第十八話 闘技場
「はやく。あとちょっとで入口。ちはる。いそいで」
「ごふ!わ、分かった、、けど、人多過ぎて圧縮される!」
俺が肩車しているホワイトは、二枚のチケットで頬を叩く。
急かしてきていた。
だか人が多過ぎて、全く進めない。
俺達はある程度本を読んだ後、かなり時間に余裕を持って図書館を出たはずだった。
にも関わらず、入場締め切り時間ギリギリに着きそうだ。
結構油断した。
想定より闘技場を目指す人が多かった。
その量は、かなりの警察官の人が交通整備をしているほど。
ホワイトは身長的に人混みの中だと踏まれそうなので、俺が肩車していた。
「山田いた」
あたりを見回していたホワイトが、突然呟く。
山田?
「?。あの?金が世界で一番大事な?」
「そう。闘技場にいれてくれるかも」
上でホワイトが手を振った。
やばい。
「大丈夫!もう闘技場に入れるから!」
全力でジャンプする。
更に魔力をドラゴンの物に変え、足元に「結界」を貼った。
その「結界」を足場にし、古代ローマの闘技場っぽいここの、二階へ飛び込む。
「どうかした?きゅうに」
「色々あって。流石にあのままだと間に合わなさそうかなって」
多分ルール違反なので、やりたくはなかった。
しかし、山田は話を聞く限り、相当やばい人である。
ホワイトとは余り話して欲しくないし、案内のお礼に何をされるかも分からない。
だから逃げた。
「それで、何処に降りるか。人が多い」
「いっぱい」
それをしたは良いものの、着地場所が無い。
この辺りは壁沿いにびっしりと屋台が並んでいて、それら全ての屋台に何十人も並んでいた。
どうしよう。
人がびっしりで、幸運にも注目は集めていないが。
いや、今一つだけ見つけた。
あの屋台の周囲だけ人が全然いない。
そこに向けて、降りる。
「今降りてきたそこのお客さん!ボクの特製、フワフワ羊肉の焼き肉!是非食べてみない!?とても美味しいよ!」
降りた瞬間、屋台の店員さんが器を差し出してくる。
その器の中には、黒い謎の物体が入っていな。
謎の物体から焦げ臭いが漂って来る。
「あれ。こんにちは。三時間振りですね」
「••••••••」
店員は黒田だった。
黒田は、冷や汗をダラダラ流している。
「図書館ではなしてたやつ?」
ホワイトが俺に、不快そうな口調で質問する。
こんな露骨に嫌そうなのは、結構珍しかった。
本当に知り合いなのか。
このことを聞いた黒田は、衝撃を受けた顔をした。
「え?ホワイト。ボクのこと分からない?今の形態でも?この見た目、覚えない?」
「わたしは大空白」
ホワイトは怪訝そうにそう言う。
それで誤魔化す気なのだろうか。
「え、絶対そうだよね。ホワイト。森で色んな奴と住んたよね?その時の記憶はあるでしょ?」
「わたしは大空白」
「魔力もそうじゃ、、?」
「大空白」
「•••••そうなんだ。大空白••••」
ホワイトのゴリ押しを前に、黒田はボソっと呟く。
ゴリ押し返しをされていた。
哀愁が漂う。
「そ、そろそろ行かない?決闘が始まりそうというか」
「わかった」
これ以上の死体蹴りは余り良くない。
なので、下への闘技場の階段を探す。
一階のチケット確認会場に行っていないから、まず行かねば。
突然焦げ臭い匂いが、鼻に広がる。
黒田が俺へ焦げた物体が入った器を差し出していた。
「なら最後にこれ買って!これだけでも買ってよ!ほら、ボクに同情して!これ五百円だからさ!」
俺達の進行方向の前に立ち塞がり、こう言う。
もはや、ヤケクソだった。
「まあ五百円なら、はい。じゃあ」
「あ。ありがとう」
死体蹴りは良くないし、丁度腹減っていたし、並ぶのも大変だし。
なので焼肉を買って、そのまま俺達は去っていく。
「おい!バイト!何しゃべってんだ!早く売るぞ!」
「はい!分かりました店舗長!」
—-
「観光!楽しかったかしら!?私を放置して行って!」
無事チケット確認会場に行けた俺達は、スタッフによって関係者席に案内される。
そこには、もう既にイリカが座っていた。
「ホワイトが起こしに行ったけど、全然目覚めなかったらしくて」
「そう」
「え、そんなにぐっすりだった、?ご、ごめんなさい、、」
だいじょうぶとイリカに答えたホワイトを、肩から下ろす。
そして、俺も席に座った。
この席からは闘技場全体が一望出来る。
ここは非常に大きく、闘技場のステージだけでも縦百メートルはあるだろうか。
冒険者ギルドのとは、数段レベルが違う。
「ひ、人!人多いわ!師匠って本当に注目されてるのね!」
「本当にね。もの凄い人数が来ている感じ」
更に観客が相当いる。
合計二万人ぐらいはいそうだ。
ついでに言うと、関係者席にも他に二人いた。
こう話した後、焼肉を一口食べる。
焦げた肉は苦かった。
しかし、タレは美味しい。
「食事中失礼ー。そりゃあ、当然だぜ。坊ちゃん嬢ちゃん達」
急に23歳ぐらいの男性が話しかけて来る。
男性は笑顔だ。
どなただろう。
「基本俺達勇者は、あんまこういうの興味ないんだ。だからこの決闘、世間の注目度も高いのよ」
「あの、すいません。どなたか聞いても?」
「おお。すまんなー。こう言う物だ。悪いな。これじゃ不審者だ」
男性は胸元から警察手帳を出す。
