第三十九話 到着 カルミナ市
「はっ、はっ、やめろ!来るな!来るな!!!」
深夜、一人の男が市の路地裏を走り回る。
明かりが満ちるその市においては珍しく、その近辺は暗い場所だった。
直後男はゴミに躓き、地面を転がる。
そこに、誰かが歩いて来た。
「来るな!!「大雷」!」
男は魔法を使い、誰かへ攻撃する。
ドゴオという音と共に、雷が飛んでいく。
誰かに当たる直前、それは消えた。
コツコツと、無傷で誰かは近づいてくる。
「ま、待て!少し待て!俺は俗に言う上級国民だからな!?これは国際上のもんだぐわぁぁぁ」
—-
五日間、電車に乗った。
そうして、遂にカルミナ駅に辿り着く。
「ここがカルミナ市か。発展してるね」
「すごい」
俺とホワイトは、駅のロータリーに立つ。
同じホテルに泊まるはずの黒田は用事があるらしく、何処かに行った。
目の前には、五十階以上はありそうビルがいくつもある。
その上、道は全て動く歩道で、通る車は全て排気ガスを出すマフラーが無い電気自動車だった。
発展はしているが。
果たして、環境に配慮したいのかしたくないのか。
謎な都市だ。
「はじめてみる。あれ。わたしものりたい」
ホワイトは人の列へ駆けていく。
その列は、タクシー待ちの列だ。
待っているのは三人ぐらいしかいなかった。
「良いよ。乗ってみよう。俺も気になるし」
俺も歩いて、ホワイトに着いていく。
タクシーの運転方法や構造に、興味はあった。
もしかしたら電気自動車ならぬ、魔力自動車だったりするかもしれない。
魔力で動く感じの。
—
「料金は500円••••お客さん。早く」
目的地のホテルについたので、お金を払う。
普通にタクシーは、元の世界と同じ構造のものだった。
要は、ただ電気自動車だった。
「きれい。あれとか」
車から飛び降りたホワイトは、ホテルの中を指差す。
そこは、エントランスだった。
「確かに。中にあるシャンデリアは特に」
ホテルの入り口はガラス張りで、外からでも中がよく見えた。
エントランス自体は非常に広く、全体が大理石で出来、天井からはシャンデリアも吊るされている。
割と綺麗な感じだ。
この間に近づいてきていた従業員の人に荷物を渡す。
そして、受付へ行く。
お客さんはあまり居なかった。
「わたしがやりたい。うけつけ」
「了解。ほーい」
俺の分の身分証も持たせたホワイトを、受付前で持ち上げる。
もしホテル側にとって迷惑だったら、ごめんって感じ。
「おおぞら、で予約とった。これ、身分しょ」
「••••はい。大空様ですね。どうぞお掛けになってお待ちください」
—-
3702号室のソファーに寝転がる。
チェックインも荷解きも、もう終わらせた。
この部屋のソファーは大きい上柔らかく、非常に寝やすそう。
というか、この部屋はかなり豪華だった。
ジャグジーやシャワールーム、サウナまでついていながら、ベットもテレビも大きい。
景色時代も非常に良く、全面ガラス張りの壁からはこの市の全体まで見える。
凄いね。
まあ、その分結構値段もした。
初めて来る都市だし、もしもの時を考えて一番高いホテルにしたのだ。
カルミナ市は冒険者ギルドも無いっぽいので、ここにいる間だけでも相当貯蓄が減りそう。
「これ。おもしろい。みよう」
頭の近くに座っていたホワイトは、俺の体を揺する。
ホワイトはテレビで、恋愛ドラマを見ていた。
何かサブスク?が内蔵されているっぽい。
「いいよ。今はどんな状況な感じ?」
俺はソファーの上で半回転し、テレビの方を向く。
ドラマでは、包丁を持った女性が泣きながら走っていた。
「うわきされた主人公が、かれしをころそうとしてるとこ」
「こわ」
時間が経ち、夕方になった。
食事時なのでエレベーターで、五十三階のレストランにやって来た。
ここは、好きな食べ物を自分で取るというバイキング方式だ。
そこで、ホワイトはありとあらゆる物を取っていた。
「実はもとの彼氏もうわきされたと思ってて、その仕返しでうわきしようとしてた、だと思う」
肉と野菜を炒めたものを箸で食べながら、ホワイトは恋愛ドラマの考察を語る。
とても美味しそうで、とても楽しそうだ。
いつもより、テンションが高めである。
「俺は主人公が、顔の良い人と付き合ってるって言うステータスが欲しくて元の彼氏と付き合っていたんだと思う。だから優しい他の顔が良い人が出てきてすぐ、その人に靡きかけちゃったんじゃない?それを感じて元の彼氏は浮気したとだと思う」
