第三十一話 お別れ会
「街出るからって!闘技場に誘ってくれて!今日はありがとう!!ホワイトちゃん!!」
「いい。ここ、でるんでしょ?」
千晴にDXコロス刀を渡した翌日の、夕暮れ時。
イリカとホワイトは二人で帰路に着く。
ホワイトによって誘われたイリカは、先ほどまで決闘を観戦していた。
「あとは、荷物を片付けるだけ••••」
イリカは満足げに道を歩く。
故に、寂しげにそう呟いた。
もう何もないイリカには、ここの関係が全てだった。
別れを考えるだけで、虚無感が心に広がる。
だが、復讐を止める気は無かった。
例え理由があろうと、相手がどれほど他人に貢献してようと、取り返す。
そう決めていた。
(ヒヒヒ!自分で何にもなんねぇ道を選ぶとは!何やってんだこいつ!ハハハ!ヒヒヒヒ!!)
心の中で謎の声がイリカを笑う。
この誰かはエムと名乗った。
ネミノスとの戦闘後、日本語を扱いここの中で話しかけてくるようになったのだ。
(エムもありがとう。情報収集に協力してくれたでしょ?)
(ヒヒヒ!おれに感謝するか!?分かったよ!!その言葉!受け取っていてやるよ!ハハハ!)
エムは楽しそうに笑う。
普段からこの調子であまり付いていけない為、イリカは無視した。
「どう?もう一人のイリカも楽しかった?」
「••••え!?え、え?」
予想外の質問に、イリカはびっくりする。
頭も混乱し始めた。
(ど、どうだった?楽しかった!?)
(あ、たた、楽しかった!楽し過ぎて頭が暴発しても困らないぐらい!って言え!普段通りに!約束は果たせよ!)
「た、楽しかったわ!頭がぼんってなってもいいぐらいね!って言ってるわよ!」
イリカは誰にもエムの事は話していなかった。
エムはイリカの復讐に協力する代わりに、自らの事を誰にも話さないよう掛け合って来たのだ。
それをイリカは受け入れる。
嘘を付くこと罪悪感もあったが、それより確実に復讐したかった。
「よかった。けど、まだある。ドアを開けてみて」
「な、何かしら••••?」
二人は宿屋の前に到着する。
この扉の前にホワイトが立ち、そつ言う。
イリカはゆっくり、ドアを開けた。
「おかえり!それでこれから!送別会の始まり!」
千晴は構えていたクラッカーを鳴らす。
これに合わせ、周りで待機していた月下も亜紀も若頭も元反社の従業員達も、クラッカーの線を引く。
イリカの耳は、キーンとなった。
—-
「あ、ありがとう、ござい、ました。助けて、もらって。イリカさんが、襲撃をかけ、てくれなければ、じぶ、んはこいつら、に宿を売、っていたでしょう。親の、夢を続けさせて、くれてほ、んとうにありが、とう。こ、これがプレゼントの、シュシュ、です」
「え、あ、ありがたいわ!ご、五円で泊めてくれなかったら私もやばかったもの!だから落ち着いて!」
イリカはシュシュを貰いながら、亜紀くんの背中を叩く。
しかし、少し笑顔になっていた。
プレゼント譲渡会は成功だ。
やって良かった。
若頭達は、相当気まずそうだけれど。
俺は昨日イリカが街を出ると聞き、その日の夜、送別会を開くため色々した。
師匠の予定を聞いてみたり、亜紀くんに宿の一階を使っていいのか聞いてみたり、ホワイトに何をしたら良いのか相談してみたり。
ハ•オウさんは、夜から朝まで仕事らしくいない。
ひらめはイリカと仲悪そうな上、最近見ないので呼んでいない。
「次はオレか、、折れんなよ。オルキデ、、どうしようもならないこともある。そんな時は新しい事を試すのも大事だ••••••で、これがプレゼントの鎖だ。殴ってよし、投げてよし、巻いてよしだ••••」
「あ、ありがとうごさいます、、師匠、、ずっと大事にとっておきます、、」
「いや、使えよ••••じゃ、オレ仕事だし戻るわ」
師匠は、すぐ宿から出ていく。
用事があったのに無理を通して来てくれた。
俺とイリカはお礼を言いながら、頭を下げる。
次はホワイトだ。
「わたしはこれ」
「これ、!その為に買ってくれたのね、、ありがとう!!」
ホワイトは金色のバッチをイリカに手渡す。
闘技場のお土産コーナーに、税込512円で売っているものだ。
「どう?もう一人のイリカも、よろこんでる?」
「え!?よ、喜んでるわよ!と、とってもね!とっても嬉しい!最高!テンションマックスってね!」
「••••••?」
イリカは身振り手振り、自分の気持ちを説明する。
一方、ホワイトは首を傾げた。
これでプレゼント譲渡会は終わりだ。
「••••よし!次は夕食!!何でも食べてくれ!」
「••••••え?大空のは?」
「ちょっと準備で忙しくて!これの前に俺の作った料理も混じってる夕食を味わってくれ!当てたら五万円!」
「••••••あ、あれね、、夢も希望もないわね••••」
——
「どれも美味しい!何この味!」
焼きうどん、ミートパイ、小籠包の三つをそれぞれ食べるイリカ。
物凄い勢いで、三つを食べていた。
この中の内、俺が作った物を当てるゲームをしている。
