第三十二話 vs???
「起きて!大空!早く!」
何かに、揺さぶられる。
意識が覚醒していく。
目が開いた。
窓から差し込む朝日と、涙目のイリカが視界に入る。
「••••••どうかしたの?」
「ホワイトちゃんが!誘拐されたのよ!手紙も残されてて!こうだって!」
【ホワイトは預かった。返して欲しければ、一日以内に石の巨人が作った洞窟、それがあった場所に来い。さもなくば、二度と人質と会えなくしてやる】
—-
「着いたわ!とりあえず!冒険者の人達に協力してもらいましょう!」
「••••••そうだね」
俺たちは冒険者ギルドに来た。
一応裏も確認したが、師匠は居ない。
だから、まず知り合いの冒険者達に協力してもらうつもりだった。
更に、一応警察に通報はしている。
しかし復興支援や交通整理、治安維持などに人を割いているから、一日待って欲しいと言われたのだ。
「ホワイトちゃんが誘拐されたの!こんな手紙を置かれて!誰か助けて欲しいわ!」
「はー。大変ですね。大変ですね、え!誘拐!ホワイトさんが誘拐されたんですか!?」
イリカはウサギ耳の受付嬢がいるカウンターの机に、ドンと手紙を置く。
周りの冒険者の人達も、ザワザワとし出した。
「見せてくれ••••」
その内の一人が来て、手紙を覗き込む。
直後、彼は振り返る。
「おーい!お前ら!!他の奴らは誰も知らないが!こいつらは部外者なのにこの市をを救ってくれたんだ!!今度は俺らが助ける番じゃねぇか!!?」
「おおー!!俺は恩を売りてぇ!!」
「私達も助けに行きましょうよ!猫田さん!勇者様方にまた褒められるかも!」
「やるしにても、アンタには大事な仕事があるでしょ」
その人の発言で、この場にいた猫耳の受付嬢以外の全員が盛り上がる。
意外と皆、協力してくれるのか。
「そ、それは、辞め、ましょう。ギルド、マスターからの、命令、です」
詰まりがちな声が、発せられる。
声はギルドの一階全体に響く。
全員が、ギルドマスターの方を向いた。
階段から降りてきている。
「勇者法、第二十七条に、のっとって、その、誘拐、は、緊急任務、とする、と通知が、来ました。関われ、ば、殺害、されても、文句、は言えません。更に、妨害、と、判断されれば、生還、しても、極刑に、され、ます。だから、命令、します。無意味に、殺され、たくありま、せん」
「え!妨害しただけで!!?極刑!??」
「••••やっぱりそうか」
—-
ここはネミノスの洞窟があった場所。
少し前まで、円形の大穴があった所でもある。
今では、その大部分は埋まっていた。
この近辺にポツンと一人、立っている。
彼女は武器を構え、臨戦体勢だった。
DXコロスンジャー刀を構え、その人の背後に近づく。
「透明」を使っているから、バレていないはず。
そして。
心臓を目掛けて、刀を突き刺す。
「容赦ねぇな!大空!」
彼女は刺される直前で、刀を避けた。
と同時に、ロケットランチャーを俺の方へ放つ。
俺は「結界」を張りながら、足の魔力を動かす。
ロケットランチャーが「結界」に当たり、爆発を起こした。
「「神速」」
爆風が俺を巻き込む前に、「神速」で離れる。
一方、その人は全く避けず、至近距離で爆発を受けた。
「••••は?大空だけか?」
爆風が晴れる。
無残な師匠の姿が見えた。
師匠の皮膚は剥がれ、一部は肉まで抉れている。
だが、それは一瞬で治っていく。
「••••まあいい。待ちくたびれたぜ」
初撃で、出来れば倒したかった。
推定犯人を消せば、後はホワイトを探すだけだから。
にも関わらず、何故かバレて躱されてしまった。
最初の作戦は失敗だ。
そうしたら、次善策で行こう。
「来たので、ホワイトを解放してくれませんか。一応、手紙通りの行動をしてますし」
「おい。大空。それは攻撃する前に聞くべきだろ。遅いわ」
呆れたようなポーズをする師匠。
