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第三十六話 役員とイリカ





 師匠を埋め終わる。

 穴から上がっても来なかった。


 これで完全な勝利だ。

 良かった。


 それからしばらく経ち、俺とホワイトとイリカは宿屋の前に来ている。

 荷物を取って、早く逃げる為だ。

 イリカの行く宛があるかも、という言葉を信じた。


 一方、黒田とひらめは結構前に何処へ消えた。

 どちらも色々バレたく無かったらしい。

 


 とりあえず、宿屋のドアを開ける。


 「貴方方はこのプロテクト市から逃げるのでしょう。少々お待ち下さい。勇者連盟執行役員兼戦闘部門部長、夏凪白水から話があるそうで」

 

 そこには、副支部長?女性が立っていた。

 彼女は大きめなカバンも持っている。


 これは大丈夫なのだろうか。

 何か話もあるっぽいが。


 「••••だれ?ぶちょう?」


 「••••••勇者連盟の••••つまり、師匠の上司••••」


 イリカは小さく呟く。

 唾も飲んでいた。


 「それなら、師匠にホワイトを誘拐するよう命じた人か。何だろう」


 「え!そうだったの!?師匠、私たちを糧に強くなりたかっただけじゃないの!?」


 「はい。全ておっしゃる通りで。そして、この話は貴方方に取って決して不利になる事柄ではありません。その上、数分で終わるので、もう繋ぎました」


 いつの間にか、副支部長の人は鞄から小さい黒い箱を取り出していた。

 この黒い箱はもう起動もする。

 

 直後、空中にモニターが浮かび上がった。


 「••••••なに」


 「?」


 モニターには土下座している男性が写る。

 大体25歳ぐらいで、黒いマフラーを着けていた。


 「本当に!!申し訳ない!!!すまん!!」


 その男性は謝ってきた。

 こうして、顔を上げる。


 「私は社長から、ホワイトと名乗る子供を本部に連れて来い。反勇者同盟など妨害する者がいるなら排除しろ、と伝えられたんだ」


 「そこで私は月下にこう伝えた。ホワイトと名乗る子供を何が何でも連れてこい。妨害するものは排除しろ(消極)と」


 「恐らく月下はこう解釈したのだろう。ホワイトを名乗る子供をどんな状態でいいから連れてこい。妨害するものは排除しろ(積極)と」


 男性はゆっくりと続けて、こう言う。

 再度、頭を下げた。


 「本当にすまなかった!!全責任は私にある!月下なら平気かーと確認作業を怠けたからだ!言い訳するなら忙しかっただからだが!今回の件で怪我した者の医療費は私が全額負担し!示談金が欲しければ言い値で払う!本当にすまなかった!」


 「要は、伝達ミスで行動した人を自分達は殺したということになるんですか?」


 そう言えば、師匠は最初に任務云々と言っている。

 これを殺してしまったのは、色々良くない気がする。

 追われるとは言え、逃げるプランも取れた訳だし。


 「月下のことだな!それなら問題ない!月下は少し前!魔王国の四天王に粉々にされたんだ!だが!その破片をまとめておいたら数日でくっついて蘇った!だから安心してくれ!」


 「それって、土に埋めてもですか?」


 「それも大丈夫だろう!恐らく!気にする必要はない!!」


 それなら、いっか。


 ミスは誰にでもあるし。

 結局ホワイトも無傷だし。

 起きた事は取り返しがつかないから。


 「ふざけんじゃないわよ!!伝え方をまちがっただけでだけで!!なんで!なんでよ!!殺しにきて!!!!みんな傷つけて!!!、、••••」


 イリカは急に怒鳴り、モニターの男性を殴る。

 一瞬、モニターは消えた。


 しかし、すぐにまたモニターは現れる。

 そこの男性は、しょんぼりな顔をしていた。

 イリカは、はっとした顔になる。


 「本当にすまない••••私は脳筋なもので••••失礼」


 男性は突然、懐からビニール袋を取り出す。

 そして口元に押し付け、深呼吸した。


 「スゥーー。ふぅ。本当にすまない。本当に申し訳なかった。示談金が欲しければ、いつでも言ってくれ。いくらでも出そう。この上で、君達が監査機関に訴えても私は何も言わんと誓う」


 「••••一千万円でも?」


 一方、ホワイトは不機嫌な感じに言う。

 結構、怒っているっぽい。

 

