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第三章 幕間 師匠との一幕





 石の巨人と戦ってから、約二週間が経った。

 リハビリも終わったので、今日は師匠に教えを請いに冒険者ギルドの裏に来ている。



 「おっす。大空!今日の修行は、闘技場での観戦だ!行くぞ!••••ってオルキデの奴は?いないのか?珍しいな」


 今回だけ、イリカは居ない。

 朝食を食べた後、何処かに行ってしまった。

 

 「用事があるらしくて。一人で来ました」


 「なるほどな。やっべぇ••••これ」


 「?」







 「おーい何してんだ?大空。決闘が始まっちまうぞ」


 「すいません。少し色々あって」


 フワフワ羊の焼肉を持って、師匠の隣に座る。

 これが、昼飯だ。

 バイト中の黒田にまた会い、これを激推しされていた。


 「試合開始!」


 「『まあまあな水(ウォーター)』!おら!!シネェェェェ」


 決闘が始まった。

 どちらも見たことがある、冒険者の人だった。


 「片方は水魔法を主軸に、常人流も使うってやつか。で、お相手は。斧でぶっ殺すって奴だな」


 片方の冒険者が、水魔法を斧で防ぐ。

 そして、その斧で攻撃しようとした。

 だが、あっさりとそれは避けられる。


 「でだ。決闘にちょっと関係ないが、大空。お前、風魔法を使ったって本当なんか?話を聞いたぜ」


 師匠はこちらをチラッと見る。

 石の巨人にパンチした時の事だろうか。


 「一応そんな感じです。出来ました」

 

 「すっげぇな。オレら異世界勢にゃあ、三つの工程が必要な五属性魔法は難度高えってのに」


 五属性魔法を使うには、加工→変換→放出が必要らしい。

 それらは生まれた時から魔力を持っていた訳でない俺達にはかなり難しいと聞いた。


 一方、光魔法や闇魔法は加工→放出だけで良く、資質さえあれば割と簡単に出来るとの事。

 師匠から教わった。


 「才能か、努力か。ま、良くやったな。何様だって言われるかもしんねぇが、オレも誇らしいぜ」


 「ありがとうございます!「模倣」の能力のお陰で、魔力を変える経験が出来ていたのもあると思いますけど!」


 やったね。

 努力を褒められて、嬉しい。

 

 「お。ならよ。「完璧」を使えるようになるまでもう何年とかからないんじゃね?お前の能力と相性いい気がすんぜ。「勇気」はもう出来んだろ?」


 「はい。「勇気」は使えるように。でもこれはどこまで出来る技なのかイマイチ掴めなくて。まだ使いこなせて無いというか」


 「「勇気」は超便利だぜ。使えば攻撃力も防御力も上がる。移動特化の「神速」や防御特化の「完璧」と比べるとダンチに汎用性が高い」


 「勇気」は魔力を体の外まで広げ、それを固体に変換する、という技だ。

 その「勇気」は自分の体に近い硬度を持つので、ほぼ鎧を纏っている状態になる。

 それを何処にでも出せるのだ。


 つまり、俺の「結界」のほぼ上位互換である。

 違う点は足場に出来るか否かぐらい。


 「その「完璧」ってどんな技なんですか?まだ使っている人も見た事がなくて」


 「気になるか。大空。「完璧」は魔力を五属性に変換させて、それを混合して放出するって技だ。纏ってる間はマジで無敵だぜ」


 「完璧」か。

 聞く限り、かなり便利そう。

 でも魔力を加工するだけで良い「神速」と比べると本当に難しそうだ。


 「だがまあ、オレ達には難度が高ぇ。「完璧」使ってる間は他の魔法も能力の応用系もほぼ使えねぇらしいし、魔力消費も激しいしな。リスクもある」


 「あー。それだと、確かに自分の能力とは相性が良いですね」


 俺の能力は、相手が先に何かしたのを見なければ、その能力が使えるようにならない。

 だから、ほぼ無敵になれて最初の何かを無効化出来る「完璧」は相性がいい気がする。


 「ま、最上位クラスの混合魔法辺りと比べると簡単だから、安心、安心か?しろ。空と地の混合魔法とかどう使うのかマジで分かんねぇ」


 五属性魔法とは、火、水、風、地、空を指す。

 その中でも、地と空は特に難しい。


 「コツとか無いんですかね。この世界の人達の中で共有されている事とか」


 「ま、何というか、この世界の連中の方が魔法の使い易いんだよな。幼い時から魔力がある以外の理由もあってよ。魔法は使わなくて良いと思うぜ」


 「それって、どんな理由な感じですかね?ワンチャン、自分の「模倣」で踏み倒せたり」


 俺の能力なら、その辺を無視できるかもしれない。

 相手の魔力を真似できるし。

 

 「気になるか••••オレ達がワザワザ技名を言う事が多いっつうのと関係しているとしか言えねぇな。まあ、慣れてねぇんだよ。魔法に。オレら。「模倣」のシステムにもよるが、無理だと思うわ」