「でも、焼きうどんはいつも食べている気がするわね、、ミートパイは周りと比べると味が落ちて••••小籠包はピリっとした感じが癖になる、、」
果たして、イリカは正解出来るのだろうか。
当たったら五万円だ。
緊張感のある空気の中、俺と亜紀くんと若頭はイリカを見る。
「焼きうどんは亜紀くんのだとして、、二択ね••••大空は実地研修の時からして、相当料理出来る••••多分!小籠包よ!」
「大正解!俺が小籠包担当!」
「当たりです!イリカさんは自分の料理!分かってくれてるんですね!」
「味が落ちる••••何だと、、ボス直伝のミートパイが、、」
亜紀くんは笑顔で、若頭は目を見開く。
五万円贈呈だ。
俺はポケットのお財布から出す。
「はい、報酬の五万円」
「あ、ありがとう、、金、、あ、あの!このピリッとした奴何かしら!食べた事ないのに!本当に美味しいわよ!なるべく、、レシピ、教えて欲しいわ、、」
「良かった。このスパイスを作るのに結構苦労したんだよね」
迷う森での放浪の果てに編み出した、秘伝のスパイス。
作るのに相当努力をしたから、気に入られて嬉しい。
「女王蟻と黄色いカメムシを1:4の割合で混ぜて、隠し味にムカデの毒を少し混ぜれば作れるよ。虫は食べれたよね」
実地研修でウサギを調理している最中、イリカは虫を食べれなくは無いと言っていた。
平気なはず。
「•••••また虫食ってるのね、、」
平気じゃ無さそうだった。
美味しくはあるのに。
—-
「••••はぁ」
イリカは自室の窓から、外を見上げる。
綺麗な夜空が広がっていた。
(おい。どうした。出て行く気でも失せたか?復讐はどうすんだよ)
(•••••••違うわ••••逆に未練がなくなって••••)
(ヒヒヒ!そう言う事か!あの野郎も罪なもんだぜ!期待させといてか!ヒヒヒヒヒ!)
(••••••••)
送別会が終わるまで、期待を持っていた。
一方、そもそも企画したのは千晴だと言うこともイリカは知っていた。
故に、何ともいえない感情が心を満たす。
ここのタイミングで、自室のドアがコンコンとノックされる。
「••••入っていい?少し渡したいものがあって」
「••••••いいわよ。入って」
イリカは投げやりに言う。
何か残る物も欲しかったイリカは、スパイスの作り方が書かれた紙を、千晴から貰う約束をしていた。
「うお」
千晴は扉を開ける。
直後、珍しく黒い瞳の千晴は、一歩後ろに下がった。
彼は地面に散らばる服やタオルをチラチラ見る。
「か、片付けるの、、忘れてた、、じゅ、準備中だから!気にしないで!」
「そ、そっか。分かった」
千晴は恐る恐る近寄ってくる。
何か警戒している様子だ。
イリカはそれに気づかず、ぼーっとしていた。
「はい、スパイスのレシピ••••所で、ちょっと、ネックレスを触ってみても良い?大事そうにしているのは分かっているけど。凄く綺麗で」
「••••••最後だし、いいわよ。大空」
イリカはネックレスを取り、千晴に差し出す。
その先に付いている黒い石は、真ん中に風穴が空いていた。
千晴は丁寧に、それを右手のひらに乗せる。
一方、左手はポケットに突っ込んでいた。
直後、黒い石は変形していく。
「あ、あれ。直った。ネックレス••••直したけど。大丈夫、?、」
「え!!本当!?••••」
イリカは飛び上がる。
そうして、千晴の手のひらを見た。
黒い石の穴は塞がっている。
更に、星型の花のような形に変化していた。
「偶然、、こう、変わった、そう言えば、こういう形の花の中に、いつまでもあなたと一緒って言うの花言葉を持つのがあるんだよね••••••」
「••••そうなのね、、」
「何か駄目だった!?解除しようと思えばいつでもするから!これは『融合』を使っただけで!予備の修理用石も用意してあるから!大事にしていたのいじってごめん!!」
「•••••••ありがとう••••大事にするわ」
—-
「大成功した!手伝ってくれてありがとう、ホワイト!」
俺は部屋に戻る。
ホワイトはまたベットに寝転んでいた。
そこに駆け寄り、俺は感謝を伝える。
「••••••いい」
今回俺は黒田のアドバイスを元に、作戦を立てた。
イリカが何をして欲しいのか考察し。
俺のせいで壊れた黒い石も直せないか考え。
最後にホワイトにもアドバイスを貰った。
その甲斐があって、全て成功した。
やったね。
流石に大事にしていた物をいじるのは少しやばいかと思ったが。
これによって多分お礼も責任を取るのもお返しも、全て出来たはず。
より仲良くもなれたとも思う。
最後二人きりになった際、他に自分の事を教えてくれなかったのは残念だけど。
これは、まだ時間あるしセーフ。
「••••••うん••••それと••••言いたいことある••••」
暗い顔でホワイトは呟く。
何かあったのだろうか。
「?。どうしたの?」
「••••••••つぎ行きたいところが出来た••••••••だから、」
「むぐ」
突如、背後から手が伸びてくる。
その手は俺の口に当てられた。
意識が遠のいていく。