第二十一話 直談判
「••••なにこれ」
騒ぎに聞きつけたホワイトも、その嘔吐物を見て立ち尽くす。
一方俺はこっそり服を着替え、移動の邪魔になるそれの掃除を手伝う。
「これ!あれよね!嫌がらせじゃない!?酔ったあいつをこの近くで見たもの!」
「••••も、問題、ありません、おきゃく、さま、全員から、一泊二千五百円を、一昨日いただけた、ので、それ、でなんと、かすれば」
男の子は泣きながら、こう言う。
?。
あいつとは?
誰だろう。
「?。酔っ払いの人が吐いちゃったレベルではあるし、たまたまだよ。そんな気に留めなくて良いんじゃない?」
「そんな事ないわよ!!ホワイトちゃんも見なかった!?あいつ!」
「••••みてないけど、ちかくにいる。こっちみてる」
「やっぱりあいつのせいじゃない!!今度こそボッコボコにしてやる!行くわよ!大空!」
え?
俺?
「す、少し待って。証拠も無いのに私刑をするのは駄目というか。あっても駄目だけど。もし犯人が居るなら、通報して警察官の人に頼むべきだって」
「警察が動かない程度の嫌がらせするって言ってたじゃない!それに!なんとも思わないの!!?こんな子供が嫌がらせされて泣いてんのに!!行くわよ!」
「そ、そうなの?けど、それでも暴力に訴えんのは、、ぐえ、な、何が起こるか、分からな、ぐえ」
イリカは俺の襟元を掴み、引っ張る。
昨日買った俺の服が。
伸びる。
「あっちにいる。あいつ」
ホワイトは、街の中心部を指差す。
やはり、さっきから乗り気だ。
「ありがとう!ホワイトちゃんも一緒に来るの!?」
「うん」
「そ、それなら、俺もい、いくから、手を離して、、おーい、、ぐえ、」
「行くわよ!!ボコボコにしてやる!!」
—-
「ボス、三人の客が今出て行きました。追い出す作戦は成功です」
「良くやったな。若頭。お前のギリギリ警察を動かさない嫌がらせを行う技術には感服する。陰湿で笑えるな」
「••••ありがとうございます」
三人である男性を陰から監視する。
彼は俺をナンパした人だった。
その人は路地裏でトランシーバーに話しかけている。
「勇者連盟直轄の街の土地は反勇者同盟に高く売れる。絶対俺達の所に売りに来させろよ。これが成功したらお前の時給も210円にupさせてやるぞ?」
「はぁ。どうせ忘れたとか言いますよね。それより、拠点に帰って万能薬、だったかを貰っても良いですかね。何故か股間が非常に痛くて」
「あれはただのサプリメントだ。なのに万能薬と付けるだけで馬鹿は引っかかる。笑えるな。ボロ儲けだ。まあ、二日酔い用の薬は探しといてやろう。あと十秒で転移だ」
ボス?が最後にそう言った直後、トランシーバーから魔力が溢れ出した。
その魔力は若頭をあっという間に包む。
「いそいで。魔力がでてる」
「ボスの所に移動するのかしら!?あの男が転移?する前にボコって、大元の居場所も聞き出して!ボッコボコにしてやるわ!」
「ぐえ、また引っ張る」
イリカは俺の襟元を持ち、男性へ猛スピードで飛びかかる。
イリカが、男性の背中にぶつかった。
男性は吹き飛んでいく。
壁に激突し、男性は泡を吐いて気絶した。
「やりすぎ」
ホワイトは呆れたように、そう言う。
何やってんだみたいな顔をしていた。
一方、俺は急に襟元を引っ張られたせいで、亡くなる寸前のカエル見たいになっていた。
「ち、違うのよ、、ぎりぎりで止まろうと思って、、」
「もうちょっと、てかげんして。けど、さわった瞬間、こっちにも魔力がきた。さわり続ければ転移についていけるはず」
「よ、よかったわ」
二人は、壁に埋まっている男性の肩を触る。
魔力が二人の体に伝搬する。
イリカに持たれている俺にも、その魔力が少し広がった。
突如景色が変わる。
鉄で出来た通路に、俺は一人で座り込んでいた。
—-
イリカとホワイトは、いつの間にか鉄の通路に立っていた。
横には気絶した男も倒れている。
「ここはどこ!!、ってあれ?大空は!?」
「••••••ちはるは、遠くのつうろ。やっちゃった」
「や、やっちゃったわ、、無理に引っ張ったから、、」
