戦火の火蓋
衣食住は必要だ。しかし彼の提案には少し顔がひきつってしまった。ゲロと小便にまみれている私が女に見えるのかと彼を若干敬遠し、そんな態度が顔に出てしまっていた。
そんな私を見て彼は少し笑って冗談だと言った。
「真面目な話、アイツの発明は環境を変えてしまうものです。だからこそオリジンギアやセブンスギアをナルナナさんに託したアイツの気持ちはよく分かります」
そう話す金建は指を3本立て、私が研究所に入る条件を3つ提示してきた。
1つ目は私の改造を許可して欲しいということ。
2つ目は自分の手伝いをして欲しいということ。
3つ目は英和の遺志を尊重して欲しいということ。
私はこの提案にノータイムで承諾する。サイボーグである私は改造を施すことで強化されるし、金建の手伝いは今までに何度も行っている。
弟の言う戦争の抑止力となるためには、私単騎で一騎当千するほどの力が必要になる。日本からも世界からも奪われず、オリジンギアという脅威を抑止力にするためにはそれしかない。
「分かった。でも分かってると思うけど、オリジンギア引っこ抜こうとしたらいくらあんたでも痛い目見るよ」
私が彼に拳を突きつけると、落雷に混じり近くから爆発音のようなものが聞こえてきた。
「分かってますよ――っと、お客さんですよナルナナさん」
その爆発音は次第に私の方へ近づいてくる。天候は次第に悪くなっていき、空の露が滝となり、天の鳴き声が叫び声と変わる。
「さてナルナナさん、アイツが遺したオリジンギアを見せてください」
身体への負担は蓄積しているし、次変速したらどうなるか分からない。しかし爆音が私に近づいてくるのは事実。
鉄を破壊し街を削るこの音は尋常ではない。この場に留まれば弟は静かに眠れないと考えた私は、逆に、私から音の方へ近づこうとセブンスギアを握りしめた。
「ぶっ倒れたら回収して欲しい」
そう金建に伝え、私は四肢の鉄から排熱をする。フシューという空気が排出される音と熱気が出たのを確認し、石の地面を蹴る。
「戦場を変える力、実戦で見せてもらおうか、英和」
――街中――
「どこだナルナナァ!」
何かが暴れている場所の建物の影から私は観察していた。どうやら敵はとても大柄で全身が金属のサイボーグの男だ。肩から腕にかけて大砲型の大きなガントレットを装備していて、廃ビルや地面などをバンバンぶち壊している。
やはり男の狙いは私で、装備の模様や色を見る限りだと、所属は政府の特殊部隊のようだった。
あれはおそらく、戦争の最前線配備予定の新型サイボーグだろう。私のような基礎能力向上の雑兵サイボーグでは無い。
「ナルナナァァ!」
ドォン――!
男は周りを破壊しながら墓場へ向かっている。先程私を追って倒れた部隊の誰かが私の逃走経路を上に伝えたのだろう。
「なんだうるさい」
私は建物の影から出て腕大砲サイボーグに姿を見せる。すると男はこちらに振り向き、うぉぉぉ! と野太く大きな雄叫びをあげる。
その腕大砲サイボーグは言葉など介さずいきなり襲ってきた。デカい図体の見た目通りな大振りな攻撃をしてくる。
ボガァン――!
建物や逃げ遅れた人は潰れ、見るも無惨な姿になる。
(デカブツ相手は六速がマストだ。でもここで使うと身体の限界が来る。一か八か……)
私は空の露に濡れるシルバーの剣を握り、脊髄の歯車の回転を伝える。
ギリギリ――
重く力強く大きく動くオリジンギアは変速し、両腕の肘から先と両足の膝から先の駆動も重く力強く大きく動く。
握っている剣もオリジンギアに呼応してギリギリガチャガチャと音を立てながら変形していき、シルバーだった刀身が紫に変わり大きく太く分厚くなっていく。
変形が終わったそれは勢いよく排熱した後、鉄塊と見紛う程の巨大な刀身へと変貌した。
私はそのずっしりと重い片刃の紫大剣を片手で肩に担いて腰を下ろし、足の着いた地がめり込むほど力を込めた。
「『一速・イグナイトメタル』。真っ向からぶっ壊してやる」