戦場の盲目的正義①
人工衛星を用いた個人識別方法は古くからあったが、それではサイボーグ化した人間かどうかまでは分からない。ゆえに今の時代は、サイボーグにはサイボーグ特有の脳波を与えて識別しやすいようになっている。
これにより、防犯カメラや衛星写真から特定の人物を探す手間が省け、個体ごとの識別脳波を読み取るだけで簡単に人探しができるようになったのだ。
怪物スチームパンク、怪物サイバーパンクはとても特殊な脳波をしている。この2人の脳波は、特別に瞬時に分かるように改造されている。
ではなぜ、捜索は楽で日本特殊部隊が居るのに、怪物と呼ばれる2人が未だ討伐されていないのか。
その答えは至って簡単だった。
「コイツっ、強すぎる――!」
ドゴオォォォン――!
サイバーパンクに吹き飛ばされた私は、なみなみ生える木をなぎ倒す。霧がかかっている樹海の視界は良くなく、吹き飛ばされた衝撃と足元の悪さに膝が着いてしまう。
「オマエモ、ダメカ」
顔を上げるとヤツは姿を消していた。辺りを見回しヤツを探すと、木々の隙間から差す陽の光が一瞬、私の上だけ無くなった。見上げると案の定そこにはサイバーパンクがおり、青白い脚から伸びるブースターが燃えている。
「『サイバティックメテオ』!」
サイバーパンクの隕石のような蹴りが私の眼前に迫っていた。その技は霧を掻き分け無いほど速くに私の目と鼻の先まで到達し、私はそのあまりの速さに反応しきれず、まだ剣を握ったままだった。
――数時間前――
私は青木ケ原樹海に来ていた。そこにターゲットの1人であるサイバーパンクの脳波が検出されていた。
神秘的で魅惑的なこの樹海は古くから自殺の名所であり、『富士の樹海で諦める』という言葉が残るほどの有名な場所だった。
「……ナルナナ…さん……、その辺に……います」
電波が通りづらく上手く聞き取れなかったが、通信中の金建がどうやら教えてくれたようだ。近くにターゲットが居ることを。
ペキ――
私の後方から小枝の折れる音が聞こえ、私はすぐさま背の剣に手をかけ振り向く。しかしそこにはネズミと小鳥しか居なかった。
「…………右です!」
突然金建が叫び出した。
「ッ――!」
首だけ右方向を向くと、青白くのっぺりとした顔のサイバーパンクが私の顔をじっと見つめていた。その顔は目も鼻も無いが、不気味なほど血色の良い唇だけは存在した。
運悪く霧がかかっているこの樹海では視界が良くなく、付かず離れずの距離で戦わなければ万全では無い私の勝機が更に薄れる。
「オマ……ェ、人間カ?」
細く滑らかで青白い腕をこちらに伸ばし、口からはヨダレを垂らしているサイバーパンクがノロノロと近づいてきた。
「悪いけど死んでもらう」
私が背の剣を構えヤツを見ると、ヤツはニンマリと笑った後にブラブラさせていた手首を上げて手のひらを見せてきた。
「オレ、死ネルノカ!」
サイバーパンクの手のひらには円形の穴があり、次第にそこへ光の粒が集まっていく。
すると次の瞬間。
ドオオォォォォォン――ッ!!!
圧倒的な力によって圧縮された空気の塊が穴から放出され、周りに生えてる木々諸共私はぶっ飛ばされてしまった。