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第十九話 特攻の勇者vs自称覇王





 「始め!」


 始まった瞬間、師匠は走っていく。


 そのスピードは俺が見えるギリギリのスピードだった。

 魔力感知が出来るようになっていなければ、多分見えなかっただろう。

 

 それを見、大男が拳を構える。

 拳には魔力が流れていた。

 

 「『凄い風(ゲイル)』拳」


 空気が割れた。

 爆発が起こる。


 「おおっと!出ました!ハ•オウ選手の十八番!常人流奥義の「空砲」と自らに向けた『凄い風(ゲイル)』の激突!それによって発生した爆発での攻撃!!これが『凄い風(ゲイル)』拳だ!!結界が貼られていなければ、観客席にまで被害が及んだでしょう!」


 「常人流の奥義と『ただの風(ウィンド)』系列の魔法が激突しただけではこうなりません。ハ•オウ選手の研究と修練あってこそでしょう。しかし、その難易度と比例するように、威力も非常に高いですね。今回は爆発の衝撃波での攻撃でしたが、爆心地にいれば肉の塊間違いなしでしょう」


 後から砂煙が起きる。

 縦百メートルはあるステージの、ちょうど半分がそれに包まれた。

 相当凄まじい威力だ。


 少年の言う事を信じるのなら、これと同じSランク冒険者が3718人いるらしい。

 何か凄いね。


 「覇王!覇王!無敵の覇王!!わざわざ自分に魔法ぶつける必要なくない?とか言われてたのに、漫画の修業を真似し続けたら出来るようになった覇王!!」


 「あれすごい!!爆発も凄いわ!!構えも過程も全く隙がないわ!!」


 観客席全体が、これで盛り上がる。


 それは関係者席も例外でなく、隣の少年は興奮しながら虚空を殴り始めた。

 さらにイリカも身振り手振り話しかけてきてくる。

 

 「あれは風まほう」


 ついでにホワイトも早口でこう言う。

 すこし口角が上がっていた。

 

 「そっか。だったら俺が能力であの人の魔力になれば、風魔法を使えるのか」


 「もとのちはるも頑張ればできる」


 こんな風魔法を、通常の俺でも使えるらしい。

 あれが使えるのなら、やったねって感じ。

 かなり修練も必要と言っていたけど。

 

 「?。あれ?要は元の俺にも風魔法の適性があるって事?」


 「五つのぞくせいの魔法はだれでも使える。そのかわり、とくべつな魔力の動かし方があるから、光魔法とかより難しい」


 「?。前、魔法は適性ないと使えないって」


 「てへ。それうそ。わたしも今日しった」


 ホワイトが自分で自分の頭を叩く。

 何かいつもよりテンションが高い気がする。


 というか、五つの属性の魔法という概念自体も初めて知った。

 後で、調べておこう。


 「ね!ホワイトちゃん!ならもしかして!私も魔法を使えたりするの!?」


 「むり。イリカは魔力ないから」


 「そんな」


 「おおっと。月下烈選手!ハ•オウ選手の背後に突如現れた!そして、ハ•オウ選手のパンチを避けながら、乱打!乱打!乱打!!」


 実況の人が、叫ぶ。

 俺とホワイトはステージに目を向けた。


 「勇者流三大奥義の一つ、「神速」ですね。肉体と魔力の同時操作によって生じる破滅的加速で移動する技ですね。ですが発動に一瞬のタメも生じる上、動きも直線的と弱点も多い。それで攻撃を避けられるとは。流石の一言です」