確かにその通りだ。
「それは、犯人の言う事を素直にあれかなと思ったので。解放してくれないですか?」
とりあえず、このプランを続行。
行けないだろうか。
「••••••ま、しねぇ。お前がオレを殺さなかったら、オレがホワイトを殺す。これは確定事項だ。上からの命令でもあるかんな」
これも失敗だ。
ならば一番難しいけれど、この策で。
「••••いや、違う。オレの本心じゃない。こんなのは」
「?」
師匠は俺の方を見る。
腕輪からは、新たなロケットランチャーを出現させている。
「大空!オレはお前らと殺し合う為に弟子にしたんだ!オレ以上に強くなったら!命懸けの実戦をして!その勝者たるオレが!より強くなる!!」
師匠はロケットランチャーを構えた。
始まりそうだ。
「要は殺す!!大空千晴!!」
ロケットランチャーの弾が発射される。
段々と俺に近づいて来た。
「「神速」」
「「神速」!」
「神速」で移動し、俺はそれを避ける。
そんな俺に、師匠が同じ技で付いてきた。
この師匠は拳を構えている。
「最期の稽古を付けてやるよ!!「勇気」!」
師匠の拳の周りに、魔力の塊が纏われる。
それに対し、俺は「結界」を張った。
少しの拮抗の後、それは打ち破られる。
「「勇気」」
こう粘れたのも、師匠の常に魔力を動かせという指導のお陰だ。
それをした事で、同時に動かせる魔力量は段違いに上がり、「結界」の強度も段違いにあがった。
俺はこの隙に刀に「勇気」を纏わせる。
「お前は気づけば!「勇気」も使えたな!おい!「神速」と同じでよ!」
その刀で、師匠の腕を下から刺す。
拳を逸らした。
直後、違う手で師匠が持っていたロケットランチャーが、発射される。
魔力で強化されたこれに当たれば、俺は粉々だ。
「神速」を発動する暇はない。
だが、大丈夫。
少し遠めに「結界」を張り、すぐ「再生」に切り替える。
「結界」にぶつかり、爆発が起きた。
俺と師匠、どちらも巻き込まれる。
こんな風に高速で魔力を切り替える練習も、師匠とした。
そのお陰で、様々な戦略が取れるようになっている。
「やっぱロケランはお前の「結界」と相性が悪いか。体の周りならどこでも出せるそれとよ。」
皮膚が抉れた状態のまま、師匠は呟く。
一方、俺の傷はこれより軽傷だ。
そのどちらの怪我も、高速でそれが治っていく。
師匠の能力の「再生」は、魔力を通しているものを高速で元の状態に戻す。
例外は全身が粉々にされた場合や、即死するほどの重傷を負った場合ぐらい。
それ以外だと、すぐに戻ってしまう。
つまり、今の俺の勝ち筋は一つ。
早くに脳や心臓に攻撃を入れ、即死させる。
それだけだ。
「••••••ちっ。じゃあ能力重視で行くぞ。着いてこい」
師匠は怪我した状態で、走り始める。
速度は普段と変わりない。
俺は「勇気」を纏わせた刀を構えた。
「「巨大再生」!受け切れると思うなよ」
拳と刀が接触する直前、師匠の腕が巨大化した。
パワーが増している。
この拳にも「勇気」が纏われていた。
俺は刀での防御ごと、吹き飛ばされていく。
一方、師匠は足で魔力を動かす。
「神速」ではない。
魔力が激しく動いていなかった。
「次はこれだ!「噴射再生」!」
師匠は少し浮遊し、一気に加速する。
足の裏からは、強烈な勢いで血が吹き出していた。
その師匠の速度は、吹き飛んでいく俺より速い。
俺が着地する場所目掛けて、巨大な腕を振りかぶる。
「「身代わりの術」」
もう傷の治った俺は能力を「透明」に変え、着地してすぐ「神速」を使う。
こうして、師匠は一瞬俺を見失うはず。
「お前は風向きや音を意識していない!だからバレバレなんだよ!使いこなせてねぇ!!」
それでも、師匠は俺の所へ飛んでくる。
もう至近距離まで、近づいてきていた。
「「神速」」
師匠に殴られる寸前で、「神速」を使う。
