ド・屑
「ざまぁ」要素があります。
ある日、私のもとに一通の手紙が届いた。
外見は茶色の封筒で、いかにも普通の手紙に見えたから、私は完全に油断していた。
封筒の中に、A4の用紙が綺麗に三つ折りされていて、その表面に、住所などが、手書きで記されていた。
こんな形で手紙が届くから、中学の頃の同級生の誰かからだと思っていたけど、違ったようだった。
それは、一年前に会社を辞めた同僚からの、手紙だった。
彼女とは同僚だったが、実際どういう人なのかは、あまり分かっていない。
同じ部署だったけど、仕事以外はあまり関わる機会がなかった。
仕事中の態度から見て、自己的な人、という感じがした。
手紙は、A4用紙3枚が、裏表びっしりと、まぁまぁ多かった。
読み終わって、私はこの間読んだ、一冊の本について思考を巡らせた。
「スラム街・出稼ぎ労働者」についての本。
スラム街に生まれて、家族のために頑張って出稼ぎに行く。
働いて得たお金の分だけ故郷の家族に送金するが、二十年後戻ってきたら、家族の金遣いが荒く、送金したお金は全部蒸発してしまって、今は物乞い同然の生活をしているという事実が分かった話。
生まれる環境は選べないのだ。
環境が悪く、そして、気づかぬ内に、他者に利用されてしまうということがある。
自分でそれに気づけないまま、手の中にあるものが幸福だと思って、
他人を自分が支配していると思い込んでも、実は支配されていたという話もよく聞く。
宗教とは自分の指針を定めていくための基準である。なのに、その考え方に囚われてしまったらどうする。
自分の幸せを見つけるためのものなのに、縛られてどうするんだ。
籠の中で幸せだと思い込んでどうするんだ。
もちろん他人のことは他人だし、相手が幸せだと思っているのなら、口出しはしない。
でも、無機物となって、死ぬまで屑みたいに使われるようなことは、
自分の身内にあってほしくない、そうならないように、私が気をつけよう。
そう、思った。
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突然このような形で手紙を送ってしまって本当にすいません。
私のこと、覚えていらっしゃいますか?
封筒の裏に名前が書かれている通り、私はKです! 仕事以外あまりお話する機会がなかったので、忘れてしまっても大丈夫ですが、覚えてくださったら嬉しい限りです!
前置きはこれくらいにして、本題に入ろうと思います。
まずは最初にはっきり言いますね。
借金を押し付けられました。7445万円です。騙されました。助けてください。お金を貸してください。お願いします。
手紙を閉じないでください。怪しいものではありません、詐欺ではありません。
本当に困っています。
私たちは同じ部署で働いていた同士ですし、それで、助けてほしいのです。
ちゃんと理由があるんです。お願いですから、この手紙を閉じないでくださいね。
今からその理由を話そうと思います。
まずは7445万円のことですね。これは、一年前に買った家のローンです。
最初は3500万円くらいでした。しかし、借金などをして、利子が付いて、7454万円になってしまったのです。
借金をしたのは私が悪いんじゃありません。
私の夫が悪いのです。
元々、私はローンの名義人ではありませんでした。
元の名義人は、私の夫です。
私と、私の夫の出会い、そして、こうなってしまったことまでの経緯を説明しますね。
経緯は、こうです。
夫は、幼少期から天涯孤独で、小さい頃に両親が事故で亡くなっており、親類もいません。
一度だけ、彼の叔父らしき人物に会いましたが、彼はあまり叔父(?)の存在について話したがらなかったので、私はあまり深く聞きませんでした。
友達は、結構いると思います。よく出かけていましたし、交友の幅も広かったと思います。
でも、私はその人達の連絡先が判りません。誰も教えてくれません。
夫とは、合コンで知り合いました。
とても誠実で、正直な人で、おまけにどこかの会社のいい職に就いているようで、私は好意を持ちました。
そして、私たちは結婚しました。
私は自分の両親のことがとても大好きでしたので、そのことを夫に告げて、両親と四人で一緒に暮らしたい、と言いました。
実は、私と私の両親は、その前に謀議をしていたのです。
「お前の夫は世間知らずだから、徹底的に騙せ。骨の髄まで貪り尽くすんだ。俺たち三人は、楽をして暮らすぞ」
と、父に言われました。
そして、私の母もそうだそうだと、賛同していました。
私もまた、その作戦にとても魅力を感じていたので、三人で夫を嵌めよう、ということで決定しました。
私は、夫より、両親の方が好きでした、というより、神だと思っていました。
