第四十一話 裏話 1
(ここ!どこも綺麗で明るくて!潜めそうな場所がないわ!あいつに嘘つかれたかも!)
(ガチでねぇ。どうなってんだよ。おい••••)
千晴達がカルミナ市に来る、前夜の事。
イリカもそこに到着していた。
そして、ビル街を走り回る。
「ここにもない!ないわ!嘘つかれたかも!」
走りながら、イリカは路地裏を見る。
何もない上、街灯もあって明るかった。
ここで、イリカはボスから貰った情報をもう一度思い起こす。
『傲慢』のイリスは勇者連盟から逃げており、そのため勇者連盟と仲の良い帝国内では、指名手配されている。
なので、その帝国に所属しているカルミナ市でも、当然指名手配されていると。
さらにカルミナ市は防犯カメラが非常に多く、犯罪者が居づらい街としても有名だと、ボスは語った。
そんな都市で、犯罪者の潜めそうな人目の付かない場所の捜索にイリカは苦労している。
(やっぱり、嘘かも!許せないわ!あいつ!!!)
(••••騙されてねぇのなら、恐らく地下か。マンホール行け)
(分かったわ!!先に!マンホールね!どこかしら!)
イリカは辺りを見回し、全ての路地裏も見る。
マンホールは全然ない。
しかし、ある人達は目に入った。
「何しているの!やめなさい!」
青白い瞳をした少女と、それを地面に押さえる四人の男が、そこにはいた。
明るい路地裏で、男達が少女の口をハンカチで塞ぐ。
イリカは少女と目が合う。
その少女は、泣きかけていた。
(おい!お前やめろ!)
「は!」
イリカは四人に殴りかかる。
全員、すぐ地面に沈んだ。
「•••••だ、大丈夫かしら?な、泣いていたみたいだけど、、」
イリカは、少女に手を差し伸べる。
脳内では、エムがため息をついていた。
(はぁ。おい。こいつが犯罪者側だったらどうすんだ。お前が犯罪者じゃねぇか。冷静に考えろよ)
(へ、平気よ!犯罪者はあんな目をきっとしないわ!!平気!)
少女はイリカの手を取り、立ち上がった。
だが、その顔は浮かばれない。
「••••••本当に••••ありがとうございます••••••お強いのですね••••」
「ぜ、全然良いわよ!あれをスルーするのは人として良くないわ!当然よ!」
両親は困っている人を見捨てなかった。
そのせいで、悪い結果を招いた事もあったが。
このを、イリカはまだ覚えていた。
「••••••••しかし••••あなたも••••カルミナ市警や公安警察から狙われてしまいますよ••••彼らは••••この市の公安警察••••でしたから••••」
「え!?え!え!?え!?や、やっちゃった、、こ、困るわ、、、」
「••••••何か••••お探しですか••••」
少女は低い声で、話しかけてくる。
一方、イリカは動揺と混乱をしていた。
脳内では、エムも発狂する。
「は、犯罪者が、大きな荷物が置けるほど大きい場所を探してて!な」
「••••それならば••••私に••••着いてきてくれませんか••••••そこなら••••犯罪者も、大きい荷物も置けますよ••••••••」
「え、え!?い、いいの!?え、え、お願いするわ、、」
—
とあるシェルターのような、地下施設。
下水道を進んだ先にあるそこに、イリカはやってきた。
ここも電灯で照らされており、相当明るい。
「ラミ様をお救い頂き!誠にありがとう!!貴方方は神の如く!!」
「ラミ様が死んでしまったら、私たちは何も出来ないわ、、これから全てが始まるというのに、、」
「公安のクソ共を鎮圧してラミ様を助けてるとはな!俺もやりたかったぜ!!ナイスだ!!」
半身を包帯で隠している人達が、それぞれイリカに感謝の言葉を伝える。
皆、満面の笑みを浮かべていた。
(何だこいつら。大丈夫か。全部)
(へ、平気よ!きっと!みんな悪い人には見えないわ!ラミちゃんも!)
イリカに助けられた少女は、ラミと名乗った。
そして近くにあったマンホールから下水道に入り、更にその一部の壁に触れたのだ。
すると壁が開き、この地下施設が現れた。
「••••ここは1476年に起こった大侵攻の際に••••勇者連盟によって作られた避難所でしたが••••••時が経ち、忘れ去られ••••今は私たち、過激派労働組合の集会所となっています••••••」
「ラミ様!俺たちは過激派なんかじゃねぇ!俺たちを労働法なんちゃらでコキ使う連中への正当な権利の主張だ!!」
「ラミ様に逆らうの!?私たちは全てラミ様の思う通りしか動けないじゃない!!」
「••••静かにお願いします••••大事な客人ですから••••」
二人は口を閉じる。
それに頷いて、ラミはイリカの方を見た。
「••••••ここなら••••犯罪者でも大きな荷物が置けますよ••••何を出して貰っても••••結構です••••」
「え!?わ、私!?私は置かないわ、!イリスって人がここに荷物を置いてないかって!思っただけで!」
少し、周りに気を取られていたイリカ。
急に話しかけられて驚く。
「••••イリス••••ですか••••••••••ここに来たことは••••ありませんね••••」
「••••そうなのね••••じゃあ!また探しに行くわ!ここにつけて来てくれて!ありがとう!」
イリカは下水道へ戻ろうと、背を向けようとした。
その前に、ラミが立ち塞がる。
「••••••いえ••••その探し物を••••私たちにも手伝わせてください••••••助けていただいたお礼です••••」
「わ、悪いわ!私の目的に巻き込む事になっちゃうもの!」
本人的には、必要のある時以外あんまり人を巻き込む気は無かった。
千晴にはつい、全部話してしまったが。
「••••••あなたはもう警察に追われる身です••••私達も••••手伝います••••警察に見つからない••••ように••••」
