第百十九話 No, I don’t
結局、ナバナバさんにライブを成功させる方法を相談することにした。
彼女がどれほど頼れるかは分からないが、やってみよう。
田中と一応、約束している訳だし。
「••••••理解ー!大空さんが絶賛流行り中の狂音コンビの相方だったーとはー!勇者という事で納得はー出来ますねー!」
「??。そんなに流行ってるの?」
「現状に不満のあるアングラ界隈のー!底辺共の中だと神ですよー!CDやテレビ越しでは絶対味わえない!ライブならではの楽しさがあるとー!」
笑顔だが、笑っていない状態で言うナバナバさん。
割と、いえい。
かなり流行っているようだ。
まあ、田中の能力の影響が大きそうではあるが。
「で、人気を出す秘訣でーすか!そんなの簡単簡単!常人とは脳が違う!超天才ナバナバちゃんに任せてーおけー!」
大袈裟に人差し指を振り、語るナバナバさん。
犬耳もピクピクとしている。
すると、閣下は大袈裟に目を見開く。
「なんじゃと!?簡単で画期的な方法!?それは果たして一体!?」
「顔出しすればいーのでは!こんな美少年ー!なかなかいない!」
「いやありがたいのですが、それはもう駄目で。顔を出すとそっちに意識が向かってしまって、音楽性を損ねるらしいので」
その案も出たが。
田中の本来の目的を妨害してしまうと言う事で、辞めておこうとなった。
「使えないの!まだ出せい!ナバナバよ!」
固まり、考え出すナバナバさん。
その足を蹴る閣下。
暫くし、またナバナバさんは口を開く。
「••••••許可なしでー。様々な箇所でライブをしていくのはどうですかー?狂音コンビは、拘束状態にある並のアート市民のー。不満の受け皿となっている側面があーります。よりその側面を強化するのはどうかとー」
「それも無理で。犯罪のような事は出来ないんです。市長さんからやる許可を貰っていて、時間も限られている今の状態でそれをやると、そもそも色々不可能になるというか」
「••••あー。ちっ、あー」
断られ、舌打ちをし。
自分の犬耳をいじり始めるナバナバさん。
何故か俺も少しあれな気持ちになる。
が、考えて貰っていたのを断っているし何も言えない。
「••••使えぬのじゃ。ナバナバ。部下にするには足りていないかのう。態度も悪い」
「••••いや、全然。凄いと思いますよ。偶々こちらの制限が厳しいだけで。よく市民の状況を把握して分析して活かせているというか。もし、閣下が上を目指すのなら、居ても損はないかなと」
「••••••正論じゃ。わしが見えない面でもあるのじゃ、、」
ボソボソと閣下と話す。
一方、ナバナバさんはイラつきながら、未だ色々考えているようだ。
だが、少しだけ不安そうである。
何が彼女を駆り立てるのか。
「おい!ナバナバよ!他の案はないか!出せるだけでも!わしの第二の部下として!から認めてやろう!」
「••••••!」
ナバナバさんはピクっと体を動かす。
何かを思いついたようだ。
「•••••閣下がこの地にある地方局に出てー!紹介しましょうー!?ここの地方局はアート市では人気でーす!そしてー!この市の市民共はー!中都への憧れが隠し切れていない!」
これは良い感じな気がする。
中都とは、帝都の事だろう。
だが、問題がある。
故に頭から排除していた。
「やって頂ければ幸いですが、閣下にとって迷惑じゃないですか?嫌ならば、本当に全然大丈夫です」
閣下を巻き込んでしまう事だ。
だから確認をしなければ。
このような趣味探し?巻き込んで、他人に迷惑をかけるのは宜しくない。
以前、失敗した事がある。
すると、閣下は俺を指差す。
「怠いのじゃ!千晴という部下の為に働くとは!」
笑顔で閣下は、面倒くさい的な事を叫ぶ。
果たして、どういう感情なのか。
言葉と、表情が合っていない。
「じゃが!好きな部下と歌手をテレビに紹介し!人気を爆発させるのは!最高なのじゃ!帝国の特権階級が!今から市のテレビ局へ凸なのじゃぁぁぁ!!」
「ありがとうございます。ナバナバさんも」
すぐに頭を下げる。
協力してくれた上で、良い案が出ていえいって感じだ。
——
俺達はテレビ局に向かって歩き始める。
先ほど閣下が電話したら、来てOKと言われたのだ。
「ナバナバさんは何故、閣下の部下になろうと思ったんですか?」
ここで一応、犬耳の少女に尋ねる。
もし彼女が魔王国や反勇者同盟のスパイなら、今の内に見極めておきたい。
閣下に彼女を部下にする事を勧めたのは俺だし。