 謎の瞬間移動をしながら、師匠が大男を何度も殴りつける。

 それを大男は何とか防いでいた。


 「おおっと!遂に体勢を崩した!モロに食らったぞ!ハ•オウ選手!このまま押されて終了か!??」


 「覇王!覇王!負けるな覇王!街中の人に聞いてみたら九割に負けるだろと言われた覇王!諦めるな!」


 「『凄い風(ゲイル)』拳」


 「「神速」」


 大男は体勢を崩しながらも、無理やりパンチを打つ。

 その直前、師匠は消えた。


 直後、空気が割れる。


 「『凄い風(ゲイル)』拳、『凄い風(ゲイル)拳』、『凄い風(ゲイル)』拳」


 「ハ•オウ選手やけくそかぁ~~~!!?周囲一面に『凄い風(ゲイル)』拳を乱打し始めたぞぉ!!」


 「非常に合理的な選択ですね。「神速」によって避けられるなら、避けられる場所を無くせばいい。それだけです」


 爆発が起きるたび、砂煙が増えていく。

 師匠はどこにいるか分からない。

 大男がまた拳を振りかぶる。


 突如、師匠が大男の目の前に現れた。


 「『凄い風(ゲイル)』拳」


 師匠が、拳と爆発に直撃する。

 その腹の大部分が、消し飛ぶ。

 多くの血が、飛び散った。


 「ははは!!やっぱ実際食らうと、分かることが違うな!「勇気」がなけりゃあ肉片だったぜ!」


 そのまま師匠は拳を振りかぶる。

 一方、大男ももう片方の拳を振おうとした。

 

 「『凄い••••」


 「『凄い風(ゲイル)』拳!!」


 空気が割れた。


 大男は猛烈なスピードで吹き飛ぷ、

 全身は血だらけになっていた。


 「まだ威力が甘いか。魔力で補正かけてこれ。まだまだだな」


 大男は壁にめり込んだ。

 気絶している。


 「決着~~~!!圧倒的早さでの決着!!なんと言う強さ!何という才能!この戦いの中で、『凄い風(ゲイル)拳』を真似てしまうとは!!」


 「衝撃を隠しきれません。流石は戦闘部門の勇者と言った所でしょうか」


 「覇王!!覇王!予想通り負けた覇王!!勝った時のコメントを考えてたのはなんだったんだ!!」


 「すごい」


 「確かに凄いね。見せ物としてはちょっとグロい気もするけど」


 「か、勝ったわね、、」



—-




 闘技場での観戦の後。


 俺とホワイトは古着屋で服を買い、もう一度図書館に行って宿に帰って来た。

 更に近所の銭湯へ行き、宿で夕飯を食べる。

 そして、現在部屋にいた。


 これらはイリカと行っていない。

 イリカは決闘が終わると、用事があると言いどこかへ消えた。

 そして、まだ宿に帰って来ていないっぽい。


 「決闘おわったら、なかよくあくしゅするのもいい」


 ホワイトはさっきから決闘の話ばかりしていた。

 何か、相当気に入ったっぽい。


 それならば、俺も決闘観戦を趣味としてみるのも良いかも知れない。

 様々な戦い方も見れる。


 まあ、少し野蛮気味で、まず姉ちゃんには言えない趣味でもある。

 決めるにはまだ早い。

 他にも、色々やってみよう。


 「そうだね••••少し関係ないけど、これから着替えて外出するわ。ホワイトはちょっとあっち向いてて」


 「••••また?それに裸なんていつもみてる」


 反論しづらい事を言われてしまう。


 しかし、これは余り見られたく無かった。

 そのような人でも無いのにこんな事をするのは、一般論的に変だ。

 ゴリ押すしかない。


 「ごめん。あっち向いてて。本当にお願い」


 「••••わかった」


 ホワイトがそっぽを向く。

 ゴリ押し、成功だ。


 その隙を見て、急いで着替え始める。

 上には半袖の白い服、下には黒い長めのスカート。

 ブカブカの茶色いコートを羽織って、最後には首元にチョークをまく。


 女装だ。

 

 「ありがとう!そしたら行ってくる!!」


 「もしイリカみかけたら、わたしがようあるっていって」


 「了解!」


 魔力を元の俺の物に変え、階段を降りる。

 店員の男の子にバレないよう、コソコソ歩く。


 そうして、宿のドアを開け、外へ飛び出した。


 「夜は暗い••••ん、ゔん。夜は暗い••••わね。暗い」


 せっかく女装したので、女性になり切る。

 まだ俺は若いので、ギリギリ行けるはず。


 声質も歩き方も母さんや姉ちゃん辺りのに近づけた。

 前、蛇吉の声真似をした経験が生きている。


 「綺麗な空、綺麗な空、、ごほん。これで完璧」


 こんな事を考えながら、夜の道を歩く。

 暗闇の中で光る街灯、それに集まる虫、ポツポツある電柱。

 元の世界では余り見ない景色だった。

 

