第四章 完
雷神?と戦ってから、一日が経った。
俺達はその辺の道路に建てられたテントで、夜を過ごしている。
今は、ビル前の救助テントに来ていた。
「••••ちはる。きのう、ありがとう。いろいろやってくれて」
「全然良いよ。俺がしたかっただけだし」
俺は自分の健康診断と、炊き出しで提供されているご飯貰う為に、ここにいた。
一方、ホワイトはあの少女の容態チェックをする為らしい。
「けど、何でそんなにあの少女を気にするの?何か目的あるなら手伝うよ。俺は能力で色々出来るし」
このホワイトの行動が、俺には不思議だった。
ホワイトとあの少女は、昨日が初対面のはずである。
更に、二人が話している姿は見た事がない。
の割には、ホワイトはあの少女を気に掛けている。
何でだろうか。
「••••可哀想だから。ぜんぶなくして。ひとりで」
「?。そっか。確かに色々やられちゃったらしいしね」
「うん。わたしだけでも、なにかしてあげたい」
こんな事を話しながら、入口で立っている人に幕を開けて貰い、救助テントに入る。
その中には、均等に並んだベットの列があった。
「••••••貴方は••••」
入ってすぐのベットに、体の一部を包帯で包んだ少女が寝転んでいる。
その少女はホワイトではなく、俺の顔をじっと見てきた。
「?。自分ですか?」
「••••いえ••••••お二人とも••••••四天王たちを倒して頂き••••ありがとうございます••••特に••••ホワイトさんは••••私を治してくれたと••••」
「••••••やったのはノア。それにまだ治ってない」
「••••••これの••••事ですか••••」
少女は自らの包帯を外す。
すると、猿っぽい手が現れる。
黒田によって治っていたはずが、また猿と化していた。
かなりの謎現象である。
感染する系ではないらしいので良かったが。
「••••わたしなら解決策がみつかるまで、先送りにできる。やる?」
「••••••大丈夫です••••••私はもう••••••いいです••••••このままで••••たとえ••••あと一年の命であろうとも••••」
「••••そう」
ホワイトは少女から目を逸らす。
すると、少女がまた俺の方を見て来る。
「••••••本当に••••すいません•••••貴方にも迷惑をかけますが••••最期に••••イリカさんに••••騙して••••申し訳無かったと••••••伝えて頂きたくて••••••」
少女は暗い顔でそう言う。
頭も少し下げている。
「そして••••言い訳にも••••なりませんが••••反勇者同盟には••••絶対関わらない方が良いとも••••••••」
「良いですよ。伝えるだけなら」
「••••••ありがとう••••ございます••••そして••••本当に申し訳ないです••••」
少女は俺に向けて謝ってくる。
何か、割とどうでも良い。
三秒ぐらいで言えそうだし、まあいっかって感じである。
というか、少し気になる事がある。
イリカと少女は果たしてどんな関係なのだろうか。
今の話を聞く限りだと、少女とイリカは元々仲良さそうだった。
特に昨日のイリカは、この少女を助ける為に四天王へ攻撃している。
まあ、色々あるのかな。
「はぁ、、はぁ、、大空!いる!?見てこれ!大空が出てた日刊勇者新聞!!滅茶苦茶あれな書き方されているわよ!あれよ!」
テントの外から、イリカの大声が聞こえる。
検査の結果、特に後遺症の無かったイリカが。
色々丁度いいタイミングだ。
とりあえず新聞には、俺が元気だと分かる内容が書かれていると良いな。
「新聞の内容を確認してくるわ。忠告も一緒に伝えて来ます」
「••••わたしもいく」
「••••••ありがとうございます••••」
テントを出る。
すぐに新聞を掲げたイリカが走ってきた。
「大空!見てこれ!酷いわ!あの記者!テントを貼れるようにってビルの瓦礫を吹き飛ばしてくれたから!!騙されたわ!」
その新聞の一面には、壊滅したカルミナ市の写真が乗っていた。
これの端っこには俺の写真も乗っていた。
【カルミナ市壊滅!!その原因は内通者か!??••••魔王国四天王の襲撃によって、帝国の約三割もの電力を発電しているカルミナ市が壊滅!雷人族も絶滅した。しかし!カルミナ市はラファエルに負けるとは思えない!本記者はその原因と思われる人物を発見した••••四天王を撃退したと語る魔人族の大空千晴氏だ••••】
