
無理そうだったら、急いで従業員の人を呼ぼう。
ワンチャン、有耶無耶にならないかな。
多分今なら、部屋に連れ込んで介抱していたという言い訳も通る。
それで治せたらラッキー。
「••••いい。いそごう」




