戦場の盲目的正義④
「オラァ!」
ガギイィン――ッ!
サイバーパンクの赤黒い左腕はとても厄介だ。だからこそヤツが武器を抜く前にカタをつけたい私は、暴れるように橙短剣を振り回した。
突き、刺し、斬り、払う。ありとあらゆる手段でサイバーパンクを攻撃するが、ヤツは私の猛攻を容易くいなしていく。
「ソンナンジャオレハ殺セナイゾ!」
パワーもアジリティも経験値も、何もかもサイバーパンクの方が上だった。怪物と呼ばれるだけ人を殺し、そして苛烈な戦場から生き延びているからこその怪物なのだ。
「私も強くならなきゃなんだよ! 死んでくれ!」
ギイィィイン――ッ!
ガキイィィィィン――ッ!
私の橙短剣はサイバーパンクの金属の肉体をカスめる程度しか入らない。一方のサイバーパンクのビームサーベルは岩を溶解させるほどの破壊力を持つ。兵器の差は大きかった。
かと言って六速を解除したなら、ヤツは私の10倍で動き、一瞬にして殺されるだろう。
「ゴハッ――!?」
痛い。頭がとても痛い。
耐え難い頭痛と心臓の痛み、そして赤黒い血反吐と右腕の痺れが突如として私に襲いかかってきた。
(もうオリジンギアの副作用が来たのか……!)
私が地に伏せセブンスギアを離したその隙を突き、サイバーパンクは私の胴体へビームサーベルを振り下ろした。
どおおぉおぉおぉん――
どこからか銃声が鳴り響いた。周りより10倍も早く動いているこの世界では、重く長く響く銃声だった。おそらく、私とサイバーパンク以外にもどこかに人間もしくはサイボーグが居るのだろう。
そしてピンポイントに、私とサイバーパンクが居る富士の樹海で銃をブッ放す様なヤツらは大方予想がつく。
「マタ特殊部隊ノヤツラカ」
重い頭を銃声の出処へ向けると、予想が大当たりした。
そこには数日前まで私を追いかけていた、特殊部隊の隊長のような人間がいた。そいつは拳銃から鉛玉を私とサイバーパンクの方へ何発もブッ放していて、その鉛玉はゆっくりとこちらへ向かってきていた。
「オマエハイツデモ殺セル。マズハアイツラダ」
そう言うとサイバーパンクは私から部隊長へと標的を変え、脚のブースターから火を吹かせて真っ直ぐと彼へ向かっていった。
すると遠くにいる部隊長は、サイバーパンクが動くよりも先に何かを地面に向かって投げるような動作をした。
彼へ向かっていったサイバーパンクはその何かが分からないまま彼と接触する。
「ングオオオオォォォォォオオオ!!!」
突如、何かが投げられた地面に近づいたサイバーパンクがうめき出した。しかもヤツは六速が解除され、ゆっくりと苦しみ出した。
「ガハッ――!」
再び血反吐を吐いてしまった私の身体は、そろそろ限界に近かったのだろう。視界も赤く染まり、ボタボタと目や鼻からも血が出てくる。
ギリ――ギリ――
ここで私の歯車は止まった。ゆっくりと動いていた世界は元の速さに戻り、ゆっくり苦しんでいたサイバーパンクも普通にのたうち回りはじめた。
「また貴様か、ナルナナ」
スタスタと部隊長は私に近づいてきた。サイバーパンクを放って私のところまで来たということは、怪物と歯車をも止める何かに絶対的自信があるようだ。
「アイツ……に、何をした……んだ!」
自身から吹き出る血を撒きながら部隊長に問いかけた。すると彼はジャケットの内側から、ソフトボールぐらいの大きさの、青いラインが入った黒いボールを取り出した。
「ウチの承が開発した対歯車用試作グレネードだ。お前の弟が作った怪物とか、お前のオリジンギアの能力を無効化・拘束する電撃を放つ。この前のオリジンギアの速さは異常だったから、先手を打たせてもらった」
彼は握っているその対歯車用試作グレネードを地面に投げようとした。
ピィィィィン――!
倒れたサイバーパンクの方からレーザービームが飛び、そのグレネードを撃ち抜いた。
撃ち抜かれたグレネードはたちまち効力を失い、青いラインの光が無くなった。
「コロセエェェ!」
赤黒い左腕からレーザーを撃っていたサイバーパンクは叫ぶ。力強く、そして切実に叫んでいた。
「殺してやるよ」
バン――!
バン――!
2発の銃声が樹海にこだまする。
なみなみ生えている樹木の影から見えたのは、やや大きめの拳銃を握る紺の義手と赤い髪の毛だった。