 「そうなんですね。技名を言いながら使い続けると、癖がついて使い易くなるのと同じと••••」


 要はルーティーンだ。

 使う前に叫ぶ癖を付ければ、後は言うだけで魔力を無意識で動かせ、難しい技もぱっと使える。

 こんな感じの理論が、この世界だと蔓延っていた。


 それと繋がりがあるっぽい。

 幼少期から魔法に馴染んでいるから、みたいな理由かな。


 「大体そんな感じだ。「変異」を一度でも経験してりゃあ、それもちょっと違うがな。お。見てみろ。そろそろ水魔法使いが勝ちそうだぜ」


 水魔法使いが水で目を潰された相手に、「瞬動」で近づき、棍棒で殴り始める。

 相手は斧でガードしようとしているが、全く間に合っていない。


 「斧の方が身体能力は高いのに、勝ってんな。大空。お前はあいつと戦う時、どういう能力を使ってどう戦う。考察してみろ」


 「あの人は水魔法を目潰しとして使っているので、「勇気」や「結界」で防御しながら近づくとかですかね。自分はそうします」


 「それじゃあ、相手の目潰しが成功してんじゃねぇか。「結界」に水当たってよ。魔力を動かさなきゃあ、魔力感知にも引っ掛か和なくなるしよ。オレなら『領域』で人形を作って、そいつに戦わせるな」


 「その通りですね。『領域』なら最大で自分の体積分を動かせますし。そっちの方が目潰しされるリスクも無さそうです」


 『領域』は触れた物に、自分を拡張する事が出来る。

 

 要は、その物を自分の体みたいに操れるのだ。

 その代わり、操作した物が怪我するとこっちにまで同じダメージがくるけれど。

 

 「お前の能力はこんな感じに、相性いい能力に使い分けるのが良いと思うぜ。能力の応用系は相手がお前の魔力感知内で使わねぇと、パクれねぇんだろ?」


 「はい。その範囲内じゃないと、どう魔力を動かして使うのかが分からなくて」


 あの男性が使っていた『領域操作』などは、使い方が全く分からない。

 俺の魔力感知の範囲内である十メートル以内で、能力を使ってくれなくては。


 「ま、ここまでグチグチ言ったが。あくまで参考例だ。能力は大空の好きなように使えよ。オレらは自分達の才能や人格に最も合ってる能力を使えるっつう話らしいしよ。やりてぇようにやるのが一番いい」


 「ありがとうございます。そうします。後なんですが、武術を身に付けるのはどうですかね?勇者流は凄い便利で。他のも使えたら便利かなと」


 「今んとこは勇者流だけで良いと思うぜ。大空は。勇者流と他の流派じゃ、作られた目的が全く違ぇ。大空がワザワザ習う必要性は感じねぇな。見たのをパクる程度でいいだろ」


 常人流とかと勇者流は成り立ちが違うのか。

 初めて知った。

 まだ常人流と勇者流しか見たことがないけど。


 「それと、残念ながら。結局能力をぶん回して戦うのが一番強えんだ。だから、武術よりも使える能力を増やした方が良いと思うぜ」


 師匠は手を後頭部に回し、そう言う。

 ずっと闘技場を見ていた。


 「お。水魔法の方が勝ったな。オレの予想通りだぜ」

 

 「本当にそうですね。凄いです」


 「••••直球で言われると照れるぜ。ごほん。で、関係ねぇが羊の焼肉はどうだ?美味いか?」


 師匠はこちらを向く。

 もう半分は食べられた、焼肉の皿を見ていた。


 「かなり美味しいです、?」


 話している最中に、ぐぅーという音が師匠から少し聞こえた。

 師匠は顔を赤くしている。


 「オレじゃねぇ。どこかのやつの音だ」


 俺が見ると、師匠はこう言う。


 だが、明らかに師匠だった。

 器を差し出す。


 「半分は口付けていませんし、食べませんか?お腹が減っている云々関係なしに、修行つけてくれたお礼です。箸も反対にすれば、大丈夫ですから」


 師匠はここまで無償で修行をつけてくれている。

 本当にありがたい。

 これが少しでもお礼になったら良いな。


 「大空••••いや、いい。オレは弟子から貰うほど落ちぶれちゃいねぇよ」


 「分かりました。じゃあ貰います」


 このまま焼肉を食べようと、箸を口に近づける。


 またぐぅーという音が聞こえた。

 師匠は顔を真っ赤にしている。

 俺は器を差し出す。


 「勘違いすんな。本当にオレじゃねぇ。本当だ。だが、お礼というなら仕方ない••••師匠として受け取るのが当然だよな。だな••••」

 

 師匠は顔を赤くしながは、小さく呟く。

 納得してもらえたっぽい。


 「周りの連中も!弟子兼彼氏に貰えてやったー!って訳じゃねぇかんな!そこは認識しとけよ!修行つけた礼貰ってるだけだかんな!こっち見んなおい!」


 「?」





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