戦場の盲目的正義②
隕石の如き速さと威力を秘めたサイバーパンクの蹴りは私の目と鼻の先まで迫っていた。空を握っていた左手は、被弾することを受け入れてるように力が抜けていたが、剣を握る右手はそんな腑抜けではなかった。
ギリギリ――
そんな意思に呼応して赤い歯車は回り出す。
「『六速・ライジングドライブ』」
ギリギリ――!
脊髄の歯車は激しく擦り回る。そして歯車は右手の剣をも回し、シルバーの剣がだんだんと形を変えていく。
静まり返っている樹海にはもとより、時間の概念が無いに等しい。しかし目の前の敵の時間は確かに、私より遥かに遅かった。
「着いて来れるか!」
サイバーパンクの10倍の速さになった私は、小さく鋭く薄くなった橙色の短剣を逆手に持ち敵の足へ刃を入れようとした。
「着イテイケルヨ」
ギリギリ――ッ!
突如サイバーパンクから激しい回転音が聞こえた。その回転音はだんだんと早く大きくなっていき、ヤツは蹴りを放った方とは逆の足で橙短剣を弾いた。
私はサイバーパンクから距離を置くと、宙でノロノロと動いていた隕石の如き蹴りは、次第に元の速さに戻っていった。
ズドンッ――!
私が身を引いたことによってサイバーパンクの蹴りは地面を抉るだけとなったが、私はとても混乱していた。
「どういうことだ? 六速に変速してるのに、なんでお前は着いて来れてるんだ?」
サイバーパンクは腕から1本の白い棒を出す。そしてその棒を払うように振ると、棒の先端から青白い炎の刀身が伸びた。
それは金建の資料に乗っていたエグい武器の1つである、『ビームサーベル』だった。
通常の炎の完全燃焼は青色であるが、ビームサーベルの刀身は完全燃焼を燃焼させており青白い炎となっている。ビームサーベルはその青白い炎をレーザーの刀身として振るう、言わばレーザー切断刀である。
「教エテアゲルヨ。ソレハネ……」
サイバーパンクの脚から伸びているブースターはふくらはぎの後方へと向きが変わり、瞬く間に燃焼、爆発し私との距離が縮まった。
サイバーパンクはビームサーベルを縦一閃に振るう。間一髪私は避けたが、ビームサーベルの軌道上にあった岩や木の根が瞬時に溶解してた。
「オレハオリジンギアノ『試作サイボーグ』ダカラダ!」
サイバーパンクは止まらない。ビームサーベルを私へ振り回し、霧や樹木、岩などを大量に切断している。私も負けじと隙を突いて橙短剣を振るうが、リーチとスピードのアドバンテージはヤツにあり簡単に刃は届かない。
避けて避けて突き、避けて避けて斬る。そんなターン制ゲームのような攻防をしていると、ゲームには無い障害が現実で襲いかかってきた。
ズリッ――
「くッ!?――」
霧がかってるこの樹海で最初から気を付けていれば良かった、足元のぬかるみだ。このぬかるみに足を取られ、触れれば即戦闘不能になりうる避けゲーは、絶体絶命のピンチへと早変わりした。
ベチャッ
コケたはずみで飛んでいったぬかるみの泥が、サイバーパンクの頭部にベチャリと着く。するとどうしたことか、ヤツが振り回していたビームサーベルの動きが止まり、突如棒立ちをし始めた。
「暗イ……、冷タイ……、コレガ『死』?」
サイバーパンクはブツブツと何かをつぶやき始めた。ヤツは戦闘を辞めたのか、ビームサーベルのビーム部分が引っ込んでしまった。
辺りはしんと静まり返る。
棒立ちのヤツからは歯車の音が聞こえなくなった。おそらく六速を解除したのだろう。
サイバーパンクの言っていた『オリジンギアの試作サイボーグ』のことや、それに関連するオリジンギアの変速機能など、ヤツから聞きたいことは沢山あった。
しかし、資料であらかじめ見ていたヤツ武装を見る限り私の勝ち目は薄い。今のうちにヤツを仕留めようと、私は背後に周り、ヤツの首元に橙短剣を刺し込もうとした。