 「うーん。世界は広い」


 更にかなりの開放感もある。

 その感触は、裸で森歩いた時に似ていた。


 予想通りだ。

 ちょっと姉ちゃんに言えない趣味ではあるが。


 ここまで来るのにも、結構大変だった。

 図書館では女装の仕方やファッションを調べ、古着屋では普段着に流用出来る服を買う。

 それに服を買う為、相当お金も掛かっている。


 だが、試した甲斐はあった。


 「それでも、それでも、、大丈夫かな、?」


 この代償として、当然に周囲からの目が気になった。

 結構道行く人達から、チラチラと見られている気もする。

 もしかして駄目だっただろうか。

 

 「お。そこの女ー。おーい」


 突如、俺はある男性に話しかけられる。


 その男性は、連れの男に肩を持たれた23歳ぐらいの人だった。

 顔が真っ赤でもある。


 「ゲヘヘヘ、嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだい。暇なら俺と来いよー」


 もしかして、ナンパだろうか。

 少し面倒だが、そこまで女性になり切れていた証明でもある。


 まあとりあえず、断ろう。

 

 「すいません。用事があって。失礼します」


 「ダメだー。来い」


 逃げようとすると、男性に腕を掴まれる。

 何か逃がさないようにしてきた。


 所で、これが逆にチャンスな気もする。

 男にナンパされるなんて、女装している時にしか出来ない。


 経験してみる価値はありかも。

 よし。

 ナンパについて行くような大空千晴ちゃんになり切ろう。


 「酔いすぎですよー。若頭ー。今警官呼ばれたらまずいですよよねー」


 「バッカ。夜こんなお洒落して出歩くなんて、男を求める以外あり得ねぇだろ。無ぇよな?姉ちゃん」


 「そ、そんなこと、、そんなこと••••」


 「ほら、否定しねぇ。要はこういう事さ」


 俺は男性に引っ張られていく。


 このまま路地裏に連れ込まれた。


 「ゲヘヘヘ。着いてくるって事はそう言う事だよな。解放しちゃうぜ。理性」


 「わ、私になにする気、なんですか?やめて欲しい、、です」


 「若頭ー。作戦はー?というかー。割とデカいですよーこの女ー。前、年下低身長が趣味だってー」

 

 「うっせぇ!身長なんて酔ってて良く分かんねぇ!顔が整ってれば大体良いんだよ!」


 若頭とよばれている男は、俺に手を伸ばす。

 もしや、服を脱がそうとしてきている?


 本当に?

 そこまで直行で行く気なのか。

 普通、最初にデートをする物かと。


 流石にそこまでは無理。

 ちゃんと断ろう。


 「何やってんの。あんた達」


 上から声が聞こえる。

 何者かが屋根から降りてきた。



 イリカだ。


 「あなた達。そんな事もしていたのね」


 「違う違うぞ。姉ちゃんが俺たちと仲良くしたい風を吹かしていたんだ。吹かしてたよな!?吹かしてたよな!」


 「そ、そんなこと••••そんなこと••••」


 やばい。

 どうしよう。

 不味い。


 「嘘ね。泣きそうよ」


 「ぐぉふ」


 イリカは股間に蹴りを入れる。


 その男性は倒れ込んだ。

 体はピクピクしている。


 「若頭が。逃ーげろー」


 連れの男は一目散に逃げ出す。


 その男を見送ったイリカは、俺の方を向いた。


 「••••あなたも気をつけて。弱くて可愛い子が一人で出歩くのは危ないわ」


 「••••か、かわいいなんて、、そんな、、あの、でも、あの、ありがとうございます」


 「そんなのいいわ。あなたが••••ライバル••••というか知り合いと似てるから助けただけ。じゃあね」


 イリカは飛び上がり、屋根にまた乗る。

 直後、走り去っていく。

 

 


 これは良くない。


 「迷惑をかけましたね。百円あげます」


 俺は苦しんでいる男性の頭に百円を置く。

 一応、慰謝料だ。

 こうなったのは俺が趣味に巻き込んでしまったせいでもあったから。



 次にイリカだ。

 ホワイトの頼みも叶えたいし、ついでにお礼と迷惑かけてごめんなさい的な事もしたかった。


 だが、どうするか。

 普通に正体はバレたくない。

 少し考えよう。

 


 最後に。

 俺の趣味探しに巻き込んで、他人に迷惑をかけてしまった。

 これは色々宜しくないと思う。

 反省。

 



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