「ない。心が弱ってただけ」
食い気味に否定された。
描写的にそうかなと思ったのに。
料理を食べ終わり、部屋に帰ってくる。
バイキングの料理は、非常に美味しかった。
吊るされた肉を料理人の人が目の前で切り落としてくれる物が、特に。
「あってた。わたしの勝ち」
ホワイトは帰ってすぐ、恋愛ドラマの続きを見始めていた。
最後、ドヤ顔で俺の方を向く。
「本当だ••••間違っていたのは俺だった••••」
ドラマでは、主人公と元の彼氏が泣きながら抱き合っている。
私の勘違い、僕の勘違いだったと。
普通に負けた。
俺は考察バトルの敗者である。
割と真面目にやったのに。
ここで、突如ドアがノックされる。
「••••••」
「?。誰だろう」
従業員の人だろうか。
急いで、扉を開ける。
「大空千晴くん!遊ばない!!周り見て回ってさ!で、でさ!ついでに!ホワイトも連れてこない!?楽しそうな場所見つけたんだよねー!」
黒田だった。
謎に黒田もテンションが高い。
「俺は良いよ。ホワイトは?」
「••••ドラマがいいとこ。無理」
—
「••••••ちょっと調子乗り過ぎた••••何やってんだか••••」
動く歩道に乗り、夜なのに街灯で非常に明るい街を移動する。
そんな中、黒田は眉間をもみ、そう呟く。
「ホワイトはまだ怒ってるんだよ。自分の過去の事を聞いたのに、めちゃくちゃ濁された事。まあ、しばらくすれば戻ると思うよ。多分」
「••••••そうだね••••いや、元々意趣返しで唐突にキミを誘うつもりだったけど••••欲が出たか••••」
「俺としては誘ってくれてありがたいよ。下調べもしたかったし。一人だと出来る事にも限りあるから」
趣味に出来そうな事を探すのと、友達を作れそうな場所を探す。
この目的で、街を下調べしようと思っていた。
特に友達は色々最優先だ。
「••••••キミが来て満足か••••もう仲良くしていい間柄じゃないし••••ごほん。所で!」
黒田は急に叫ぶ。
どうした。
「キミは!多くの友達が欲しいって言ってたよね!良い方法を教えてあげる!」
「!!。一体どんな!」
「デートに誘うこと!すなわちナンパ!やってみよう!」
「え。えー」
動く歩道から降り、辺りを見回す。
黒田の言う事を聞いて、とりあえずやってみる事にした。
なのでナンパしても大丈夫そうな人を、俺は精査する。
「あ。あの人とかどう?左半身を包帯で隠している16歳ぐらいの人。色々詳しそうだし、色々困ってそうだし、今は暇そうだし。お金を出せば一緒に観光してくれそうじゃない?」
「それ!ただの案内役雇っただけじゃん!ぜんっぜんダメ!というか男によく行けるね!キミ!ナンパって名目なのに!」
黒田は大笑いする。
駄目だった。
この場の中では最もナンパの成功率が高く、かつナンパをしても大丈夫そうな人だったのに。
「それならどう言う人が良いのか、アドバイスが欲しいというか。ナンパはした事無くてよく分からないぜ」
「アドバイスか!分かった!ボクとしてはあのオッドアイの子がいいと思う!理由は自分で考えてみて!」
黒田は、ビルの柱に寄りかかり、街をぼっーと見つめている少女を指差す。
年齢は16歳ぐらいだろうか。
オッドアイが特徴的で、顔も整っている。
「?。誰かと待ち合わせしてそうだし。そこに俺が話しかけて迷惑かけるのも良くないよ」
「大丈夫!ほら!見て!あの子手ぶらだし!ボクから見たら人を待っている風じゃない!逆にキミに話しかけられるのを待ってるかも!!行ってみよー!」
「え、えー。俺は駄目そうな気がするけど」
「いける!いける!キミならいける!自信持って!きっと行ける!でも、自己責任でどうぞ!」
「え、えー」
俺は恐る恐る少女に近づいていく。
黒田を信じ、とりあえずやってみる事にした。
少女は街をまだボーっと見ている。
それに対し、何て言うべきなのだろう。
俺と観光しない?とかかな。
ナンパなんて初めてで、緊張した。
「なにか、用かしら」
少女がこちらを向く。
目が合った。
虹色と黒色のオッドアイ。
綺麗な瞳だった。
「ゲヘヘヘ!姉ちゃん!俺と遊ば」
「は?なにやってんの!?またそれ!?通報されるって!!すいません!ボクがこいつをからかって!!」