何か内通者がいたせいで、カルミナ市が壊滅した的な事が書かれている。
その内通者は俺だとも。
「絶妙に捏造。というか雷神の事は書いてないのか」
「••••••うそばっか」
まあ元気さアピールにはなったし、いっか。
姉ちゃんは見てくれてるかな。
何か、俺魔人族扱いされてるけど。
「あ。そう言えば、イリカへこのテント内にいる、フレジアに捕まっていた子からの遺言があるよ。騙して申し訳ないってのと、反勇者連盟とかイリスには関わらない方が良いって」
「ゆ、遺言!?遺言!?え、どう言う事!?え!?彼女!死んじゃうの!?」
びっくりしたイリカが、テント内に走って入る。
それに合わせ、ホワイトも戻った。
更にテントの門番らしき人も入って行く。
俺は、テント前に残される。
「おーい見て!大空千晴くん!また見てよ!この新聞!大空くんの事すっごい捏造してるよ!ボロクソだよボロクソ!」
「やっぱり?」
ここで、黒田が横から突如現れる。
イリカと同じく、片手には新聞を持っていた。
「特にここ!この捏造!いや捏造でも無いけど!微妙に切り取ってて面白いよ!!」
黒田が笑いながら、新聞の一部を指差す。
その箇所を見る。
【Q:何故魔人族の大空千晴氏に協力したのですか?友人W氏:答えたくない。どっか行って。友人K氏:今は忙しいから。どっか行って】
「まるで無理やり協力させられたみたいになってる!やってるねこれは!こんな質問されてなくて、ただ取材拒否しただけなのに!」
「やっているね。というか、やっぱり俺が魔人族になっている」
師匠曰く、俺達のような異なる世界から来た連中の正式な種族名は、「異人族」との事。
世間一般では「勇者」という種族だと認識されているらしいけれど。
だからその辺も捏造されていた。
「それでー!!気分はどう!?悪名売れちゃったね!大空千晴くん!有名人じゃーん!!悪い意味でね!絡まれちゃうかもよ!?」
「ごめん。少し待って。俺もテントにまた戻りたくて」
「あれ?どうかしたの?キミと仲良かった人は誰も入院してなかったよね?」
「ホワイトが雷神?に全部壊された人へ何かしたいらしくて。だから俺も手伝おうかなと」
扉が開けられたままのテントから、声が漏れていた。
少し耳を澄ます。
「嘘をつかれたのは、、本当に腹立って、許せないわ、、でも、流石にこのまま死ぬのは、、、」
「••••••申し訳•••••ないです••••」
「、、、、」
これらを聞く限り、イリカでも無理そうだ。
ホワイトも止めたそうだったので、だからこそ俺も手伝おうと思う。
「••••よくそんな平然と言えるね、、ならボクは帰るよ••••また後で」
「ラミリアイル様!万歳!!」
「万歳!!雷人族万歳!」
「市長の娘でありながら、労働者の権利も主張した雷人族!万歳!!
「ばんざーい!ばんざーい!!私達にとってこの市が故郷なんです!恩恵も少しはありました!」
「立ち直せんのはあんたしかいない!万歳!!」
と思ったら、テントの中から急に大声が聞こえる。
突然の大声で、俺はビクっとした。
「••••••私は長くとも一年で••••猿になってしまい••••立ち直すのは••••不可能で••••」
しかし、少女の発言の後、直ぐ静かになった。
それならば、猿化の進行を遅らせば良さそう。
魔力を黒田のに変える。
「黒田の能力を借りるけど、いい?出来るなら詳細に効果も教えて欲しいというか」
「••••はぁ。ボクのあれは少し前に戻すだけだから。もうほぼ効果がないよ••••」
「そうなのか。残念」
だったら、どうしよう。
あんまり思いつく手は無かった。
「はぁ••••キミ、雷魔法は使えるようになったでしょ。ここで使ってくれない?」
「?。良いよ。でも何で?」
「まあ、取り敢えずやって」
「『大雷』。これで良い?」
雷神と全く同じように魔力を動かし、魔法を使う。
同時に動かせる魔力の量が雷神より少ないため、割と小規模だが。
こうする事で雷が出せる。
「『永続循環』••••で、キミがこの雷と石に『融合』を使ってみて。くっつけられるから」
黒田の能力によって、目の前では雷が出ては消え、出ては消えを繰り返していた。
俺は魔法をもう使っていないにも関わらずだ。
「『融合』?分かった。こう言う事?うびび」
石を拾い、そのまま雷が通る場所に触れる。
