第十四話 色々ない
「おもしろかった。決闘。みごたえある。怪我はどう?」
「傷は完全に治ったし大丈夫。趣味にするのは体が痛いしあれだけど」
決闘や明日ある実地研修の解説、などでいつのまにか夕方になっていた。
ツインテールの少女は、オレがなんとかすると連呼する金髪の女性に強制連行される。
ひらめは俺について来ようとしたが、任務があるだろと金髪の女性に引っ張られ、何処かに消えた。
「そうだ。あの闘技場に入ってきた金髪の人。あの人の魔力って、どんくらい動いている感じだった?」
「金髪?」
俺は頷く。
色んな理由であの女性がどのくらいの強さなのか、把握しておきたい。
「おおい。まよわせる結界をはってた時の竜族より」
「本当に?凄いね」
ならば、明日にでも話を受けるべきか。
あの金髪の人は、明後日以外いつでも冒険者ギルド近辺にいると言っていたし。
何か強い人が多いから、早く強くなりたい。
いや、それは後。
今はより重要なことがある。
お金がない。
だから食事も取れないし、どこにも泊まれない。
冒険者ギルドで金が稼げるようになるのは、明日の実地研修後、冒険者カードを受け取ってからだった。
それまでは仮登録という形っぽい。
警察官の人は、教えてくれなかった。
またチラッと路地裏を見る。
ワンチャン、お金が落ちていないだろうか。
「ちはる。別にいい。のじゅくで」
「流石に、流石にそれは。多分8歳と16歳が知らない街で野宿するのは危険過ぎるというか。何かやばいのが出て来てもおかしくからさ」
「わたしはもっと年寄り。だいじょうぶ」
年寄りでもおかしくはない。
ホワイトは警察の人を含む異世界の人達と比べても生態が変だ。
彼らも食事や睡眠は取っていて、色々俺に近かった。
「そ、それでも不味いんじゃない?見た目的に。他人から見て若いというか」
「••••たしかに。いうとおり」
ホワイトは頷く。
納得いってもらえたっぽい。
なので近くにあった路地裏を、チラ見する。
ゴミしか落ちていない。
訳では無かった。
「けど、だいじなお金様が、すてられてるわけない。なにかうろう」
「いやあった!多分お金だ!」
路地裏に、小さくて丸いものが転がっている。
多分硬貨だ。
それを拾い、ホワイトの元に戻る。
「ほんとう?」
「本当だから、警察の人の言っていたことは忘れてくれ!」
そう言いながら、拾った硬貨?を街灯に照らす。
こうして、硬貨をよく見る。
月が、硬貨の裏に彫られていた。
表を見る。
十円と大きく書かれてあった。
「まさか警察を呼ばれるとは、、これが多分資本主義の闇、、」
あれ以降、お金が見つからない。
もう夜になって来ていた。
だから先ほど十円だけ持ち、近くの宿っぽい所に泊まれないか交渉しに行ったのだ。
結果は、必然の全敗。
その上、警察官の人にも呼ばれそうになった。
確かに迷惑だとは思ったいたが、そこまでされるとは。
「やっぱり、お金は無いか••••」
辺りはどんどん暗くなっている。
俺は路地裏を見ながら、街灯や電柱のある道を進んでいく。
ドンドン、郊外へ行っていた。
かなり不味い。
路地裏を見る。
何もない。
やばい。
選択をミスった。
普通に売れるものは俺達にはないし。
どうしよう。
「ないなら、今日はそのへんですごそう。わたしの感知があればだいじょうぶ」
「そうかもだけど。負担を掛けちゃわない?」
「よゆう。ちはるは寝てもいい。何かあっても、わたしがなんとかする」
しかし、百%負担を掛けるのは宜しくないと思う。
それにこの世界では何が来る可能性があるのかも分からない。
家がないのはやばいだろう。
だが、次の路地裏にもお金が落ちていなければホワイトの言う通り、今日はホームレス化しよう。
もうそれしかない。
人里は何をするにも金がいる。
金が無ければ、趣味探しなども出来ようもない。
「分かった。それならこれで最後に••••」
近くの路地裏を覗く。
ボコボコに凹んだ看板が投げ捨てられていた。
これだけだ。
「やっぱりこれだけか、、ん?あれ?お!これ凄い!ホワイト!見てくれ!」
「なに?」
その看板には、宿の広告とその地図が貼られていた。
これを拾い、ホワイトに見せた。
【今ならなんと!一人一泊五円!!なんとお得なんでしょう!泊まるしかありませんね!?その••••】
