第五十二話 襲来 ボランティア
俺とフレジアで、道に歩く。
ちゃんと金庫は見つかっており、その上お金もDX刀も無事だった。
1950万とDX刀は『融合』でくっつけ、刀型のお金にする事で、持ち運びをしている。
「お金の回収を手伝ってくれて、本当にありがとう。これも感謝が絶えないというか」
「••••まあ良いわ。その程度」
悩んだように、フレジアは言う。
機嫌は治っただろうか。
元々手は繋ぎっぱなしだし、俺の腕に体もくっついたままだし。
大丈夫かな。
頑張って得た友達。
失うのは、何かあれだった。
「••••色々運んできているわね。勇者連盟の連中。仕事が早いわ」
フレジアは先程までいたテントを指差す。
全体集会が行われていたビル近辺には、いつの間にか、大量のテントが出来ていた。
テントは多くの負傷者が担架で運び込まれている。
そこに、余裕があった俺達は落ちてきた負傷者の人達を渡してきたのだ。
「大空!そっちは平気だったかしら!?あれよね!そっちも吹き飛んでいたわよ!」
近くにいたイリカが俺達を見つけ、走り寄ってくる。
眉も下げ、心配そうにしていた。
「全然平気。それで、そっちはどうだった?あの人は大丈夫そう?感電してたりしてたけど」
あの少女は、ホワイト達が助けようとしていた。
駄目そうでも、俺の能力でどうにか出来る可能性もある。
腕が猿?になった件はよく分からないのでスルーだ。
「い、いまいち知識が無くて、、今あそこで治療してもらってるわ、、」
「そっか。けど、それだったらイリカも治療して貰った方が良いんじゃない?黒田の能力で治ったとは言え、感電していた訳だし」
「わ、私は平気よ、、したい事があって、、あ、でも、大空は直撃して、動けなくなってたわよね、、入院した方が、、」
「今の所大丈夫だし、まあ後で良いかな。だけどイリカがしたい事があるなら、俺がやっておくよ。まあまあするないし。一応そっちも入院した方が良いよ」
ちょうどお金回収も終わった所だし。
黒田のバイト代の入った金庫も見つかったし。
イリカへの色々な恩返しにもなる。
「へ、平気よ、、、じ、自分の問題で、、いや、でも、、え、う、う、」
突如、イリカは悩み出す。
どうかしたのだろうか。
「その、あの、全部、私の我儘でも、いい?」
「?。全然良いよ。する事ないし」
「じゃ、じゃ、じゃあ、大空一人であそこの瓦礫の裏に来て欲しいというか、、」
「?。俺は別に良いよ。フレジアは良い?」
「••••嫌よ。私は。あなたはお礼中じゃない。それにこいつは手を離すと通報しに行くわ」
フレジアの方を見ると、また手を握りしめられる。
割と痛かった。
「ご、ごめん。今は通報しないから。少しだけ離して欲しいというか、、」
「え、え、通報、するべきよ、、協力してくれたけど、、私は労働組合の皆んなにした事••••許せないから、、」
「••••煩いわね。目隠しは作るから、さっさとやりなさい」
フレジアの足元から、石の柱が伸びる。
それは俺達の間を囲み、周りを囲んだ。
「え、いや、え、、う、」
「早くしなさい。鈍いわね」
イリカはチラチラとフレジアを見る。
一方、フレジアはイリカを睨み付け、こう言った。
「あ、の、ハグ、してもらっていい、?お母さんとお父さんみたいに••••」
「そ、その程度なら全然良いよ」
俺は片手だけを広げる。
これぐらいならセーフだろうし。
そうして、イリカが抱きついて来た。
軽く抱き合う。
少し柔らかかった。
「い、いい匂いするわ、、リンゴの匂い、、ち、違うわ、、これじゃない、、」
ボソっとイリカは呟く。
俺は香水を付けていない。
だから、ぶっちゃけそれは体臭だ。
気付かなかった。
やばい。
「わ、私は反勇者同盟に入りたくて。それが復讐に、必要で、、だから、反勇者同盟の幹部の人を、、探してて、、」
そのまま、イリカはポツポツと話し出す。
イリカは反社会的組織の反勇者同盟に入りたかったのか。
こっちも何かやばそうだ。
「でも、、裏切られて、、どうしようも無くなって、、」
「そっか」
「だから瓦礫をどかして、、ダメそうな人は病院に連れて行って、、大丈夫そうな人には聞き込みしていたの、、幹部の人、知らないかって、、」
「それが必要なのか••••手伝うよ」
これを手伝うのは、犯罪行為の助長っぽくて、宜しくない気もする。
まあでも、家族を失わさせられた時の気持ちは分かるし。
邪魔して嫌われるのもあれだし。
ギリセーフ?