今度は上空へ。
良い作戦を思いついた。
「神速」の速度が落ち、俺が地上へ落ち始める。
ここで「結界」を張り、足場にした。
魔力感知で、師匠がすぐ下から巨大な腕で殴りかかってきている事は分かる。
「空中に逃げてどうする!お前は「結界」でしか空飛べないだろ!」
「勇気」を纏わせた刀を、師匠に投げた。
直後俺も「結界」からジャンプし、師匠に飛び蹴りをする。
勢い良く、刀が師匠の拳に刺さった。
これでも師匠の飛んで来る速度は、一切緩まない。
直後、刀に俺のキックをぶつける。
「逆に叩き落とす気か!考えたな!だが!オレは押し返せないぞ!」
そんな師匠を横目に、俺は刺さっている刀と自らの服を『融合』させる。
これで、布で出来た刀の完成だ。
その刀がいいクッションと足場になる。
これを足場に横へ飛び、師匠の拳を避けた。
避けた直後、また「結界」の足場を作る。
そこへ立つ。
「マジか、、おい」
すぐ隣を、師匠の頭が通り過ぎていく。
俺はポケットから木の枝を出す。
そのまま、師匠の頭に突き刺した。
ポケットに入れて置いた石と『融合』してあるから、頑強さは十分。
「ぐ、ぐぎぎ、ぐぎぎぎ!!」
木の枝は深く頭に刺さっていく。
慣性で刺さった部分の穴も広がっていく。
師匠が上に進む勢いも、どんどん弱る。
「ぐぎ、「収縮再生」」
突如頭蓋骨が狭まる。
木の枝も頭を貫通する前に、止まった。
しかし、既に師匠の「噴射再生」も止まっていた。
「••••••やべぇのは、その応用力と•••••」
師匠は力無く落ちかける。
それを、頭に刺さった枝を持った俺が支えた。
師匠の体は空中で宙ぶらりんになる。
「••••••躊躇のなさ、か••••」
俺は刺さった枝に「勇気」を纏わせた。
師匠の魔力はまだ少し動いている。
念には念を入れておきたい。
「••••••教える事は••••もうねぇか••••」
「勇気」が広がらせた。
その度に、師匠の頭も割れていく。
「••••••「変」」
俺の「勇気」により、それは砕ける。
大量の血が、飛び散った。
直後、師匠の亡骸は地面に落ちて行く。
俺も「結界」を解き、その近くに降りた。
そして、着地する。
師匠は確実に即死したはず。
「勝てた。後は探すだけ!いえーい!」
綱渡りだったが、師匠を倒せた。
運良く俺もあんまり怪我は負わなかったから、近くには居なかったホワイトも探しやすい。
良かった。
そして、本当に感謝だ。
この勝利もあの石の巨人での勝利も、師匠の修行あってこそ。
師匠には恩がある。
自分で殺したけれど。
一旦それより、ホワイトを急いで探さないと。
何処かに連れ去られているかもしれない。
「喜ぶのは早いな。大空。次はオレのターンだ」
足元から、声が聞こえた。
師匠の亡骸があるはずの、下を見る。
そこには、師匠がいた。
完全な状態の。
頭には、魔力で出来た白い触覚も生えている。
「は?何で?」
ヒューという音が聞こえる。
横からロケットランチャーが飛んできていた。
「結界」と「再生」で凌ぎながら、一度離れる。
倒れていた師匠とそれに刺さり砕けていたDX刀は、爆風に巻き込まれた。
「ちっ。能力頼り感があって好きじゃないんだよな。これ」
「勇者専用のロケランを使いまくってる時点で今更じゃね?仕方ないだろ。勝てて強くなれりゃあいい」
師匠の亡骸があった場所から、触覚を生やした二人の師匠が現れる。
どちらも無傷だった。
「思い返せば、オレの「変異」についてはまだ教えてないか。ま、どんな能力になってるかは見りゃ分かんだろ。その辺も練習したしよ」
球のないロケットランチャーを構え、少し遠くにいた師匠が呟く。
三人目だ。
これは、無理。
一人だけでも、相当のリソースを吐いてやっと殺せたのに。
三人だなんて。
不味い。
「こっからは全力で殺しに行く。貰うぜ。お前の努力」