イリカは反省しながら、辺りを見回す。
ここの通路は全体が鉄で出来ており、壁にはいくつもの管が通る。
更に所々には、鉄で出来たドアも設置されていた。
「三人の侵入者だ!ここならまだ隠蔽出来る!通報される前に、全員殺せ!!」
突如、ボスと呼ばれていた男の怒鳴り声が、通路内に響く。
これを聞き、至る所から人の走り出す音が出始めた。
「あそこ。なんか出てくる」
ホワイトが近くの扉を指差す。
突如、扉はシューと自動で開いた。
そこからは巨大な銃を両手で持った男が、出て来る。
「あいつは!大空をナンパした時の連れ!」
「わー。若頭をはなせー」
銃口がピカっと光る。
イリカはつい目を閉じた。
「え、なに!急に!」
そのイリカが目を開けると、光るレーザーが止まっていた。
ほんの近くで。
「これ『光線』。とめた」
「れ、レイって、、大空が私との決闘で使っていたやつじゃない••••」
足を打ちぬかれ敗北した苦い記憶が、イリカの脳内をよぎる。
しかしイリカは師匠との修行の経験から、その対策も思い付いていた。
「二発目ー」
「でも!そうはさせないわよ!」
一瞬で男の隣に移動したイリカは、腹を殴る。
男は吹き飛び、壁にめり込む。
これでも、ギリギリ男は意識を保っていた。
今回、イリカは手加減に成功する。
「やられる前にやる!これ大事よ!」
「ボスはどこ。いって」
イリカが叫ぶ横で、ホワイトは男の目を見る。
男は首を振った。
「教えるわけなー」
イリカが横の扉を拳で叩く。
鉄の扉が粉砕された。
「話します。あそこの角を右曲がって、近くの階段を登って左に曲がって」
「覚えてられないわ!来なさい!そして待ってなさい!ボス!」
「ごほ、そこ掴まないで、息が」
イリカは男の襟元を掴み、引きずっていく。
ホワイトもそれを追いかける。
二人は鉄の通路を走り続ける。
「ぐえ、次の角、右」
男は引きずられながら、そう言う。
かなり死にかけの呼吸だった。
「お、大空は、大丈夫かしら?相手はよく分からない武器を使ってくるわよね、、」
「••••だいじょうぶ。元気にうごいてる」
「••••••無理やり連れてきちゃったし、、無事で何より、、」
「••••うん」
「次左、、」
二人は左に曲がる。
銃を構えた女がいた。
「喰らえ侵入者め!あれ?なんか出な、ごひゅ」
女は壁にめり込み、気絶した。
二人はそのまま走る。
「中々、広いわね、、中々••••意外と辿りつかないわね、、」
思ったより、この施設が広かった。
イリカ達はもうすでに十分以上走り回っている。
そのせいで、最初のテンションは維持出来ていない。
(私がお姉さんよね••••何か話さないと••••)
「け、決闘、良かったわね、、このタイミングで、、話すこと、じゃないけど、、」
「••••••ごめん。魔法むりっていって」
ホワイトは申し訳なさそうに、こう返答する。
想定外の発言にイリカは頭がこんがらがった。
「え?え、えっと、あ!あの事!全然、全然、気にして無いわよ!!」
「••••むしんけいだった。ごめん」
「き、気にしてないわよ!全然!事実だもの!でも私には武術があるわ!ホワイトちゃんのお兄さんと師匠に褒められるぐらいの!教えて貰っただけでも!」
走りながら、ホワイトに語る。
だが、ホワイトの顔は浮かばれなかった。
「••••それ、うそ。わたしとちはるは、兄妹じゃない」
また申し訳なさそうに言うホワイト。
イリカはより混乱し始めた。
「え、あんなに仲良しなのに、?そ、そういえば、瞳の色以外全然似てない、、わね?で、でも!他人なのに一緒にいれるのは良い事よね!良い事!」
「••••••わたしは、ちはるがすこしへんで••••••さびしそうだから••••••ふたりでいたい••••だけ」
小さい声で、ホワイトは呟く。
思ったより深刻な反応で、イリカは何も言えなかった。
「••••ぎゃくにイリカはなんでちはるに寄ってきたの?ちはるにまけて泣いてたのに。ずっときになってた」
「え、その、あの、大空に無理やり決闘挑んで、謝りたかったから、、、」
「••••それだけ?」
イリカはホワイトに真っ直ぐ見つめられる。
