第十三話 決闘
「?。自分ですか?」
俺は自らを指差す。
すると、ツインテールの少女は大きく口を開く。
「そうよ!お前よ!大空千晴!私と決闘しなさい!」
「?。決闘なんて出来るんですか?」
「はい。あちらのチラシに書かれている通り、冒険者ギルドの闘技場に空きがあれば可能となります。しかし、それは相手方が了承しているのならば、という条件込みですが」
猫耳の受付嬢が俺の方をチラチラ見ながら、そう答える。
本当に決闘が出来るのか。
というか闘技場もあるっぽい。
割と野蛮だ。
だが、良い機会かも。
新しい趣味を増やすチャンスでもある。
ついでに俺の力がこの世界で現状どれほどなのか、この少女と戦うことで把握出来る可能性も。
よし。
郷に入ったし郷に従えだし。
とりあえず、やってみよう。
「ちょっと趣味探し込みで、決闘してみていい?時間を取っちゃうかもしれないけど」
「わたしもきになる。決闘。けがはきをつけて」
「了解。気を付ける」
普通にホワイトの了承も貰えた。
それならやろう。
「良いよ。決闘しよう。ルールってあったりする?」
「え?いいの?」
——
「闘技場の壁に当たったら敗北!殺すのはなし!これでいい!?」
「了解。大丈夫」
俺とツインテールの少女は、冒険者ギルドの屋上にある闘技場にやって来た。
この闘技場は、半径五十メートルぐらいの円形のステージだった。
そこに俺と少女は立っている。
更にステージの周りには壁があり、その上には石造りの観客席があった。
観客席にはホワイトと、一階にいた大体の人が来ている。
「いけー」
ホワイトの声援?が届く。
その声援も、すぐに周りの冒険者の応援か野次にかき消された。
「••••勝つわ!私が勝つ!負けたら終わりよ!」
そんな中、少女は自らの頬を叩き、自らを鼓舞する。
かなりのやる気を感じた。
一方、俺も負けるつもりはなかった。
折角やるなら、勝ちたい。
「そろそろ始めます。静粛に」
近くのスピーカーから、猫耳の受付嬢の声が届く。
この人が審判だ。
放送席から色々判断してくれるらしい。
「ここで受けた傷は死にさえしなければ、決闘が終了次第例外なく完治します。貴方方は遠慮なく、命懸けで戦って下さい」
受付嬢の人が淡々とそう言った。
観客席も一層騒がしくなる。
「では••••••始め!」
決闘が始まった。
次の瞬間、少女はすぐ俺の元に辿り着き、拳を振りかぶる。
相当速い。
俺は魔力を通した両腕をクロスさせ、拳を防ぐ。
「うぐ!」
パンチを受けた腕が痺れる。
想像以上に攻撃が重い。
「隙あり!」
直後、ツインテールの少女は飛び上がる。
空中で体を半回転させ、俺の顔を蹴って来た。
バキィンという音が鳴り、俺は五メートル吹き飛ぶ。
「••••どうするか」
この蹴りをガードした右腕はちょっと折れた。
口からも少し血が出る。
咄嗟にドラゴンの魔力になり、顔に一枚「結界」を張ったのに。
それ込みで、これだ。
「結界」は一枚だけ貼れる。
その強度は凡そ俺の体と同じぐらい。
つまり、少女のパンチをモロに食らえば、俺は亡骸になってしまう。
「目の色が変わったわね!それが「模倣」!」
少女の身体能力は大体蛇吉ぐらいだろうか。
不味い。
この世界って、こんなのがしれっと出て来るのか。
「名前的に『停滞』も使えるのかしら!?でも!!他の能力を使っても!私が勝つわ!降参したいならすぐしなさい!」
少女はそのまま俺の元に突っ込んでくる。
かなり速くて、避けられない。
多少は時間を稼げる「結界」で時間稼ぎだ。
「貫手!」
指をピンとさせた手を少女は繰り出す。
貼った「結界」がなんの抵抗もなく貫かれる。
ならばこれだ。
ここで『停滞』に能力を変え、服を止めた。
「いたい!!何をしたのよ!」
俺は全く動かず、肩で受ける。
少女の指は全て突き指になった。
チャンスが出来る。
『停滞』を解除し、飛び掛かった。
蛇吉と違って鱗が無いし、俺のパンチも効くはず。
「でも!効かないわ!!」
「ぼふ!!」
攻撃を受けたのは、俺だった。
服を蹴られ、肺まで衝撃が来る。
結構痛い。
