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第三話 こんにちは 知らない人


 


 

 森から全く出られなかった。 


 髪が伸びそれを何度引きちぎったか覚えてない程度には、時間も経っている。

 それにも関わらず、同じ場所をいつまでも歩いているかのようにずっと同じ景色が続く。

 

 いや、実際同じ場所を歩いていた。

 最初に会ったヒグマの死体は、何度見たかわからない。

 だが時が経ち、その骨すら無くなってしまった。

 

 これをどうにかしようとも、周囲には高いリンゴの木しか無いし、雑草は何処にでも生えている。

 木を登って辺りを見渡しても、地平線まで森が広がっているだけだ。


 幸い、食料にも水にも困らなかった。

 木を揺すればリンゴを食べ放題だし、雑草やキノコも虫も幾らでもいて、偶に襲撃してくるヒグマもいる。

 水分も、雨やリンゴの果汁で摂取できた。


 だが、ここには余りにも何も無い。

 出来る事はし尽くしてしまっていた。

 もう何も出来ない。


 「何か起こってくれ!!!!ちちんぷいぷい!!!」


 大声で心の声を叫ぶ。

 

 だが、この声も森の中に虚しく消えていくだけだろう。 

 俺はすでに何十回も同じことをしていた。


 

 急に、目の前で強烈な光が発生する。

 余りの光に、俺の目は見えなくなった。


 「何か起きた!!?おっしゃー!!何か起きた!!」


 暫くし、目が見えるようになる。

 

 目の前に、女の子が倒れていた。

 大体八歳ぐらいだろうか。 

 

 その女の子はとにかく白い。

 髪も肌も真っ白で、非常に整った顔をしている。

 体も陶器のように白く綺麗で、黄金比とも言える体と合わさり、良く言うとまるで人形のようだ。

 

 悪く言えば、マネキンのようだった。



—-




 『ん••••』


 女の子が、目を覚まそうとしている。


 現在は夕方で、全体的に薄暗くなっていた。

 俺はその辺で拾った木の枝を剥がした木の皮の上で回し、火を起こそうとする。

 これをしながら、女の子の方をちょくちょく見ていた。


 人と話すのは久しぶりだ。

 どう自己紹介しようか。どんなことを話すべきなのだろうか。仲良くなれれば、森を出るのに協力してくれるのだろうか。

 そんな事ばかりを考えながら、女の子が完全に起きるのを待つ。



 女の子は遂に目を開ける。

 瞳も真っ白だ。


 『••••••ここは••••どこ?』


 「?」


 彼女は周囲を見回し、俺に気づいて、こちらへ目を向ける。

 女の子の声は透き通っており、周囲によく響いた。


 『••••••だれ?』


 「?」


 何を言っているのか、全く分からない。


 彼女は未知の言語を話していた。

 ここは元の世界では無いのだから、そりゃそうである。


 『••••••わたしを••••助けてくれたの?』


 彼女は俺の目をじっと見、そう言う。

 何か質問してきているのだろうか。


 分からないけれど、とりあえず頷く。

 困った時はとりあえず肯定だ。


 『••••••••ありがとう。けど、今はほかのといたくない••••••』


 彼女は急に立ち上がり、森の方へ歩いていく。

 その歩きは、かなり森に慣れたものだった。


 『••••きにしないで。『ただの光(ライト)』』

 

 「!!!!!」

 

 彼女は手から光る球体が出す。


 その光る玉は周囲一体を照らした。

 明らかに魔法だ。

 

 俺は焦って、彼女の後について行く。


 魔法について、ちょっとでも知りたい。

 そうすれば、森を出れる可能性が出てくるかもしれない。

 もうただ彷徨うのは嫌だった。

 




 『アホ?言ってることわかる?』


 暫く俺が後ろから着いていく。

 すると女の子は振り向き、そう言った。


 彼女が俺の方を見たのは、初めてだ。

 それまでは俺を見ずに何かを言っていた。


 

 というか、何か不機嫌そう。

 いつまでも付けていた上、何を言われても頷いていたことがダメだったのか。

 それなら、後少しだけ待って欲しい。

 今頑張っている。

 

 次の瞬間、彼女はずっこけた。

 

 『ゴホッ!!』

 

 「だ、大丈夫!??」

 

 俺が走って近づくと、彼女は手で制す。

 そして、こちらを向いた。


 『••••••こなくていい』


 女の子は顔を少し赤くしている。


 その反応を見て、ようやく気付く。


 俺も女の子も裸だった!