それで『融合』を使い、電気が流れて続ける石を手の中に作った。
なので、少し感電してしまう。
「••••これをあの子に渡してみて。まあ、根本的な解決にはならないけど。これで生きる気力が出れば、ある程度は時間稼ぎが出来て、助かる、かもね」
「そうなのか。ありがとう。けど、それなら黒田が渡した方が良いんじゃない?あの人は黒田にも感謝したそうだったよ」
「••••別に良いよ。結局ボクの為にやっただけから。全部キミがやった事にしといて」
「分かった。そう伝えておく」
多少嘘を付くことにはなるが。
そこはいっか。
ついでに少し工夫して、良い感じに生きる気力が出るようにしよう。
これで大丈夫なはず。
「あ。後、黒田って近頃空いてたりする?予定が合ったら二人で遊びたいなって」
更にこれも伝える。
一応黒田から注意された点は、抑えていた。
良ければ、仲良くしたかった。
「二人で。ね。いいよ。ボクとしてはこんな更地で何するんだって言いたいけどね」
「空を眺めて、一緒に炊き出しの豚汁を食べたりとか?石を蹴ってサッカーしたりとか?」
「謎の青春風味。でも悪くないね。空を見ながら、ポエム制作対決しよう。今ボクはそんな気分」
「了解。ポエムは作った事ないけど、やってみたいわ」
結構趣味に出来るかもしれない。
運が良ければ、黒田が作り方を教えてくれるかも。
そしたら、黒田にとっても迷惑じゃないだろう。
「ま、遊ぶのはいつでも良いよ。キミの協力のお陰で、暇になったから」
「じゃあ、明後日の午前9時、炊き出しをしているテントの前に集合でも良い?俺もその日は一日空いているから」
「二週間以内ならどの日もボクは空いてるね。じゃ。また明後日。楽しみにしてる。大空千晴くんの心のこもったポエムを、ね!」
「した事ないから。あんまり期待はしないで。けどまた明日」
「まったねー!!」
黒田は手を振りながら、去っていく。
俺も手を振り返す。
そして、すぐに見えなくなる。
元に戻れて、良かった。
それから俺はテントの中に入る。
中は静まり返っていた。
「突然、すいません。この石を見てくれせんか。これ、ほぼ永続で雷流が流れているっぽくて」
そこで、俺はバリバリという音が鳴っている石を掲げる。
周囲の目が俺に集まった。
「え、何それ、?どこで見つけたの?」
「偶々その辺で見つかって。雷が当たり続けた事で偶々変わったのかも。これをあなたに差し上げたいです」
「••••••私ではなく••••皆さんに••••」
少女は横に首を振った。
失敗だ。
だが、想定内である。
「自分は部外者の身です。なんですけど、テントの外から聞いていて、皆さんの故郷を思う気持ちは、本当に良く理解出来ました。自分も故郷から離れた身として、本当に、心からよく分かります」
多少声を張り、テント内全体に俺の声が響くようにする。
これで、もう集めていた注目を更に集める。
何か堂々としている感出て、良さげに説得力が増すっぽい。
ついでに眉も下げて、同情してる風な表情もした。
「その上で。自分は。是非あなたに受け取って欲しいです。自分がここにいた短い期間でも、あなたの人望は伝わって来ました。だからこそ、です」
「••••••そんなことは••••」
「先程の皆様方の大声もそうです。これこそ、あなたのこれまでの努力を表していますから。決して、もういいで済ませては行けないぐらいの」
「••••••ですが••••」
少女は小さく呟く
まだ暗い顔だ。
「周りのあなた方も。非常に辛そうな環境下で努力をしてきました。だからこそ、もう一度。先程のテントの外まで聞こえる声を、お願いします。復興への思いをまた叫んで下さい。せーの、、」
「こ、故郷を復興させる!ばんざーい!」
「ばんざーい!ばんざーい!!」
良い感じに勢いがついた。
ここで畳み掛ける。
石はその辺の机に置いた。
「手。失礼します。『叛逆循環』」
少女の手を両手で持ち上げ、黒田の能力を使う。
これで少女の猿化の進行が少し戻る。
「申し訳なく思う気持ちも、分かります。生きるのが嫌になる気持ちも。ですが、諦めないで下さい。時間稼ぎにしかなりませんが、こんな能力もあるんです」
少女は目を見開く。
少し崩せた。
「あなたが諦めてしまったら、周りの皆さん、そして、あなた自身のこれまでの努力が、全て完全に無駄になってしまいます」