また骨が折れた。
口から血がもっと出る。
けれど、少女の体勢が整っていなかった為に、これだけで済んでいた。
壁から五メートルの所に着地する。
「これが師匠から教わった武術の真髄!!能力なんぞに負けないわ!」
少女は左手で俺のパンチを弾き、右足で俺の胸を蹴った。
それだけだ。
なのにどこに攻撃が来るか、俺は全く分からなかった。
不思議だ。
しかしこの武術の真髄?は防御でしか使えないっぽい。
攻撃にも使われていたら、俺はもう負けている。
それならやりようはある。
少女はまた走って来た。
「は!」
今度は左手での貫手だ。
俺の首元を狙ってくる。
服を着ていない部分を狙っていた。
能力を「結界」に戻す。
「は!喰らいなさい!」
左手の貫手は、右手より威力が低い。
だから、「結界」でも一瞬足止め出来る。
その隙に避ける。
「『停滞』とバリアを張る能力はどっちも厄介よ!!でも!これだけなら負けようが無いわ!降参しなさい!!」
また少女は追撃してきた。
これも「結界」で足止めし、横に避ける。
何度も避ける。
この間にも、ドンドン壁際に追い込まれていく。
そろそろか。
作戦は纏まった。
ここから反撃出来れば、良いな。
「喰らえ!俺の反撃!」
能力を変え、少女の隙を見て飛びかかる。
それに少女は反応し、足を蹴り上げた。
これも武術の真髄?を使われている。
「は!意味ないわよ!!」
だから飛び上がろうとした瞬間、俺の服を『停滞』させる。
全身が、止まった服にぶつかった。
「がほ!!」
首がつっかかる。
少しもげるかと思った。
こう急停止した俺の前を、少女の蹴りが通る。
それで一秒。
「なにがしたいの!!ちょっとの時間稼ぎにしかならないわよ!!」
少女の左手での貫手が首に飛んで来た。
ここは気合いだ。
ついでにワンチャンにも賭ける。
少女の貫手を左手で防ぎながら、蹴りを放った。
武術の真髄?の動きにも寄せている。
魔力で全体的に強化されているのもあり、これが出来る。
「なんで!あなたも!!出来る訳ないのに!」
普通に左手は貫手を防ぎきれず、血が吹き出す。
だが、動揺も相まって少女に俺の蹴りが当たる。
少女は後ろへ、一メートルほど吹き飛んだ。
これで、五秒。
思っていたより余裕が出来た。
「『光線』」
右手から出たレーザーが、少女の右太ももを通る。
作戦成功だ。
やっぱり、少女は魔力感知は出来なかったっぽい。
少女は「模倣」を見て、瞳の色だけを言っていたし。
「え、なんで、」
少女はバランスを崩す。
右足から倒れ込み出した。
この隙に俺は両足でジャンプ。
少女の背後に周り、そして「結界」を空中で足場にする。
最後は、背中を押す。
「俺の勝ち!」
俺の手のひらが少女へ近づいていく。
少女はこちらを見る。
少し泣きそうな顔をしていた。
「負けない!負けたら全部終わり!!」
少女は大声で叫び、右足を前に出す。
傷がついた右足で体を支える。
その太ももから大量の血が吹き出す。
「だから、、お前に勝つ!!」
少女は振り返りながら、血だらけの右手で拳を放つ。
拳がどこに飛んで来るか分からない。
また武術の真髄?を使っている。
だが、もう遅い。
俺の勝ちだ。
拳が同時に頬に当たる。
「ぐ」
「ぎゃあ!」
同じぐらいのスピードで二人とも吹っ飛んでいく。
いや、俺の方が少し早い。
しかし。位置取りの差で俺の勝ちだ。
少女の方を見ると、壁に激突寸前だ。
俺はまだ闘技場の半分ぐらいの場所を吹っ飛んでいる。
やったね。
「ま、負け、よ、、」
「「神速」!危っねぇ!!魔力なしだと打ち所悪いと死ぬだろこれ!」
謎の人物が、壁と少女の間に突如現れた。
そのまま、少女の体を抱き止める。
この人金髪が特徴的な、大体19歳ぐらいの女性だった。
どこかの学校の制服の上に、フードの付いたジャージを着、謎の腕輪をしている。
誰だろう。
「会長ー!!久しぶ、!!意外と痛いっス!!」
俺も何かしらの物に当たる。
その物はかなり柔らかったが、ぶつかっても微動だにしない。
「??。何?誰?」
「会長!!お久しぶりッス!!」