 「ああ。問題ない。勇者連盟プロテクト市支部副支部長。頼む」


 「はい。一千万円ですね」


 副支部長の人が持っていた鞄をまた開ける。

 そこには、大量の一万円札が入っていた。


 「••••••!」


 お札の束が、テーブルの上に置かれていく。

 最終的に、合計十束置かれた。

 

 「••••こんな。いっぱい」


 「大空千晴くん、だったか。君も好きな額言ってくれ。税金とかは気にしなくていいぞ」


 「それなら、自分も一千万円で」


 「分かった。また頼む」


 追加で、俺の分の札束も置かれる。


 まあとりあえず、一千万だ。

 多過ぎると持ち運びが出来ないし。

 ふっかけ過ぎるのも良くないと思う。


 「ツイテールの君も。好きな額を言っていい。金なら幾らでもあるから」


 「••••••ふん」


 イリカはそっぽを向いた。

 男性はしょんぼりした顔になる。


 「示談金が欲しくなったら勇者連盟本部コールセンターにまでかけてくれ。いつでも渡そう。今回は本当にすまなかった。それでは、一旦、失礼する」


 「••••••••受け取ったら、許したみたいになるじゃない••••」





—-




 役員の人と会ってから、まあまあ時間が経つ。

 もう夜になった。

 そして、雨も降っている。


 あの後手伝ってくれた人達へお見舞いをし、感謝の言葉と果物を配った。

 そうしている内に、日が落ちていたのだ。

 


 今の俺は冒険者ギルドの裏にいた。

 傘もさす。

 イリカを探しに来たのだ。

 

 「やっぱり、ここにいた。もう夕飯が出来たらしいよ。ホワイトも呼んでるし、早く戻って祝賀会しよう」


 「••••••そうね、、すぐ行くわ••••」


 イリカは直に地面へ体育座りをしていた。

 その上雨にも濡れ、全身がびしょ濡れだ。


 俺は持っているもう一本の傘を差し出す。


 「••••••••また、、ありがとう••••大空、、」


 イリカは少し顔を上げ、傘を受け取った。

 しかし、すぐに顔を俯かせる。

 傘もささない上、全く立ち上がらない


 「こっちこそ。今日も本当にありがとう。助けてくれなかったら死んじゃってたよ」


 先にとりあえず、お礼を言う。

 聞くと、イリカ達がホワイトを救出した為に、岩永支部長が社長に連絡、そこから役員の人に話が行ったらしい。


 要は、俺一人では本当に無理だった。

 自分だけ強くなっても限度がある。

 勝てない奴には勝てない。


 「別にいいわ、、私たちはライバルで••••一緒に遊んでくれたり••••慰めてくれたじゃない••••」


 「つまり、友達だから助けてくれたってこと?」


 「••••そう言ってくれるなら、そうよ••••」


 ボソッとイリカは呟く。


 思い返せば、イリカとは黒田と同じく、一緒に何かをして身の上話もした。

 だから、友達。

 友達。

 

 「そっか!納得!だからイリカも助けに来てくれたのか!ありがとう!」


 「••••••急にテンション上がるわね••••」


 ようやく分かった。

 これが理由で、死ぬ危険もあったのに俺達を助けてくれたのか。

 いえい。


 「助けてくれてありがとう!イリカに悩みがあるなら!本当に何でも言ってくれ!恩返しがてら何でもするから!」


 「••••••な、何でも?」


 「ま、まあ、出来る範囲でお願い」


 思ったより食い付きが良かった。

 だが、お返しはしたい。

 貰ってばかりはあれだ。


 「••••••••あの、その、、顔を近づけてもらうことって、出来る?」


 「い、良いけど。恥ずかしくない?」


 変な願いが来た。

 そんな関係でも無かったような気もするが。


 「ダメなら平気で、、忘れて••••••」


 「わ、分かった。このぐらい大丈夫」


 まあでも、お礼だ。


 俺はしゃがんで、イリカに顔を近づける。

 ついでに傘にも入れた。


 「ありがとう••••でも、もっと近づいて欲しい••••」


 「わ、分かった」


 より、顔を近づける。

 鼻先が触れそうになるぐらいにまで。

 完全に、そう言う距離だ。


 「あ、あの、最後に、大空に、舌、、出して欲しい、、な、なるべく長く、、出す、ように、、」


 「???。りょ、了解?」


 何がしたいんだろう。


 分からないが、舌をなるべく出す。

 イリカの唇に当たりそうだ。

 舌は人に見せる部分じゃないから、より恥ずかしい。


 「••••••••本当に、、ありがとう••••はむ、、」


 直後、舌の先がイリカに食べられた。


 ??。

 ?????。

 ?????。


 「お母さんがお父さんとやってて、、大切な人とする事だって、、教えてもらったの••••」


 ???。

 ???。 

 付き合っても居ないのに、これは良いのだろうか。 ちょっとそう言うのでは無いし、セーフ?


