第一章 完
ブレスが放たれる。
何故か、それは止まった。
『••••••良く耐えた••••大空千晴』
透き通った聞きやすい声が、耳に入る。
腕の中からそれは発せられていた。
?。
『???。あれ?ホワイト?成長した?』
腕の中を見ると、25歳ぐらいの女性がいた。
女性はホワイトに似た非常に整った顔をしている上、とにかく白い。
だが、ホワイトと比べると50cmぐらい身長が高かった。
『••••••成長したのではない••••これが本来の姿だ』
ホワイト?は、俺の腕の中から抜け出す。
そうして、止まっているブレスの間に立った。
『••••後は、全て私に委ねておけ。何も考えなくて良い』
?。
どういう事?
このドラゴンを何とかしてくれるのか?
立ったホワイト?は、拳を構える。
ドラゴンのブレスが動き始めた。
『は』
バキィンという音が、正面から五回鳴る。
気付けば、大人のホワイトもドラゴンも居なくなっていた。
俺の左右には、ブレスが通ったであろう線だけがある。
?。
——
ブレスを全身で切り裂きながら、ホワイトは進む。
『••••••身体性能は、今の私の方が上、か』
五枚の結界を障子のように破り、ドラゴンの顔へアッパーをする。
ドラゴンは高速で空中へ吹っ飛んでいく。
ホワイトは膝を曲げ、飛び上がる。
{ギャオーーー!!}
ドラゴンの叫び声が周囲に響く。
吹き飛びながら、叫ぶ。
直後、ドラゴンから魔力が溢れ出す。
その魔力が固形化し、ドラゴンに白い服を着せた。
『••••やはり『変異』は使える、と••••『変異』』
空中のホワイトからも、魔力が溢れ出す。
この魔力も形を成し、大きな一対の白い羽になる。
ホワイトはその背中の羽を羽ばたかせ、一気に加速した。
その前に、五枚の結界が現れる。
(••••単純な強化タイプ••••視界内何処にでも結果を貼れる••••相性は悪く無い)
ホワイトは羽を動かし、加速する。
そのまま、結界へ突撃した。
結界はホワイトの体が当たった箇所から、割れていく。
『は!』
ホワイトの拳が、空中のドラゴンに振るわれる。
拳はドラゴンの鱗にめり込む。
そうして、またドラゴンは吹き飛ぶ。
すぐ、遠方の雪山に直撃した。
(••••••判断が早いな。風竜族。時間切れまで逃げる気か••••)
ドラゴンが直撃した雪山では、雪崩が起き始める。
その影響で、山全体が白い煙に覆われた。
しかし、煙からドラゴンは全く出てこない。
ホワイトは千晴の方を向く。
千晴は魔力を蛇吉のものに変え、蛇吉に治療をし始めていた。
『••••よく聞け!大空千晴!今すぐ蛇吉の死骸を上空に投げ、能力で止めろ!さすれば、必ず上手く行く!』
大声でホワイトも叫ぶ。
更にホワイトは片手を上げた。
『••••••受けてみろ。『|不可視の怪光線《ジ•アンノンウンレイズ》』』
空から、光るレーザーの雨が降り注ぐ。
それは雪山だけで無く、千晴と蛇吉がいる平原以外の森全域も蹂躙した。
(••••••中々の防御力だ••••が、)
ホワイトは雪山で丸まる、ドラゴンを発見する。
そのドラゴンの体は無傷だ。
だが、周りに貼られた五枚の結界は穴だらけになっていた。
世界が突如白く染まった。
時間もドラゴンも雪崩も千晴も、全てが止まる。
その中でホワイトだけが翼を動かし、ドラゴンの元へ高速で飛んでいく。
ホワイトはドラゴンの懐に着地した。
その頭に、拳を振りかぶる。
『•••••動け』
ホワイトが呟いた瞬間、時間が動き始める。
振りかぶった拳は結界を破り、ドラゴンの頭に接触した。
ドラゴンは元いた場所へ、殴り飛ばされる。
ホワイトはそれに向け、また羽ばたかせた。
その前に五枚の結界が現れる。
『••••無駄な足掻きだ。『過ぎ去る光陰の如し』』
ホワイトの羽が、多量の光を放ち出す。
飛ぶスピードがこれまでの二倍以上になる。
五枚の結界はそのホワイトの突撃で、これまで以上に早く破壊された。
壊すたび、すぐ結界は現れるが、足止めにもならない。
ここで、ドラゴンが空中で止められた蛇吉の体とぶつかる。
ホワイトがそこに辿り着く。
『••••終わりだ』
ホワイトはドラゴンの頭を殴る。
ドラゴンは拳と蛇吉の体に挟まれた。
その頭は、圧縮されていく。
{ギャオオオオオー!!}
ドラゴンは口からブレスを乱射する。
これをノーガードで受ける度、ホワイトの体は光る粒子を放出する。
しかし、ホワイトは一切怯まない。
ドラゴンの頭は、元の半分にまで圧縮された。
『••••『範囲解除』••••』
止まっていた蛇吉が、動き始める。
蛇吉の亡骸は遠くへ吹き飛んでいった。
ドラゴンは白い布も消え、力無く地面に落ちる。