綺麗な顔で、イリカはより動揺した。
「え、あの、、決闘した後、、、支えてくれたから、、、嬉しくて、、」
「••••ちょろ」
「ちょ!ちょろ、ちょろい、、ちょろい、、そ、そんな事無いわよ!大空が警戒心抱きづらい顔をしてるから!それもあるから!あるから!」
ホワイトは目を見開く。
やってしまったと言いたげだった。
「••••イリカはちょろくない。めんどくさい」
「面倒臭くもない!!なんか、、あれよ!あれなだけ!あれなだけなはずよ!」
「喰らえ侵入者、ぐえ」
やってきた男は、壁にめり込んだ。
男は銃を構える事すら出来なかった。
「次•••右。近いです、、」
「ちょろは置いといて!ボスの部屋に近いらしいわ!亜紀くんの宿屋の為!辞めさせるわよ!」
「わかった」
「ここ•••がボスの••••部屋です•••」
引きづられてきた男は最後にこれを言い残し、気絶した。
直後、イリカはボスの部屋への扉を蹴り破る。
「なかにひとりい」
ホワイトは目を見開く。
中央の椅子に座っていた32歳ぐらいのボスも、同じ顔をしていた。
ボスの部屋は扇形で、それの円の部分がガラス張りだ。
更にボスの後ろには、いくつもの文字を表示している板が三面鏡っぽく設置されていた。
「よ、よう侵入者共!お前らの快進撃もここまでだ!このボタンを押せば!Sランク冒険者相当の力を持つぐらいの超貴重アーマーを装着可能!ぎゃあ!!」
ボスはイリカに蹴られ、壁に激突する。
ボタンもイリカの足によって、踏み潰された。
「亜紀くんの宿から手を引きなさい!あの子は一人で頑張ってるのよ!!それを金のために邪魔するなんて!最低よ!!!」
イリカはボスの胸元を掴み、そう叫ぶ。
ボスは手を大きく振り、イリカの手を放させようとする。
「ま、待て!ちょっと待て!約束、約束する!お前らが今日の事を警察とか勇者連盟に通報しないって約束すんなら!約束する!」
「なんで!そこまで気にする必要があるの!!こんな人を殺しに来る迷惑な組織!一緒に通報もするわ!!」
「い、いいのか!?俺はな、生活に困ったやつを何人も雇ってるんだぞ!だが、通報されたらそいつらも捕まるんだ!この組織は反勇者同盟に関わってる!それで捕まったら死刑になるかもしれないんだぞ!!いいのか!?」
イリカが止まる。
そこまでイリカは考えていなかった。
「••••うそのかのうせいもある。きにしないで」
ホワイトはボソっと呟く。
これを聞いたボスは、笑みを浮かべた。
「はは。真実さ。宿にクレームをつけていた男がいただろう。あいつは孤児でな。俺が拾ってやったんだ。お前らが引きずってきたやつは虐待親から命からがら逃げてきたのを、俺が衣食住付き時給100円で雇ってやった。聞いてみてもいい」
言い聞かせるように、身振り手振りボスは大声で語る。
イリカはショックを受けた顔になり、ホワイトは微妙な顔になった。
それを見、ボスは笑みを深める。
「お前らはよ!特に関係のないガキを助かるためによ!何人も死刑に出来んのか!!おうおう!出来ねぇなら、ここを破壊した分の慰謝料も出せよ!!借金してもよ!反勇者同盟からここの設計図と取説を貰うのにとんでもない値段してんだぜ!おうおう!」
胸元を掴まれたボスは急に早口で語り出す。
楽しそうだった。
「そ、それは••••」
「••••わたし達とはかんけいない」
「これも正当防衛!そっちが銃で狙って来たから!セーフ!!」
突如、ドコォンと言う音が、ボスの部屋に響く。
その部屋の壁が粉砕されていた。
これで空いた穴から、人が一人飛んで来る。
彼はボスの部屋の壁にぶつかり、倒れ込む。
イリカが空いた穴の方を見ると、拳を構えた千晴がいた。
「あ!ホワイト!無事で良かった!それで、所で、この倒れている人は誰?敵だったりする?」
「••••ここのボス」
「そっか。じゃあ気絶させた方が良いね。やっとくよ」
千晴はボスの方を見た。
ボスは一気に冷や汗を流す。
「お、俺は、何人もの不幸なガキを」
「言い訳は留置所で!正当防衛キック!」
ボスは頭を蹴られた。
そのまま、気絶する。