【ココロノオト】2話 ユメウツツ
「真也のせいじゃないよ。」
いつも夢は、この言葉から始まる。
高校の屋上。空はこれ以上ないくらい真っ青だ。
そんな中、屋上の塀に立つ僕の元親友の姿は違和感でしかない。
彼に何か伝えなければと、いくつもの言葉が頭の中をぐるぐると回る。
体は全身鎖にでも繋がれているかのように動かない。
動けと念じれば念じるほど、身体は言うことを聞かなくなる。
次の瞬間、彼の体が宙に投げ出され、自由になる。
色が抜け落ち、真っ白になった彼はとても綺麗で、少し汚れていた。
この光景は何度見ても慣れないな。
慣れてしまえば楽なのだろうが、きっとその頃僕は人間ではない何か違う存在になっていそうな気がする。
彼が飛び降り自殺を図ったのは高校3年の夏。
原因はいじめだった。
もともといじめられていたのは僕で、それをかばった彼が次の標的になったという具合だ。
恐怖となんとかこの生活から逃げ出したいという一心で、僕は気付けば彼をいじめる側に立っていた。
上から見下ろす彼の顔は、いつも僕に何かを訴えかけていたような気がする。
それがなんなのか気付きたくなくて見て見ぬふりをした。
そんな日々が約1年ほど続き、彼は自殺に至る。
正確に言うと自殺未遂で、命に別条はなかったらしいと数日後の朝のホームルームで担任の先生から聞いて知った。
その時覚えた感情が安堵なのか恐怖なのか、感情がぼやけてうまく思い出せない。
彼はその後、県外の学校へ転校することになり、話をしたのはあの屋上が未だに最後だ。
事件後の僕はというと、別人のように勉強に明け暮れ、親に勧められ操り人形の様に有名な医大に入り、大学を主席で卒業した。現在は今の病院で外科医をしている。
傍から見れば羨ましい実績のはずだが、僕の心には白い絵の具がドボドボと零れているだけで、なんの色もつかなかった。
僕は、彼の心を殺したのだ。
人の心を殺めた僕が、人の心臓を弄る仕事をしているなんて自分でも嗤ってしまいそうになる。
汚れた心に仮面をつけ、フツウノヒトを装う。他人と深い関わりをもたず、空気を読んで会話をする。そんなことばかりがうまくなり自分の影が薄れていく。そんな腐りかけの日常が突如変化を遂げたのは、僕が丁度この夢から覚める頃だった。