『••••私には。これが始まり、か』
—-
風が吹く。
俺とホワイトは、蛇吉の墓の前に立っていた。
『••••蛇吉••••』
子供のホワイトはボソッと呟く。
蛇吉の亡骸は損傷が激しく、体が一部しか残っていなかった。
だからその体の一部を二人で土に埋め、この場所に蛇吉の名前を書いた石を刺している。
『••••ごめん、俺が庇ってくれた蛇吉を投げたから』
『••••••ちがう••••••わたしのせい••••』
ホワイトは蛇吉の墓をじっと見て、そう言う。
この声は震えていた。
『••••••かってにして••••かばわれたがわのこと••••かんがえてなくて••••やくそく••••やぶって••••』
ホワイトは周囲をチラッと見る。
俺の目にも、辺りの光景が映った。
ドラゴンが結界を解いた影響だ。
『••••この森を、こんなにもして••••••』
周囲の殆どのリンゴの木は倒れ、大地には穴が空き、動物の亡骸が大量に転がってる。
ここも死の大地になってしまった。
原因は、空から降り注いだレーザーだ。
『••••••蛇吉をぐしゃぐしゃにもして•••••••』
ホワイトはボソッと呟く。
そして、俺の方を向いた。
『••••おとなの、わたしは、なにか、言ってた?•••••ちはるが、話すの、ちゅうちょ••••すること••••』
色々言われた事は確かに、あった。
子供の自分に伝えてくれと、言われた事も。
『••••それは••••』
だが、言ってもいいのだろうか。
嘘の可能性もある。
『•••••••いって』
『••••私が住んでた森は滅びた。だから、探すのは無駄だって』
『••••やっぱり』
ホワイトは絞り出すように呟く。
目に涙も溜まり始めた。
『••••••やっぱり、そうだった••••鼠子••••竜••••鼬郎••••鳥銀•••••蛇吉••••』
俯くホワイト。
ポツリ、ポツリと雫が落ちる。
『••••••わたしの••••あった••••ぜんぶ••••••』
涙を流したホワイトを見るのは、初めてだ。
そして、俺のせいでもある。
勝つ為に蛇吉の亡骸を投げるという、やばい事もした。
少なくとも、今は慰めたい。
だが、どうすれば。
そうだ。
ホワイトの背中に、手を回してみる。
『••••大丈夫?••••俺はまだ生きていて。勝手で助かったから』
このまま、ホワイトを軽く抱き締める。
人肌は、落ち着く。
これでホワイトも安心してくれるだろうか。
前成功した通り、実際の行動に移してもいる。
『•••••••』
俺の背中に、無言でホワイトが手を回した。
そのホワイトに引き寄せられる。
『••••••』
このまま正面から強く抱き合う。
そのホワイトは温かかった。
まだ生きている。
—-
『その、大丈夫?ホワイトの勝手のお陰で俺が助かったって面もあるというか。まだ俺は生きているから』
『ありがとう。だいじょうぶ』
普段通りに、ホワイトは言う。
良かった。
あれで正解だったっぽい。
蛇吉には本当に悪いことをしたが。
『それなら、早く森から離れようよ。竜族は一週間ぐらいでまた起きるらしいから』
大人のホワイトが、そう言っていた。
それを聞いてか、子供のホワイトは頷く。
『きめた』
『?。何を?』
『わたしになにがあったのか••••この森からでたら、それをさがす••••本来のわたしにもどる前に』
『••••何であのタイミングで元の姿になったのかは確かめなくていいの?知りたいなら何でも手伝うよ』
どうして元の姿に戻ったのか、その理由は何も分かっていない。
大人ホワイトに聞いても、教えてくれなかった。
『••••いい。もしなったら、こまる』
ボソっと呟いたホワイトは、俺の顔を見る。
目が合った。
『••••ちはるは森から出たら、なにしたい?わたしも、てつだう』
『も、森を出てからの話は、森を出てからしない?何か問題が起きて出られない可能性があるというか』
——
『おっはー。一体全体、気分はどう?』
『ハハハ!正に最高だ!!またしてもこんな機会が訪れるとは!これも神の導きか!??何つって!!』
『おい神様だ。訂正しろ』
『ハハハ!!怖い!神様、神様!神様は最高だ!!ばんざーい!』
『一生はそう言え。所で、封印されるってどんなんだった?私はされなかったんだよねー』
『本当の終わりを感じ!素晴らしかったぞ!あんな経験また体験出来れば良いが!!、、そうと言えば。お前は勇者達に何もされなかったのか?平然としているが』
『••••勇者か。勇者ね。勇者!あのクソ勇者共!!あのバカアホマヌケゴミカス共!!よくも!!全部ぶっ壊しやがって!コノヤロー!!!ブッ殺してやる!!!グオー!!』
『急に荒ぶるな。落ち着け』