更に少女の目見、こう言う。
少女の手も、両手で握る。
「あんな努力の結末がこれでは、あんまりじゃないですか。最期に、頑張ってみませんか」
こうしてじっと、真っ直ぐ少女の目を見た。
経験則と家族のやり方によると、多分これで行けるはず。
「••••••ひゃ、ひゃい••••」
と思ったら、少女は顔を少し赤くし、目を逸らす。
これは一体どう言う反応なのか。
偶にされるが。
まあいっか。
そんな人もいるよね。
「皆さんも最後にもう一度!思いをお願いします!カルミナ市!ばんざーい!力を合わせて復興だ!」
「ばんざーい!力を合わせて!復興だー!!ばんざーい!」
「ばんざーい!ラミリアイル様!ばんざーい!」
周りの人達も、俺の言葉を復唱する。
その声は段々と、テント一体に広がっていく。
「ばんざーい!復興だー!ばんざいー!」
「ばんざーい!!」
「こんなに好かれているんです。あなたの努力故に。また最後に、やってみませんか」
「••••••••」
そんな声の中で、また真っ直ぐ少女の目を見る。
両手も握りっぱなしだ。
すると、少女は顔を真っ赤にする。
だけで無く、少し首を縦に振った。
「••••••分かりました••••••最後に••••やってみます••••」
「ラミリアイル様!!ばんざーい!!ばんざーい!」
「ばんざーい!!お願いします!!ばんざーい!」
これらの声を聞き、遠くの比較的重傷ではない人達も集まって来た。
その人達も、少女に話しかける。
よし。
これで良い感じだろう。
多分少女に生きる気力も出たはず。
やったね。
少女から手を離し、俺はホワイトとイリカの方を向く。
「••••ち、違うのよ••••あんな風に慰められるなら••••立ち直らないで欲しかったなんて••••ちょっとも思ってないわ••••そんな事••••言わないで」
「だ、大丈夫?」
「お、大空••••大丈夫、、なんでも無い、、」
何か、イリカはぶつぶつと独り言を呟く。
明らかに大丈夫ではなさそうだが。
どうかしたのか。
「••••••ちはる••••••••」
そして何故かホワイトは両手で、俺の両手を握る。
少し暗い顔もしていた。
「???。どうかしたの?あの人に新しい物をあげれて、何かはしてあげれたと思うけど」
ぶっちゃけその辺で聞いた事で、雑に焚き付けただけだが。
俺も色々よく知らないし、後は自分達で何とかしてくれるだろう。
何か生きる気力も大事らしいし。
知らないけど。
多分。
「••••なんでもない。よかった」
「そっか。それなら俺も良かった」
あれで、良かったっぽい。
いえい。
これで、ホワイトに少しでもあげられたかな。
だったら、Vピース!
——
あれからニ週間ぐらい経つ。
通報とか色々したが、それと関係なしに街は復興し出していた。
だが未だ少しなので、俺達はまだ災害用テントで泊まっていた。
「電車。直るめどがついた••••またついてきて」
「了解。けど、ここの歴史は十分に調べられた?来て三日でカルミナ市は焦土になった感じだけど」
「だいじょうぶ。二千年前ぐらいになんかあった事と、その時なにかが解放されたこと。これはわかった」
「そっか。良かった。じゃあ何処に行くの?」
「つぎは帝都」
帝都か。
そこは、プロテクト市やカルミナ市も所属する人類共同連邦帝国の、首都らしい。
本で読んだ。
「帝都か。結構近いね。分かった。けど、あそこって一回壊滅してなかったっけ。五百年ぐらい前に」
魔人族の大侵攻で、帝都に元々あった建物は全部壊されたらしい。
そこから復興し今の帝都になったと、ホワイトの借りていた本をパラ読みした時に見た。
「そこじゃない。帝都には世界で一番大きい博物館がある。それみたい」
「?。それだけ有名な博物館だと、昔のは消されてそうじゃない。リキャプチャ市とか鯛墨市とかの方が歴史が深いし、行くならそこの方が」
帝都はカルミナ市からも近いし、寄るだけなら良いとは思うが。
泊まったりするなら違う方が良いような。
「••••••そこもいつか行く••••わたしは帝都に、ちはるといきたい。帝都はいろいろある」
「そっちか。了解。楽しそうだね。帝都には何があるんだろう」
「••••••ビルもいっぱいあって、料理もおおきいって聞いた。ほんとかドラマの舞台にもなってる」
「凄いね。全部行こうぜ。そうなったら、結構泊まる事になるけど」
「••••うん」