そこには、プロテクト市市長兼、勇者連盟プロテクト市部支部長、岩永剛と書いてある。
直後、男性はまた持っている缶ビールに口をつけた。
「でよ。個人的な話聞くけどよ。嬢ちゃん達は烈ちゃんの弟子だろ?風の噂で聞いたんだよ。どうだ修行は?やっぱキツイか?」
この男性は結構偉い人っぽい。
関係者席にいるし、この出された身分は本当な気がする。
ならば大丈夫か。
イリカは何も話さないので、俺が答える。
「そうですね。確かに大変です。ですが、その分強くなれます。昨日初めて修行をしたんですよ。そうしたら、あっという間に魔力感知まで出来るようになって」
「ははっ!そりゃいい!力が無けりゃあ守られるしかねぇからな!坊ちゃん!でも、烈ちゃんも酷な選択をするよ!人は本当にすぐ死んじまうのに!そう、こんな風に」
男性は椅子の上で逆立ちをした。
?。
「避雷針のポーズ!はは!違うな。何やってんだこれ。酔い過ぎた」
男性は自らの頬を叩く。
?。
奇行が多い。
「すいません。岩永支部長。何を遊んでいるのですか?早く戻って来てください」
関係者者席へ、何かスーツ姿の一人の女性が入ってくる。
その人はかなり汗を流していた。
「まだ聞いてくれ坊っちゃん達。待ってくれ副支部長。俺はまだ目的を果たしていないから。これも仕事だから」
「黙って下さい。と言いますか、酒飲んでいますよね。幾ら余裕があるとは言え、仕事中に上がそんなでは下に示しが尽きません。早く帰って来い」
「黙れ、黙れ、、上司に酷い!これぞこれから流行る逆ハラスメント!ごえ」
男性は突然来た女性に襟元を引っ張られ、椅子から引き摺り下ろされる。
その女性は俺達に向けて、頭を下げた。
「こちらの岩永がご迷惑をかけ、誠に申し訳ありませんでした。失礼します」
「お、おーい。邪魔してすまん、坊っちゃん達、、月下に無理やり嫌な事をされたら、勇者連盟支部に電話してくれよ、、俺が相談も対処も受け付ける、、」
男性は連行されて行く。
直ぐ見えなくなった。
「思ったより良い人だったわ••••」
「思ったよりそうだね」
何か変な人が来たとは思ったが。
男性はもしもの時の俺達の駆け込み寺になってくれるっぽかった。
一応有難くはある。
ここで、スピーカーがブゥンブゥンと音を放ち出した。
遂に始まりそう。
「•••老若男女の皆さん!楽しんでますか!!おー!!そろそろ選手入場の時間です!!急遽組まれたこのマッチですが!実況はこの私田中裕三と!解説は南太郎さんが担当します!」
スピーカーから、大音量で実況中継が流れ始める。
何か、凄いね。
興行化している。
「今回は異名持ち勇者で戦闘部門所属の月下烈選手と!Sランク冒険者自称覇王ことハ•オウ選手との戦いということですが!どう見ますか、名荷さん!」
「やはり、月下烈選手が優位に展開する形になると思われますね。勇者連盟といえば冒険者ギルドの親組織。そこに所属する勇者、特に戦闘部門の勇者となると並大抵のものではありません。しかし、一撃必殺を得意とするハ•オウ選手も只では終わらないでしょう。面白い勝負になりそうです」
「そうですね!!では、そろそろ選手の入場です!」
ガタッと言う音が、関係者席から聞こえる。
そこでは少年が立ち上がり、手を振り上げていた。
「覇王!!覇王!!覇王!!全世界3718人しかいないSランク冒険者の内の一人!覇王!覇王!たった45967人しかいない武術協会の師範代!!覇王!覇王!無謀なる特攻の勇者に!白痴たる実況解説の面々に!そして、愚純なる人民どもに!覇王の強さを見せつけろ!!」
少年は突然手をぶんぶん振りながら、大音量で謎の発言を叫び出す。
かなりレベルが高い信者の方だ。
突然、入口近くに火の柱が立つ。
「ハ•オウ選手の入場だ!!」
「我、覇王也」
筋骨隆々な大男が入り口から入場する。
男は片腕を仰々しく掲げ、ピースをしていた。
「ハ•オウ選手はある漫画に登場するキャラに憧れ、これほどまでの筋力を身につけ!覇王を名乗り出したとの事!」
「始まりは漫画とはいえ、あそこまでの筋肉をつけ、さらに維持する為にはどれほどの努力が必要なのでしょう。私には見当もつきません」
「おおっと!月下烈選手!入場だ!」
「おっしゃあ!オレが勝つぜ!!」
また火柱が上がる。
師匠は、ジャンプしながら入場してきた。
「登場シーン凄いわ!!あの男の人も強そうね!!高いレベルで武術を収めてる気がするわ!!」
「そうなんだ。師匠は勝てるのかな」
「でも、やっぱり師匠ね!師匠は基礎がしっかりしているから!」
イリカは手振り羽ぶりそう言う。
ホワイトも身を乗り出して、闘技場のステージをガン見していた。
もしかして、決闘が気に入ったのだろうか。
「両者睨み合う!!」
スピーカーから音声が流れた。
ステージを見ると、師匠と大男が至近距離で睨みあっていた。
割と結構な身長差がある。
元の世界だと大きい差な気がするが。
「我、覇王也。腕輪は使わんのか?」
「いらねぇ。あったら例にならないかんな。無しでやる」
「そうか。ならばその選択、後悔させてやろう」
二人はそう話し、歩き始めた。
五十メートルほど二人は離れる。
しばらく無言の空間が広がった。
「始め!」