 魔力を動かしていると寒さも感じなくなるから、俺は服を着ていない!


 野生生活が長くて、完全に忘れていた。

 股間は隠さないと。


 『あぶない!!』


 突然女の子は叫び、俺に飛びついてくる。

 転んでいた状態だった為か、その飛距離は五十センチほど足りていない。


 「?」

 

 何がしたかったんだ?

 状況を把握するため、周りに意識を向ける。


 「やばい。死ぬとこだった!」


 俺の側面に、赤い爪ヒグマが突撃してきていた。


 あと一メートルで、赤い爪の先端が俺に接触しそうである。

 彼女はこれから俺を庇おうとしていたのかも。

  

 女の子の言葉と、魔法に意識を向け過ぎていた。

 それに俺は魔力を動かしていなかったから、ヒグマが来るとは思ってもいなかった。

 多分魔法に反応したのだろう。


 「でも大丈夫!余裕!」


 一切問題なし!

 俺も長年の放浪生活で、かなり成長している!

 

 まず、持って来ていた木の枝に魔力を流す!

 こうする事で枝がより硬く、よりしなやかになる!


 それと同時に、体内にある魔力も動かす!

 この時、なるべく最大限の魔力が動くようにすれば、よりgood!


 次に!!木の枝を構え、ジャンプをする。

 足を上に!頭を下に!


 最後に!

 ヒグマが突っ込んできた拍子に、頭へ枝を突き刺す!

 これが対赤い爪ヒグマの必勝法!

 長年観察した成果だ!!

 

 「これで!節目の千五百匹目!!」

 

 飛んで体を反転させる途中に、彼女の方をチラ見する。


 彼女は俺のせいで、不快な思いをした。

 その感情をこの良い感じな倒し方で、少しでも無くしてもらえないだろうか。

 

 『とめた。よけて!』


 「?」


 彼女は叫ぶ。

 何を言っているか分からなかった。


 なのであまり気にせず、ヒグマの方を向く。

 ヒグマは俺が最後に確認した位置から、全く動いていなかった。


 「やばい」


 俺は頭から地面に突っ込む。

 直後ヒグマは動き出し、長い爪を俺の腹に当てた。


 爪が腹筋に刺さっていく。

 最初と比べ、より多くの魔力を動かせるようになった為、いきなり貫通はしていない。


 だからか、ヒグマは木が生えている方向へ走り出していた。

 俺を木に押し付け、より深く刺すつもりだろう。


 「油断した。また死ぬ••••」




 走馬灯か、過去の記憶が頭に浮かぶ。


 あれは俺が五歳の時だったはず。

 公園で遊んでいると、十歳ぐらいの男の子が俺に絡んで来た。

 そして何やかんやあり、男の子は俺を殴ろうとしたのだ。

 

 この時、姉ちゃんが俺を庇った。

 昔の姉ちゃんは、俺をかなり嫌っていたはずなのに。


 

 夕方、姉ちゃんに手を引かれて家に帰る。

 俺は姉ちゃんに、何故庇ってくれた聞いた。

 すると、姉ちゃんはこう言った。

 

 「弟がやな目に合ってるのに放置したら、良い気分でいられない。それだけ。帰るよ」

 

 何故、急にこれを思い出したのだろう。

 白い女の子も俺を嫌っていたっぽいのに、庇おうとしてくれたから、かもしれない。



 女の子の事をより、知りたくなった。


 けれど、俺はもう死ぬ。

 これらは意味ない思考だ。


 『••••『光線(レイ)』』


 光るレーザーが、ヒグマの頭を貫く。




 

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