頑張れるのは 【月夜譚No.232】
きつく締めた鉢巻きから勇気が流れ込んでくるようだ。少年は深呼吸をして、バスケットボールを持つ手に力を籠めた。
これは、公式の大会ではない。そもそも、彼は何処の部活にも所属していないから、そういった大会に出る機会すらない。
そんな彼が学校の小さな球技大会の一試合にこんなに力が入っているのには、理由があった。
試合開始の合図が鳴る。ドリブルとパスを繰り返し、自陣がゴールへと近づいていく。普段は味わうことのない高揚感に、少年の頬が上気した。
ゴール下に駆け込んだ彼に、味方の一人がボールをパスする。敵の指先を掠めたボールが吸い込まれるように手中に収まり、彼はそのままゴールを決めた。
わっと喜ぶ味方越しに客席が見える。
頑張れるお守りにと鉢巻きを渡してくれた小さな手がブンブンと音が聞こえてきそうなほど振られているのに、少年は笑顔を返した。
今年小学校に入ったばかりの可愛い妹。彼女の喜ぶ顔が、彼にとって一番のトロフィーだった。