燃える金属
「ウオオォォォァァアアア!!!」
腕大砲サイボーグは両腕を突き出すと、腕に付いた巨大な大砲の銃口が光り出す。その大砲は次第に熱を帯び、蒸気を纏わせ、滴る雨が一瞬にして蒸発するまでに高温と化す。
ドヒューン――!
フルチャージされ打ち出された大砲の砲弾は、鉄でできた実弾では無かった。衝撃を加えると破裂する透明な砲弾に、石や鉄などがドロドロに溶けた溶岩を入れた対サイボーグ用キャノンボール。
これを喰らえばどんな物でも溶解してしまう。
「オラァ!」
私は地面に指を突き刺し、雪を掴むようにアスファルトの地面を握り取った。そして腕大砲サイボーグの溶岩弾と同じぐらいの大きさの元アスファルト地面を、溶岩弾めがけてぶん投げた。
ドパァン――!
中で破裂した溶岩弾は地面に散らばり、溶岩の表面が空気に触れて急激に冷やされる。
「飛び道具なんか使ってんじゃねぇ!」
ドシン、ズシン、と力強く地面を踏みしめ腕大砲サイボーグの方へ走ると、相手も拳を打ち付けながらドシン、ズシンと1歩1歩歩いてくる。
日本の特殊部隊に所属している兵士は皆何かしら欠陥がある。一昔前の身体障害や精神疾患、戦地での致命的負傷や強すぎる愛国心を持つ者など。
この腕大砲サイボーグは脇の下や太ももの内側、首元や頬などに、僅かながら塗装の上塗の跡がある。話す言葉も、ナルナナ、うおおお、などの単語や雄叫びしか言っていない。
おそらくコイツは何らかの理由で身体と脳が欠け、命令を聞くだけの脳と政府による重改造を受けた身体で動くただの木偶となったのだろう。
「哀れだけど、私を追ってきたお前は倒すしかない」
眼前に立つ巨体。その巨体は大きな右腕を振り上げ、そして私を叩き潰すように拳を振り下ろした。
ガッチイィィィン――!
熱気を放つ巨腕を、私は左の拳で弾き飛ばした。
「ウガアァァァアア!!」
右、左、下、左、右、上。あらゆる方向から、振りが遅く重い灼熱の拳が向かってくる。
ガギィィン――!
ガギィィン――!
私はその全ての灼熱を、同じ力量の白い拳と紫の大剣で真っ向から弾き返す。
落雷の音にも引けを取らないほどの空を震わす金属と金属のぶつかる音と、赤く飛び散る閃光。
何故私よりも大きく重い拳を振るう腕大砲サイボーグの攻撃を正面から受けられるのか。
ギリギリ――
それは私が変速した『一速・イグナイトメタル』が、超近距離の肉弾戦を得意とするギアだからだ。
肉体に巡る血液とサイボーグ部を巡る電流を燃えるように熱くさせ、全身に駆け巡らせる。全身を駈ける紅い血と電気は筋肉と筋金属を燃やし、現状の筋量の限界を超える膨張と収縮を可能にする。
「オラァ!」
深く握った左拳を腕大砲サイボーグの脇腹へ差し込む。
グギャ、という内蔵付近の金属の骨が砕ける音がする。しかしそれでも彼は止まらず、重く響く攻撃を仕掛けてきた。
「泣くなよッ!」
私はこれ以上反撃を来させぬよう、右拳に握りしめた紫大剣を逆袈裟に振り上げる。
スピイィィィン――ッ!
運悪く両断は出来なかったが、それでも甲高い音と共に腕大砲サイボーグの左太ももと右腕の大砲がぶった斬れた。
足の断面は筋金属と筋肉が混ざりあったような見た目をしていて、僅かに血液のような赤い液体がポタポタと垂れている。
「グルルアアァァァァァアアア!!!」
彼は獣のような悲痛と鼓舞の雄叫びを上げ、片腕片足を失いながらも私に向かってくる。地を踏む足が無ければ手を這わせ、殴る拳が無ければ頭を振り上げ、敗色濃厚でも彼は私に向かってくる。
命令を聞くだけの欠陥品だが、見栄や誇りをかなぐり捨てて自分の命の最後まで燃やし向かってくる姿勢はとても素晴らしい。冷たい金属の身体に燃える何かがあるのだろう。
「じゃあ死ね――」
私は腕大砲サイボーグの燃える何かまでぶった斬り、動かぬ冷たい金属へと彼を変えた。