 「••••••私は田舎の村で育ったの、、どこまで走っても、、森なぐらい、、」


 このまま、イリカは話し始める。

 イリカは何かを口に含んだ状態なので、割とごにょごにょしていた。

 

 故に、聞き取りづらかった。

 しかし、俺はイリカに舌を固定され、何も言えない。


 「両親と、生まれたばかりの弟と私で、四人。畑耕したり、牛飼ったりして、、、自分で言うのも、、なんだけど、、幸せに、暮らしてた」


 そのまま、過去話が始まった。

 この状態で。

 お礼だし、まあいっか?


 「そんな、、ある日、、師匠が倒れてて、、私が拾って、、食べ物だして、、話聞いて、、住まわせて、でも楽しかった、、外の人は殆ど来ないから、、」

 

 師匠とはイリカに武術の真髄を教えた師匠かな。


 勇者の方の師匠とは闘技場が初対面っぽかった。

 後関係ないが、舌の中間部分が少し乾いてきた。


 「••••それから、、一ヶ月後に、、家族は、、村の人たちごと、、全員、、死んだ、、自分達で、、殺し合って、、」



 「みんな、、何されても、怯まない体になって、、血も出てるのに、、ためらいなく、、、瞳の色が、、変わってない、、私たちを殺しにくる、、」


 「私たちは、、家族、、四人で逃げた、、、でも、まず、お父さんが刺されて、、」


 「そしたら、、お父さんが、私たちを追ってきて、、次は、お母さん、、お父さんにやられて、、」

 

 「最後は、、おんぶしてた、弟が、••••」


 「ここで、、師匠が、助けてくれて、、そのあと、謝って、、自分のせいで、この場所が、勇者に、、襲われたって、、」 

 


 「最初は、師匠も、、恨んで、、、でも、一生懸命、世話を見てくれて、、復讐と、、家族の体だけでも、、取り戻す、、力も、、くれて••••」


 「なのに••••師匠からのもらった、、お守りの石が黒くなっただけで、、もう二度と会えないから、、一人で生きていけって」


 「だから、、奮起して、、急いで、、復讐の予定たてて、心配かけないように、、」


 「、、でも、、同じ勇者の、、師匠の助けが、、なかったら••••頓挫してた、計画、、、」


 「でも、その勇者も、、私を、殺しに来て、、伝達まちがえた、、だけで••••」


 何も言えない。

 こんな時にイリカはどんな言葉を掛けて欲しいのだろうか。

 俺は分からなかった。


 「でも、、こんな私のために、、お別れ会をひらいてくれたり、石を直してくれたり、、家族みたいな事もしてくれる、、」


 「大空が、いて、、ホワイトちゃんもいて、、亜紀くんも、、いて、、師匠も、、いた、、、」

 

 「••••••大空は、、もし、、私がいなくなっても、、DX刀が壊れても、、私を考えていてくれる?」


 「••••••ううえううえ。ええうえええううえ。うええうええうええ(忘れはしないよ。後一旦舌を口に戻させて。ちょっと舌がやばくて)」


 舌の一部の違和感が、やばい。

 完全に空気が読めていないが。

 一旦戻させて欲しい。


 「なにを言ってるのか、わからないわ、、でも、、あの、本当にありがとう、、毎回、、話聞いてくれて、、、」


 「うええうええ。うええうええうえ。うえうえええ(全然良いよ。助けてくれた訳だし。後一旦口に戻させて)」


 「大空がなにいってるのか、、分からないわ」


 イリカは少し笑顔になる。

 元気は出たっぽい。

 良かった。


 しかし、一旦今は舌を離してほしい。

 結構やばい。


 「••••••••でも、あともうちょっとだけ、このままで居ても、いい、?安心する、、」


 「うえ!?えー。えーー」


 少しでも早く離して欲しかった。

 イリカは悲しそうな顔になる。


 「えーー。ううえ」


 俺は首を振った。

 イリカは顔を赤くしながら、嬉しそうな顔にもなる。


 「ありがと、、あの、、わたし、ずっと、一生、、死んでも、、忘れないわ、、、大空の事、、」


 


 




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