第二十話 一日に何回会うんだよ
「やっといた。師匠の所にいるなんて」
遂にイリカを見つける
イリカは冒険者ギルド裏の空き地にいた。
そこで、フードを被った師匠と殴り合う。
「どうした!動きが鈍くなってんぞ!」
「分かってるわよ!!そんな事!!」
師匠に蹴られ、イリカは壁にめり込む。
しかし壁から直ぐに抜け出し、また殴りかかっていく。
俺はそれを近くの建物の陰から、覗いていた。
「••••所で、どうするか。師匠もいる」
まだ俺は女装姿だった。
師匠にもバレたくない。
ならば、一旦待ちだ。
修行が終わったタイミングで行こう。
出来る事なら誰にもバレたくない。
「何しているの!!?大空千晴ちゃん!!」
「うわっうおっ」
突然、後ろから話しかけられた。
つい、腰を抜かす。
後ろの人は本当に唐突に現れたから。
魔力感知にも全く引っ掛からなかった。
「半日振りだね!女装して!覗きをする大空千晴くん!キミじゃなかったら通報する所だったよ!」
「あ、あの、それは、辞めて欲しいです、、」
後ろを見ると、黒田がいた。
黒田と会うのは、今日だけで三回目だ。
かなり縁がある。
それより、見られてしまった。
趣味で女装しているのが。
どうすれば。
言い訳しないと。
「動揺しちゃって!大空千晴ちゃん!可愛っいー!」
黒田に頭を撫でられた。
その手を跳ね除けながら、考える。
どうしよう。
まだ誤魔化せたりしないかな。
少しあれだが、嘘を付いて。
「••••な、何か用ですか?私も用事があって、、初めて会う人とは、、少ししか話せないですよ、、」
「まあ、まあ。そんな事言わずに。ボク、君に聞きたいことがあるんだよね。これに答えてくれないと通報しちゃおっかなー」
「つ、通報、、また通報、、」
通報は、流石に不味い。
女装して女性にプレゼントを渡そうとしている俺は、高確率で捕まる。
お金もほぼ宿代しか無いし、やばい。
「わ、分かりました。聞きます、聞きます。何ですか、?」
「えーー。そっちから聞いちゃう?えーっとねー」
何か黒田は溜めてくる。
とんでもない事を言われないと良いが。
「よくキミはあの時、焼き肉を買ってくれたね。ボクはキミに嫌がらせしていたじゃん。そこが不思議でボクは夜も眠れないよ」
セーフ。
大した事のないものだった。
本当に深い理由はない。
「自分がかなりお腹が減っていて。それに連れが妙に冷たかったので、自分が追撃をかけるのも良くないかなと」
「••••ふーん。そう」
黒田はゆっくりとそう呟く。
?。
「••••ま、キミがホワイトが冷たい云々を気にする必要はないよ。ボク達はホワイトの森を攻撃していた側だから。初対面で嫌われるのは必然」
「!!。ホワイトの森は攻撃されてたんですか!?一体誰に?」
衝撃を受ける。
これは初めて知った。
もしかして故郷の森を滅ぼしたのも、黒田達だったりするのか?
「あれ?知らないの?結構一緒にいた感じなのに?」
「はい。滅んだ森の事をわざわざ聞くのはあれかなと」
親しき仲にも礼儀ありで、あまり触れないようにしている。
明らかにやばそうな部分だ。
「ふーん••••じゃあさ。大空千晴君はこの事について知りたい?」
「はい。出来るなら、ホワイトの故郷の森のことを教えて欲しいです」
「そしたらさ。敬語はやめてよ。敬語だとちょっと話しづらいからさ。買ってくれたお礼したいかも」
黒田は少しニヤニヤしながら、こう言う
それなら、やってみよう。
「分かった。辞める」
「ま。教えないんけどね!キミに教える義理がない!知りたいなら直接聞いてよ!話したく無い過去を勝手に探られるのは誰でも嫌でしょ!」
「た、確かに」
黒田に正論を吐かれる。
割と通りだった。
残念。
過去を知れれば、ホワイトの地雷に触れる言動を無くせるのに。
敬語無くし損だった。
「でーだ。話飛ばすけど、キミは今、あの、なんだっけ?噂だと、、イルカちゃん?イリスちゃん?を気になっているんでしょ?」
「?。そうですけど••••どうして突然」
「焼き肉を買ってくれたお礼だよ。ちょっとアドバイスをしたいなって。こうしないと彼女、キミのプレゼントを受け取ってくれなそう」
何かアドバイスをくれるらしい。
いつの間にイリカとそんなに仲悪くなっていただろうか。
もしそうなら、色々困るが。