人間、色々ある。
仕方なくやらなくてはならない時もあるかな。
「ありがとう、、ごめんなさい、、私が投げたせいで、、傷付けたのに、、」
「、、全然良いよ。結局全部自分の選択だし。うお」
と思ったら、フレジアが俺達をガン見してきていた。
イリカはそれに気が付かず、俺から離れる。
「ありがと。落ち着い••••違う!これでもないわ!」
「?。どうかしたの?」
イリカは俺の片手を両手で握る。
包まれている感じだ。
一方、フレジアと繋いでいるもう片方の手はかなり強く握られていた。
少し痛い。
「いつも私の我儘聞いてくれてありがとう!でも、助長させた私が言えたことじゃないけど!命は捨てないで欲しいわ!呼んでくれれば!一緒に戦うから!」
「••••分かった。気を付けます」
イリカにも怒られた。
やはり、意見をゴリ押すと駄目な事が多い。
「でも、本当にいつもありがとう。大空も!私に何でも言っていいから!何でもするわ!」
「•••••そっか••••」
「••••そうよ!え、あ、見られてる••••」
「なに?私が見てて問題ある?」
フレジアが強い口調でこう言う。
こっちも、何か明らかに怒っていた。
「••••な、無いわ••••じゃ、じゃあ、大空!本当にありがとう!」
イリカは歩き出そうと、足を一歩前に出す。
その前に、その肩をフレジアが掴む。
「こいつに頼む必要は無いわ。私が反勇者同盟に入れてやるから」
「え、え?幹部からの推薦以外じゃ入れないって、聞いたわよ、?」
「お母様が幹部。お母様はその辺雑だから、頼めば入れてくれるわ。必ずね」
「え、いや、え、ほ、本当?そうなら、頼み、頼み、頼みたい、たい、わ」
「そうよ。本当よ。二週間後の午前十時にここで集合。遅れたらあなたは置いてくわ」
「あ、ありがとう••••」
フレジアはイリカを掴んでいた手を離す。
イリカは何か複雑な顔をしていた。
「分かったら早く入院しなさい。しっしっ」
「え、え、さ、さよなら。大空」
「また。体には気を付けて」
イリカがチラチラとこちらを見ながら、救急テントっぽい所へ入っていく。
俺は手を振る。
「所で、フレジアはどうかしたの?握る力が強い感じだけど」
まだ、フレジアは強く俺の手を握っていた。
恋人繋ぎなので、大したダメージは入らないが。
多分俺のせいだとは思う。
何かしら駄目だっただろうか。
フレジアに嫌われるのはあれだった。
「••••そうね。全て理解したわ。ナンパしてきたあなたにとって、私は友達の一人だったのね。許せないわ」
「?。何か駄目だった?」
やはり、俺のせいっぽい。
自分としては、最初から友達のつもりだったが。
変な所でもあっただろうか。
「駄目でしかないわ。少なくとも私を置いて二人だけの世界へ行かないで。入るにしても私とにしなさい」
「ごめん。気を付ける」
イリカと抱き合った事だろうか。
許可は貰ったのに。
いや、そもそも普通に三人で居る時に二人でそうするのは失礼か。
次からは気を付けよう。
「••••まあ良いわ。そんなものよ。誰も唯一無二にはなれないわ」
フレジアはいつもより低い声でそう言う。
確実に不機嫌っぽい。
俺のせいだ。
これまでの経験不足が出てしまった。
「に、人間は誰もが唯一無二だよ。どんな人でも何かしら価値はあるって。多分」
「••••綺麗事ね。死ぬ程一般論よ」
「そ、そうだけど。友達として、フレジアが唯一無二なのは本当だから。俺はフレジアとじゃないと出来なかった経験が沢山あって。だから、唯一無二だよ。多分」
「••••通報しようとして止められる経験の事かしら。虐殺する友達がいる事かしら」
「それもある。あるけど、くっついて歩いたりとか公園で寄り添ったりとか。良い経験だったから。本当に」
かなりの数、初めての経験が出来た。
それらをすると、歩幅が合わなくて転びそうになったり、肩や腰が痛くなる事も知れた。
これらの事は元の世界ではした事がない。
この世界でも然り。
新鮮だった。
趣味探しとはズレている気がしないでもないけど。
「••••そうね••••」
フレジアは頷く。
俺の心が伝わってくれただろうか。
一応本心しか言っていないし。
「••••••••まず、言っておくわ。人を殺すのってそんなに悪い事だと、今日初めて知ったの。あなたに死んで欲しくないって気持ち、他の連中も持っていた。それは他人同士でも同じ。あなたの言う通り、本当に宜しくないわ」
「ま、まあ、この世界の法律でも駄目だしね」
「元々血が気持ち悪いから、お母様に言われた時以外しなかったけれど。これからは、その時以外絶対にしないわ」
フレジアは絶対に、を強調し、こう言う。
そして、ゆっくり頭を俺の肩に乗せる。
機嫌は治ったっぽい。
良かった。
「それと。私は少し冷静じゃなかったわ。こんな度し難い感情は初めて。余りに愚かな言動だったわ。他者が私の我儘で考えを改める訳がないのに」
「に、人間、こんな事もあるよ。そんな卑下しなくて良いって。俺も変えるよ。友達だし」
「私がするわ。代わりと言ってはなんだけれど、千晴の願いを叶えてあげるわよ。なにかして欲しい事でもあるかしら」
「少し待って」
俺の視界に、ホワイトが映る。
そのホワイトは大火傷をした人を肩で担ぎ、救助テントへ走っていっていた。
「急にごめん。あの白い子の手伝いをして行くわ。だから、夜七時になったらこのテント前でまた会わない?」
「本当に急ね。だったらそれを私が手伝うから、またイチャイチャ、というより恋人ごっこをしましょう。膝枕とか千晴に新しい体験もさせてあげるわよ」
「そっか、、ありがとう」