(何だこいつ。強引だな。都合がいいっちゃいいが)
(そ、そんなに恩を返したいの、、?どうしてここまで、、)
「••••ここに何日でも滞在して良いですから••••私たちも歓迎します••••」
「じゃ、じゃあ••••お願いするわ••••」
—
「••••••部屋はここを使ってください••••少し前まで人が住んでいましたから••••安心して暮らせると思います••••」
イリカはある部屋に案内される。
そこはカーペットが床にひかれ、巨大なベットやソファーもある。
更に天井にはシャンデリアもあった。
非常に豪華だった。
「••••••さらに••••••情報収集も私たちに任せてください••••所属している人数だけは••••多いので••••」
「え、え、あ、ありがたいわ!でも!いいの!?ここまでするなんて!手間かけさせちゃうわよ!!」
イリカは疑問を口にする。
流石に、怪しかった。
「••••••それほど••••貴方に助けて貰った事が大きいのです••••任せてください••••」
「そ、そうなのね、、」
「•••••はい••••それでは••••失礼します••••」
ラミは一礼をし、部屋から出て行った。
まず、イリカは荷物を地面に置く。
(直ぐ調査行くぞ。拠点と情報源を得られたのは大きいが。あいつは怪し過ぎんな。カスの可能性もある。己の目で確かめるぞ)
(、、ラミちゃんは、、親切過ぎるわよ、、怪しいし、、でも、、)
(は?知能ある奴なんて基本自分の為だけにしか動かねぇだろ。助けてもらった如きでここまでしねぇ。企みでもあんだろ)
立ったまま、イリカは頭の中で会話する。
イリカは説得されていた。
(••••••そんな事ないわ、、)
(そんな事あるわ。早く行くぞ。このままじゃイリスの奴も見つかんないぞ。良いのかおい)
(••••••分かったわ••••)
イリカはそのまま、ドアを開ける。
部屋から顔を出す。
ちらちらとイリカは左右を見る。
ホテルのような通路が、そこには広がっている。
ラミも誰も、居ない。
(、、ほかに、、扉もいっぱいあるわね、、、)
(つか、何の材質で出来てんだ。このシェルター。おれの魔力感知も妨害されんな。おい。普通に気をつけっか••••)
イリカは通路を、恐る恐る歩き始める。
かなり緊張していた。
暫く、イリカは通路をゆっくり進む。
通路には、幾つもの扉が均等にある。
その内一つの扉から、言い争う声が聞こえた。
「ラミ様は何考えてんだよ!余所者をいれて!何日もここで滞在させるなんてよ!最近締め付けも厳しくなってんだろ!自作自演のスパイだったらどうすんだよ!」
「落ち着け。考えがあるはずだ。我慢しろ。よしんばスパイでも、三日で何が出来る。後三日で全てが変わるのだから」
「ざけんなよ!余所者のせいで失敗したら!!お前は責任取れんのか!?俺たちにはもう時間がねぇってのに!!」
イリカは扉の窓から、チラッとそれを覗く。
その部屋では二人の男が言い合っていた。
(••••なにあれ••••••)
片方の男は、右半身が熊のような毛に覆われ、右手からは長く赤い爪が伸びる。
更に、右の瞳は黒色に変色していた。
もう一方の男は左半身が羊の毛に覆われ、頭からは羊のツノも生えていた。
更に、片目だけ黄色であった。
その異形の姿に思わずイリカはガン見してしまう。
(は?何だよあれ。誰かさんの能力か?それとも••••研究成果か。イラつくな。分かっねぇ••••)
「••••何をしているのですか••••」
「きゃ!!」
イリカは驚き、腰をつく。
ラミが話しかけてきている。
全くイリカもエムも気づいていなかった。
「••••見ましたね••••」
「ご、ごめんなさい!な、なんか声が聞こえるなって思って!そ、そうしたらあれなびっくり人間で!!」
イリカは混乱し、思った事をそのまま言い出す。
無意識で、手を使い大袈裟なジェスチャーもしていた。
「••••••初めて見たのなら••••当然です•••••彼らは••••••親切な方に強くして貰えるということで••••皆喜んで変わる事を選びました••••しかし••••」
「し、し?しかし?」
「••••••目立つようになったためか••••警察から積極的に狙われるようになってしまい••••今日も予想外に規制が厳しく••••••捕まりかけてしまい••••」
「え、そ、そうなのね!ど、ドンマイ?ドンマイだわ!いいことあるわよ!きっと!」
イリカはまだ色々混乱していた。
その為、変な事も言い出す。
(••••おい。このノリで三日後の事も聞け。目的が分かるかもしれんぞ)
「あ、あと!三日後に何かあるのかしら!聞き耳立ててたら!そんな言葉が聞こえたの!!」
「••••••私達を••••疑っているのですね••••」
「う、疑ってないわよ••••そ、そこまで••••」
イリカ自身は、まあまあ怪しいなと思っている。
だがあの泣きそうな顔をしていたラミが、イリカ的には悪い人に見えない、とも感じていた。
「••••••三日後••••解放記念の全体集会で••••市の政治に反対する••••デモ行進を行う予定で••••」
「な、なるほどね、、で、デモをするのね、、」
「••••あなたに滞在して欲しかったのは••••もしそれまでにここが発見された時••••少しでも強い方が欲しく•••••」
「な、なるほどね、、強いひとが、、ほ、欲しかったのね、、」
微妙にイリカは聞いていなかった。
そんな中で、今度はラミから差し伸ばされた手を掴む。
(本当か?だったら都合は悪くねぇな)
「••••••••利用してしまい••••••申し訳ありません•••••」
「い、いいわ!逆に!目的が分かって!安心する!」
「•••••••こちらこそ••••」