「ま、イなんちゃらちゃんは、キミがいたからこんなになっちゃってるんだと思う。さっきから見てるとね」
「?。そうなの?」
何か変な事をしたかな。
実は観光に置いていった事を、相当気にしていたりするのか。
「多分ね。だからあの子とこれからも仲良くしたいなら、あの勇者とイの会話をちゃんと聞いてあげようね。それから本心でイちゃんへ言ってあげてね。これだけで十分かな」
「?。そうなんだ」
「これで終わり!聞くも聞かないもキミ次第!この考察が間違ってたらごめんね!」
黒田は笑顔になった。
更に手を振って来る。
「じゃあっねー!ボクよりホワイトのことを知らない千晴くん!」
そのまま、黒田は薄暗い闇の中に消えていく。
もう何処にもいない。
とりあえず、冒険者ギルドの裏へ目を向ける。
そこでは、イリカが地面に倒れていた。
「どうしたオルキデ。実地研修の時と比べても様子が変じゃないか?どうした」
「••••なんでも••••ないです」
イリカは息も絶え絶えに、そう言う。
師匠は眉を顰めた。
「いや、どう見ても何でもなくはないだろ。今日は辞めだ。やめやめ。休む時にしっかり休まないと、ちゃんと強くなれないかんな」
「や••••やらせてください」
「••••お、おう••••••やる気ばっちりだな••••ちょっとそこ座って待ってろ。「神速」」
師匠は消えた。
少しするとイリカは起き上がり、体育座りをする。
そして、ネックレスに付いている黒い石を握り、グスグスと泣き始めた。
顔をひざに押し付け、それをする。
???。
黒田曰く、これは俺のせいっぽい。
???。
理由が分からないけど、今がお礼をするチャンス!
行くぞ!
「あ、あの••••大丈夫ですか?」
「••••なに?••••誰よ••••」
イリカは俯いたまま、呟く。
ここでさっき買ったハンカチだ。
偶々ハンカチにしておいて良かった。
お礼としても渡せそう。
「これ、ハンカチです、、あげます」
「••••いらないわよ••••誰あんた」
俺を見ずに、イリカは断る。
駄目だった。
少なくとも、これは黒田の予想通りだ。
だが、まだ何を言うべきなのかも分からない。
それなら次はこの作戦に行く。
「••••じゃ、じゃあ、、私の胸で泣くのはどうですか?ほら!今なら空いてますよー!私の胸!悲しいなら良いですよー」
コートをパカパカ開いて、胸が空いていることをアピールする。
女装はバレたくはないが、行けないだろうか。
これでホワイトも慰められたし。
イリカはこちらをチラッと見た。
「何?何よ?胸もな••••ってえ!」
「「神速」!おーい、戻って来たぞ!••••って、、マジか••••」
不味い。
師匠が帰って来た。
そして、イリカにも師匠にも気付かれたような。
「ま、まあ、そういう趣味もあるよな。うん••••で、オルキデ。お前は大空に劣等感感じてんのか?」
師匠は平然と会話を再開した。
俺を視界に入れてもいない。
これは逆にセーフだろうか。
そんな訳はない。
どうしよう。
「そ、そんな事ないわよ」
イリカはチラチラと俺を見る。
俺は目を逸らした。
「合ってる。オルキデ。お前は成長速度が大空に比べて遅いし、魔力も無いから伸び代もないって思ったんだろ」
「そ、そんな事••••」
「馬鹿か。お前には伸び代しかねぇから弟子にしたんだろ。オレは大空への教え方は分かる。だがな。お前の武術の真髄?はどう使ってんのか全く分からん。お前が育たないのはオレが原因だ」
「••••私は教わっただけ••••それに武術の真髄は大空も使えてて••••」
「オレも多分大空も直で体験すりゃあ、ほぼ即出来る勢なんだ。そんなオレらも武術の真髄?はお前と全く同じ動きをしないと使えない。実際、大空はあれ以来一切使ってないからな」
師匠はイリカの目を見る。
一方、イリカは少しまた俯いた。
「お前らはな、オレより才能があるから弟子にしたんだ。勝手に自分を過小評価すんな。そしたらオレはどんだけ雑魚なんだよ」
「••••••••••••••大空は、能力も••••魔法も••••魅力もある••••」
「おう。お前には武術があんだろ!?気にすんなよ!」
「••••••家族も失ってて••••••私もそうで••••でも、力が欲しいって目的にも一筋で••••」