?。
それから、声が聞こえる。
覚えのある声だ。
後ろを見ると忍者のコスプレをし、謎の腕輪を付けた大体16ぐらいの少女がいる。
元クラスメイトだった。
「なんだ?高田。知り合いだったのか?」
「知り合いというか部下的なノリっス!元会長は学校で虐められていた自分にも普通に接してくれたっス!!それ以来忠誠を捧げてるんスよ!!」
「確かに久しぶり。元気そうで何より」
「超元気っスよ!!夢も叶いそうで!けど会長と再会出来た今が一番超元気っス!!!」
元の世界に居た頃の、ひらめとの記憶が蘇る。
ひらめは忍者ごっこと評して、不法侵入とストーキングを繰り返していた。
それがバレて、クラスで虐められるというか、孤立していたのだ。
だが、この頃の俺は真面目な生徒会長だったので、ひらめに対して普通に接した。
するとひらめは、これから俺の部下になるから何でも言って、みたいな事を言い始めたのだ。
ひらめの思考回路が意味分からず、当時は混乱したが。
それも懐かしい。
まあ、今でも理由はよく分からないけど。
「所で、姉ちゃんが今何をしているかとか分かる?知ってたら教えて欲しいなって」
チャンスなので聞いてみる。
姉ちゃんとひらめは面識があったはず。
「ハジメ元会長スか?機密らしくて自分でも何処にいるか分かんないんスよね。けど少なくとも自分と同じ組織にいて色々しているのは確かっスよ。偶に話聞くっス」
一応、元気に生きているっぽい?
それも、仕事をしている?
よく分からないが、本当に良かった。
組織?については後で詳しく聞こう。
こう話していると、あたりから拍手が起こった。
観客席の人達が手を叩いている。
そこから良かったぞー、強いなー的無い声も聞こえた。
俺と少女はお互い、結構残虐な事をした気がするのに。
この世界だと良いのだろうか。
けれど、少女には今までの努力が生きて勝てたとも言える。
それが褒められるのは嬉しい。
「いえーい。ピース」
ひらめから離れ、手を振り返す。
拍手が強くなった。
この反応だと俺も少女も強い方ではあるだろう。
良かった。
上位層は星をも消せます。みたいな世界じゃなくて。
そう言えば。
この決闘は俺が勝ったことになっているのだろうか。
少女は壁にぶつかる前に金髪の女性に止められていた。
少女の方を見る。
「もう終わり••••なにも始まらなかった••••」
少女はネックレスについている黒い石を握りしめ、泣いていた。
何故に。
決闘に対し命でも掛けていたのだろうか。
「いつまで泣いてんだよ!怪我も治ってんだろ!早く自分で立て!まだ終わっちゃいねぇよ!」
女性は少女を突き放す。
少女はフラフラしながら立った。
泣いているのは、軽い感じで決闘を受けた俺のせいかも知れない。
そうなら、申し訳ない。
一応、肩貸そう。
「••••おい!大空千晴と!オルキデ•イリカ!全く関係ねぇが!お前らは力が欲しくないか!!そんな顔をしてる!才能も感じる!」
俺が少女の肩を持つ中、金髪の女性がこう言ってくる。
初対面で怪しい発言だ。
「だからオレの弟子になってみないか!?お試ししても良い!なっても気に入らなきゃ!いつでも辞めてもよひ!なってみねぇか!?」
「た、助けてくれたのはありがたいわ!!でも、そもそも誰!!?なのに弟子になれって!意味分からないわ!」
「どなたですか?自分もその辺が知りたいというか」
少女の肩を持ち支えながら、俺も賛同する。
都合は良いが、とにかく怪しい。
「オレは勇者連盟所属、月下烈だ!まあ、、ついでに特攻の勇者って呼ばれてる。これでいいか!?」
少女は目を見開く。
ついでに、ひらめの方もチラチラと見る。
ひらめは嫌そうな顔になった。
「え?なんっスか?自分も名乗れって言うんスか?個人情報っスよ。どうして自分が烈さんのに巻き込まれなきゃいけないんスかね。世界の謎っス~~」
俺もひらめを見る。
金髪の女性もだ。
「え、会長!そんな目で見ないで下さい!!烈さんも!教えてあげますっスから!勇者連盟所属!隠密の勇者とか呼ばれてる!高田ひらめっス!!是非お見知り置きを!」