「これ!見てくれ!拾った十円で泊まれるかも!」
「あやしい」
「ちょっと確認してみない?流石にホームレスよりギリギリ良いと思う」
「あやしい」
—-
看板に従い、宿にやって来た。
この宿は木造の二階建てのまあまあ大きな建物だ。
見た目は至って普通だ。
「あやしい」
「こ、これで最後だから。確認してやばそうだったらホームレスになろう」
「さいごね」
ドアを叩き、開ける。
宿屋の一階が、見えた。
「本日のニュースです。五日前の四天王による護送任務襲撃事件、その報復として勇者連盟は••••」
ここには十個のテーブルとそれに付随する席があり、奥にはキッチンと二階への階段がある。
天井の隅には、ニュースを垂れ流す白黒テレビが付いていた。
そして、キッチンからは包丁がまな板に当たる音が聞こえる。
何か昔の食堂みたいな感じだ。
「イリカ」
ホワイトが突如、椅子に座っているお客さんを指差す。
この宿には、その人しかお客さんがいなかった。
そして、先ほど見たような姿をしている。
「?。あの人と知り合いだったの?」
「ちはると決闘したツインテール。アナウンスでいってた」
あのツインテールの少女は、イリカと言うのか。
始めて知った。
アナウンスなんて、自分達が呼ばれた時以外は基本騒音として処理していたから。
「へー。よく覚えてるね。名前まで」
「うん。魔力なしであそこまでうごけるの、初めてみた、のもある」
「あれで魔力を動かして無いのか。そっか、、」
それなら『停滞』をイリカ自身に使うだけで瞬殺出来た。
怪我する必要も無かった気がする。
つい、イリカは相当量の魔力を動かしていると思い込んでいた。
まあ、瞬殺していたら俺の強さは測れなかっただろう。
セーフ。
「すいません。二人で一泊出来ますか?」
このイリカを一旦スルーし、大きめな声でこう言う。
本当に五円で泊まれるか、それが今は一番重要だ。
「お客さん!??二人も!?大歓迎です!一部屋しか用意できませんが!!近くの椅子に座って、お待ちください!!」
調理場から声が届く。
この声は相当若い男の子のものだった。
そのタイミングで、イリカは俺達の方に振り向く。
目を見開いていた。
直後、椅子を立ち上がり、猛ダッシュで階段を登って行く。
俺とホワイトはそれに首を傾げながら、近くの椅子に座った。
「男の子が一人でやってはいないだろうし、多分あの子はイリカの弟じゃない?だったら多分この宿は大丈夫なはず。一応知り合いではあるし」
ホワイトは頷く。
これも納得いって貰えたっぽい。
ワンチャンに賭けて良かった。
すぐ、ドドドドと二階から猛スピードで何かが降りてくる。
イリカだ。
何か持っている。
そして、イリカは俺に走って近づいてきた。
どうしたのだろう。
「さ、さっきぶりね!大空!これ!受け取りなさい!ほら!!」
挙動不審なイリカから、ガラスの瓶を押しつけられる。
瓶の中には、多くの白い錠剤が入っていた。
「?。何これ?」
「万能薬!!飲んだら疲れを癒せるらしいわ!!あげる!!」
「???。大丈夫です」
「いいから受け取って!決闘!!突然挑まれて大変で!疲れたでしょう!?全財産をはたいたから!受け取って!」
イリカは俺に錠剤を押し付けようとする。
だが、要らなかった。
違う世界のよく分からない薬は、普通に怖い。
イリカの手を押し返そうとする。
「だ、大丈夫です、、あれは自分にも得があったというか、、」
「遠慮しなくていいわ!ほら!なんかどっかの保証もあるらしいわよ、これを毎日飲んで健康になった人も一杯いるって!売ってる人が言ってたわ!」
全く押し返せない。
俺よりイリカの方が力が強かった。
その上、余りにも強過ぎて、俺の座っている椅子も傾き出す。
「い、椅子が。落ち着いて。一旦、落ち着いて」
俺の座っている椅子が、倒れて行く。
突然、その椅子は斜め四十五度で止まる。
ホワイトの能力だ。
「なにやってるの」
急に椅子だけ止まった。
それが原因で、手と手の間から瓶がすっぽ抜ける。
バリィンという音が、周囲に響いた。
中の白い錠剤が、床に転がる。
「あ」
「お待たせして申し訳ありません!お客様!!経営のため?人のために?客のため!!一泊五円の宿屋!癒しの宿のオーナー兼店長兼従業員兼••••?」