「大空さんこそーですよー?何故、性根の捻じ曲がった閣下の部下なんぞやっているのですかー?アナタなら、何処でも引く手数多ですよー?」
「••••自分は目標がないので。自分自身でも何がしたいのか分かっていなくて、、ナバナバさんにも聞いても良いですか?」
俺はもう完全に閣下の部下になってしまった気がする。
とりあえず、逸らされた話を無理やり戻す。
すると、ナバナバさんは嫌そうな、面倒くさそうな顔になった。
「••••この世に生まれたからにはー。成り上がりたいーんですよー。必ず数年以内に乱世が始まるー」
「確かに。そんな流れですよね」
「わたし、農村出身で、力も弱いんでー。権力を得るにはー乱世に乗じてー、ギャンブルをするしかないんですよー、」
「成程。ありがとうございます。らしいですよ、閣下」
聞き耳を立てていた閣下に、そう言う。
ナバナバさんは恐らくスパイでは無さそうだ。
目標も一応筋が通っている。
その上スパイにしては、色々性格面に穴がある。
良かった。
たまたまその辺にいた自称超天才で、出世欲のある人っぽい。
「ぶぅ。何が性根の捻じ曲がってるのじゃ!許せんギャクじゃ!じゃか!慧眼じゃ!わしは未来の!頂点じゃ!まず!完璧なる帝国の王じゃ!!!」
「あー、やる気だけは十分ーな閣下ー!1%ぐらいの可能性はありまーすよ!」
「ナバナバは会った時からいつも上から!きー!!千晴が勧めていなければ!わしが狂っていなければ!部下になどしていないのじゃ!!」
またジタバタ暴れる閣下。
面倒くささが隠せていない目で、眺めるナバナバさん。
こうして、テレビ局前についた。
「あれ。田中だ。何か話してる」
門の前には、何故かもう田中がいた。
そんな田中は、きちっとしたスーツを着た人と話している。
恐らくスーツの人は閣下を待っている人だろう。
「お!相棒!丁度いい!局員!これが僕の相棒さ!ちょっとぴり!ちょっぴりだけで出させてくれないか!」
俺に気付いた田中。
近づいてきて、肩を組んでくる。
直後、スーツを着た男性は俺をジロジロ見てきた。
特に顔をよく見ている。
「••••可愛すぎでは?彼の顔を出して音楽性を多少ポップに寄せれば、寧ろこちらから擦り寄りますよ」
田中は固まった。
何の話をしているだろうか。
というか、俺の顔ってそんなに良いの?
だから、異性から告白される事が副会長と比較しても、結構多かったのか。
「今、何の話をしている感じ?テレビに出る系の話?」
「理解力高いね、相棒••••••全てその通りだけど、どうする?」
いつもよりクール目な田中はこちらをチラッと見る。
どうしよう的な目でもあり、不安そうな目でもあった。
「いいえ。ありがたいですけど、田中の夢からは離れてしまうので、今のままでやりたいです」
手段を選ばなければ、まあ何でも出来る気がするが。
ここまで相方と頑張って来た訳だし、辞めておきたい。
田中も多分そんな気持ちだと思う。
「相棒、、ぐすん、」
「???。突然」
こう言うと、突然田中が目を服の袖で抑える。
何か泣いているようだ。
俺のせいで、多分情緒不安定な状態にまた入ってしまったっぽい。
けれど、泣くのは初めて見る反応だ。
背中がブワッとする。
初めての感情だった。
「やばいのじゃ!部下が憧れのアーティストに寝取られる!貴様!ここの偉い奴か!?」
裏で、閣下が会話に乱入する。
スーツの人を閣下は指差した。
「高劉超様。お待ちしておりました。何か御用で?」
「わしがここの地方局に出てやるのじゃ!こいつらという好きなバンドを紹介する為に!やってやるのじゃ!」
「••••••では、是非お願いします••••••需要••••人気、実力、現状••••••作れる!流行作れる!うちの番組から新たな流行作れるぞ!はは!いやっふー!」
急に壊れたスーツ姿の男性。
何か行けそうだ。
「ほら、行けそうだよ。田中、、そんなにならなくても、」
「相棒、、」
まだ袖で目を抑える田中。
未だ、嗚咽も抑えられていなかった。
何故こうなったんだ。
理由が分からない。
田中の過去や夢を知っていても、泣く理由が分からなかった。
そして、田中が能力を使っていないから、感情も伝わって来ない。
俺のせいもあるだろうし、何とか止めなくては。
「相棒、、僕について来てくれて、ありがとう、、皆の期待を裏切って、自殺した身で、こんな幸せになれて、良いのかな、、」
「え、?だ、大丈夫だよ、今はファン?の期待に答えられているだろうし、?」
「、、僕は幸せ者だよ、、」
「そっか、凄そう、、」