「オルキデはちゃんと修行してる!気にすんな!気にすんな!」
「••••でも、私は、違くて••••悩んでて••••」
俯きながら、ボソボソとイリカは言う。
急に、師匠は青筋を浮かべた。
「でもでもうっせぇぇぇ!オレはお前の母親じゃねぇよ!メンタル面は対応外だぞ!つか重ぇよ!お前ら一昨日が初対面じゃねぇか!いつの間にそんな仲良くなったんだよ!」
「••••••」
イリカは無言になった。
また膝に頭を押し付ける。
これを見、やべっと言う顔をした師匠。
「ほ、ほら、大空はな。昨日の夜もオレんとこに訓練しに来たんだよ。そこから朝まで訓練しててな。そのくせして、今日平然とこんな事してんだぜ。ぜ?」
「••••••」
「大空はこんな自由な生き方をしてんだよ。お前も同じ事すればいいだろ?だからオレはそんな気にしなくていいと思うぞ。な?」
「•••••」
イリカはまだ無言だ。
師匠はやっちゃったという顔でイリカを見る。
もしかして、黒田はこのタイミングで何かしろと言いたかったのだろうか。
分からないが、本心を語るべきっぽい。
仲悪くなるのは色々困るし、言おう。
「わ、私は一人一人、その人だけの良い点があると思っていて、、だからあなたにも自分で気づけて居ないだけで、本当に凄い特徴があるんじゃないかなって、、だからそんなに卑下しなくとも••••」
「••••めっちゃ当たり前の事いいだすな••••」
「••••••そんな事言われても••••」
やばい。
何か微妙な反応。
これじゃなかっただろうか。
一応本心だったのに。
だったらゴリ押してみよう。
「あなたは凄いと思います!凄い!武術の真髄とか凄い!真髄だし凄い!私も使えるようになりたい!」
「••••••そ、そうだな」
「••••••そう••••」
「失礼しましたー!ごめんなさいー!!白い子供があなたを呼んでいましたーー!!」
俺はこう言い残し、走って去る。
ゴリ押しも駄目だった。
師匠は頑張って下さい。
「私も、、帰るわ。し、師匠も、、慰めてくれて、ありがとう••••」
「お、おう。オルキデ。元気出たならよかった」
—-/
「ま、待って!」
逃げ去る俺に、イリカは叫ぶ。
一応、立ち止まった。
「な、なんですか?何か用ですか?」
もうプレゼントを渡す以外のミッションは終わった。
これ以上ボロを出したく無いので、早く帰りたい。
「••••大空は、なんで力が欲しいの?」
「••••••に、兄さんの事ですよ、ね?兄さんはも、もう失うのがもう嫌だ、みたいなとても安っぽい理由で、力を求めてますよ、、前に聞きました••••」
「••••安っぽくなんてないわ••••いい願いよ••••」
イリカは少し俯く。
ネックレスの黒い石も握り締める。
「••••••力が欲しい理由••••私は復讐。全てを奪われたから••••絶対に許せないって、、でも、冒険者ギルドと••••大空に出鼻を挫かれて」
ボソボソと急にイリカは言う。
復讐か。
「でも、大空と、、師匠は優しくしてくれて••••だから仲良くしたいって思って••••でも、少し一緒にいるだけで、、私の駄目な面が見えて来て••••復讐なんて到底無理で••••取り返せないんじゃって••••」
「そ、それは辛い、ですね••••」
「でも!完全に無駄な考えだったわ!大空は想像以上に変な人だったし!ホワイトちゃんも気にかけてくれてるのよね!私が見えてる面が全てじゃないわ!」
一気にイリカは上を向いた。
声もいつもより元気だ。
「今日はありがと!!ハンカチもね!貰うわ!」
俺の手からハンカチを取る。
そのままイリカは手を振りながら、猛ダッシュで走っていく。
直ぐ見えなくなった。
黒田のアドバイスもあって、色々大成功っぽい。
やったね。
ではない。
イリカにも師匠にも女装がバレている。
いや、まだセーフな可能性が無きにしも非ず。
このまま堂々していれば、あの時の少女は大空千晴の妹だったと信じてくれるかもしれない。
ワンチャンある。きっと。
—-
宿に戻って来た。
大体、朝四時ぐらいだろうか。
「••••••何よこれ」
その宿の前で、イリカが立ち尽くしていた。
街灯が原因を照らす。
「うお。酷いなこれ」
宿屋は嘔吐物に塗れている。
入り口も壁もその近辺の道も。
店員の男の子が、これら嘔吐物を泣きながら掃除していた。
?。