それぞれの景色
「お疲れ様です」
傘をさした金建が瓦礫の山から現れた。どうやら一部始終を見ていたらしい。
プシュー――ッ!
オリジンギアの回転が止まり、サイボーグ部が蒸気と音を吹き出した。
「んぐっ……、ああぁぁ!!」
オリジンギアの副作用か、私に猛烈な頭痛と全身の痙攣が起きた。崩れるように私は地面に倒れ、打ち上がったばかりの魚のようにビクンビクンと跳ねている。
そこでブツリと私の意識が消えてしまった。
――日本政府特殊部隊本部――
金属とコンクリートで出来た白い壁と薄いガラスの窓。そして、実体のあるホログラム製の椅子に座る男が2人。
「帰ってきたと思えば、任務すら果たせてないのかよ。だから俺はさっさと殺して来いって言ったのに」
「途中からは殺すつもりだったさ」
彼らは言い争いをしている。1人は右腕のみ義手の赤髪、もう1人はナルナナを追っていた生身の部隊長。この2人は同じ特殊部隊の同期だが、出自や学歴、身長、体重、性格、女の趣味など何もかも正反対だった。
「ったく、俺も使ってみたかったなオリジンギア」
少し不真面目さを感じる赤髪の男は『日野』。二の腕の途中から紺の義手で、日本政府特殊部隊員の刻印が刻まれている。
「使ったら俺がお前を殺してやる」
ナルナナを取り逃した部隊長の男は『丸国』。この時代には珍しい全身生身の純人間で、身に付けている紺の衣服に日本政府特殊部隊員の刻印が刻まれている。
日本政府特殊部隊は4種類の人間から構築されており、それぞれ上から『起・承・転・結』と呼ばれている。起であるトップは三権の内の1つ行政関係の人間。その下に軍を指揮する特殊部隊員の隊長や軍曹といった承が立ち、さらにその下が日野や丸国のような軍の兵士である転が居る。1番下に居るのは使い捨てやモルモットにされ、実験や実践テストをする人権の無い結だ。
三権分立はしているが、戦時中の日本では司法と立法は肩身が狭い思いをしている。仕事や役割が無いわけでは無いが、軍事力を手足のように使う行政には勝てない。
「それにしても、よく結から抜けれたよなナルナナ」
「執念か、抗いか、それとも逃避か。いずれにしてもそのうち死ぬさ」
彼らは水を飲みながら、天の涙と叫び見ていた。
――三巴組事務所――
大きな水墨画の下に革製の椅子。そこに座る1人の男と、彼に頭を下げる10数人のスーツ男達。
「回収出来なかったんだ」
すぱーっと、男は煙草を吸う。男はオールバックに黒いスーツをビシッと着ている。その男の名前は『ミツハ』。三巴組現組長のヤクザだった。
バァン――ッ!
「なんにも言えねぇの?」
机を思い切り叩き、彼は頭を下げる男達を怒鳴りつける。その怒声は、外で唸る雷にも負けない。
事務所内には無数の鉄パイプや蒸気機関を備えた機械があり、時代錯誤な刀も飾ってある。そんな室内がビリビリするほど、彼の威厳は凄まじかった。
彼はもう一度煙草を吸い、肺に煙を入れる。
「俺の名前背負ってんの忘れんなよ? さっさと回収して来い!」
怒声は室内の全ての物をひれ伏させ、ミツハの部下たちは早急にナルナナ捜索及び回収へ向かった。不思議な蒸気機関もガンガン化石燃料を燃やし、熱気と蒸気を外へ逃がしていた。
「成七……」
傷のある眉にシワが寄り、彼にも少し雨が降った。