また、私は儒教信奉者である為、『序列として、両親、私、次に夫がある』という教義に従いました。
そして、私と夫の間に、将来的に、私の家の養子として入るようにする、という約束があったから、身分が劣る、というわけです。
こんなにも素晴らしい両親より、夫の方が上なわけがないでしょう。
父は、とても厳しく、怒ったら暴力を振るってきますが、それは父が私を愛している故にやっている事なので、なにも問題がありません。むしろ、嬉しい限りです。
母は、父と同じように厳しいですが、時折見せる優しさは、まぁ、聖母のようで、とても美しいのです。
私は、両親のことを愛しています。愛して、愛して、愛してやまないのです。
とにかく、私たちはその作戦を立てました。
作戦は上手くいき、私たち三人は夫を盛大にもてはやして、いい気にさせて、家のローンを単独名義で組ませるまでに至りました。
場所だけは、気に入りませんでした。
本当は、私の両親の生まれ育った地元である北九州で暮らしたかったのですが、大分になってしまいました。
だけれども、いい企業でいい収入を得ていた夫であるから、満足した家を買うことができたのでした。
最初の夫との約束では、夫と私、父で働き、家事は母がする、というものでしたが、夫が家を買ったことが決定し、四人で暮らし始めると、計画通り、父と私は仕事をすぐに辞めました。そして、家でダラダラと暮らしたのです。
母も、家事は全部、料理以外、夫にやらせることにしました。
「男の人はね、愛している人のためなら、なんでもやるのよ」
母は、私にこう言いました。
母の言うことは絶対に正しいので、私はもっと楽をしました。
夫が家事をサボったり、逆らったりすると、暴言を吐いたり、怒鳴りつけたり、ひどい時は包丁を向けて脅したりしました。
ところがある日、夫が帰ってこなくなりました。
それだけではなく、いつの間にか、家のローンが私たち三人の名義になっていたのです!
実印、通帳といった、あらゆる大切なものも消えていました。
夫の会社を名刺で探して、電話番号でかけても、繋がらないどころか、全く関係のない、赤の他人が電話に出ました。
夫は蒸発、行方不明です。こんなこと、ありえません。
夫とは、離婚していない状態です。
夫は、今、どこにいるのかが判りません。
家のローンのことを銀行に言うと、あなた方が払え、名義人はあなた達になっているから払えと、一点張りです。
私は必至に、夫を探しましたが、ダメでした。
夫、あの人に騙されたのです。
毎日、銀行から支払いの催促の電話が自宅、携帯にかかってきます。とても、疲れ果てています。
私たち三人は、北九州に帰りたい、こんなところで住み続けたくないと、泣きました。
こんなに悲しいことがあるのでしょうか。あるとしたら、私の両親が死んでしまう時だけです。
二週間前、見知らぬ人が私の家に来て、手紙を渡しました。それは、夫からの手紙で、
「ざまあみろ。すでに、法的に、離婚することも決定している。離婚届は、ある裏ルートで提出している。今、新しい妻と暮らしている」
と書いてあり、写真が同封されていて、見ると、明らかに国外の一軒家、そして、彼は、栗色の髪をした美人の白人女性、そして、二人の五歳くらいの男の子と一緒に写っていたのです。
「彼は、すでに、あなた達の手から逃れました。彼は今や、私の夫です。実は、彼はあなた方と別れた後、ものすごい財産を手に入れました。彼の叔父らしき人物が彼に与えたのです。彼は、'ざまあみろ’と彼ら伝えてくれと、私に言いました」
英語で書かれた部分を翻訳してみると、こういうことが書かれていました。
私は、その人に色々と質問したりしましたが、「伝えるようにと言われたこと以外は喋れない」と言われ、その後は、スペイン語でしか話してくれませんでしたので、何を言っているかさっぱり、判りませんでした。
これが、私が借金を持っている理由です。
私はなにも悪くありません。
私の夫であった彼は、私と、神様のような存在の、私の両親を捨てて、一人で出ていきました。
彼が悪いのです!
どうか、お金を貸してください。
10万円くらいでもいいです。
いまや、銀行から、家を売却して、返済しろと、毎日5本以上の電話が当たり前のようにかかってきます。
そして、昨日、なぜか、全身黒色の大男三人が家に押し寄せてきました。
借りた覚えのない借金を、1500万返せと言われて、もう、怖くて怖くて仕方がありません。
助けてください、お願いします!
私はただ、神様の言うことを守ってきたいい人なんです。
10万でもいいですから貸してください! 必ず返します!
お金をどうか、貸してください!
屑→1,2人以上 パターン→∞