第7話:神は神より出でて神より神々しい
謎の神様宣言は、俺たちの背後で行われた。つまり、まだ目は合ってない。
声からして女。待望の美少女かもしれないが、どうせゴリラだ。そして、中身は『神様宣言』するようなバカ。絶対関わりたくない。
(おい慎吾、振り返るなよ?)
(分かってるよ。関わるとめんどくさそうだ)
面識のない女子なら無視したぐらいじゃ絡んで来ない……はず。無視してれば、そのうち諦めてどっか行くだろ。行け。
「おーい。聞いてるー? 神様が来てあげたよ!」
聞いてないよ。だから、早く帰って?
「呼んでおいて無視はひどくない? せっかく来たのにー」
お前みたいに変な奴は呼んでない。俺たちは神を呼んだんだよ。………俺たちも十分変な奴らだな。
「本格的に無視? マジで? ボク、このまま帰る流れ?」
なんなら俺たちが屋上から出ていきたいが、自称神は入口の側にいやがる。だからお前が帰れ。
「もしかしてほんとに聞こえてなかった? 一応、もっかい宣言しとくね!」
こいつ1人でめっちゃしゃべるな! 早く諦めろよ。
「では、改めまして。呼ばれてぇ、飛び出てっ! 神様ぁ、登っ場っ!」
さっきより、明らかに気合の入った宣言が聞こえてきた。こんだけ無視してるのに、メンタル強すぎだろ。こいつ何なの? めっちゃ気になってきたわ!
1人で騒ぎ続ける自称神がどんなゴリラなのか一目見たくて、我慢できずに振り返る。
すると、そこには、
――横ピースしたまま、ぶつくさ言っている美少女がいた。
…………は?
…………え?
…………まさか。
…………び、美少女?
一目見て、美少女であると分かる。
つまり、そこにいたのは、久しぶりに見る――
人間で、
美少女で、
毛皮のない、
かわいい女の子だ!
「あっ、やっとこっち見た」
その何でもないセリフを紡ぎだしているのは、紛れもない女の子の見た目をしているただの美少女だった。
※※※※※
「せっかくボクが来たんだから無視しちゃだめだよ。ボク、神様なんだよ?」
まだぶつくさ言ってる美少女はとても美少女だった。すごい勢いで俺の目が保養されてる。
肩までかかる透き通った黒髪に、吸い込まれそうな真っ黒な瞳。そして、顔面戦闘力が凄まじく高い。街で見かけたら目を奪われるレベルの美少女だ。
……いや、そこまでじゃないか? 比較対象がゴリラだから感覚が狂ってるかも。まぁ、間違いなく目は奪われる。ゴリラじゃないからね!
ただ、美少女は珍妙な格好をしていた。真っ白なポンチョ? ワンピース? を着て、腰のあたりに真っ赤な帯? を結んでいる。神っぽい格好に見えなくもない……か? ここ学校なんだけど。コスプレ?
俺たちの興味と懐疑の視線を気にせず、自称神は元気にしゃべり続ける。
「もう分かったと思うけど、呼ばれて飛び出た神様だよ!」
…………やっぱ関わらないほうがいいかな? 話が通じない気がする。
いや、関わるべきだ。こいつは変な奴だが、美少女だ。この世界、美少女補正が凄まじいのだ! 中身がちょっとアレでも我慢しようと思える。
本当なら、いきなり神を自称するような奴とは関わりたくない。だが美少女と話すチャンスだ。がんばれ俺。通じろ話!
「えーと、いきなりで悪いんだけど、君は?」
「神だよ!」
どうしよう、思ったより話が通じない。
「そうじゃなくて、あー、名前は?」
「だから、神だよ!」
「………………」
……あー、うん。こりゃ駄目だ。
「ちょっと黙らないで。ちゃんと会話のキャッチボールしようよ!」
お前が言うな、お前が! どこにボール投げてんだよ、取れるわけねぇだろ。
やっぱだめだな。こんな世界だからこそ、大事なのは見た目じゃなく中身だ。どれだけ美少女でも、話が通じないのは無理だ。
しばらくは、慎吾と頑張っていこう。一応ゴリラじゃないし。美少女でもないけど。ちなみに慎吾くんは、俺と同じタイミングで振り返った後、固まったままだ。こいつ役に立たな過ぎでは?
(おい、慎吾。行くぞ)
慎吾を連れて屋上から撤退だ。さらば美少女。俺、他にも美少女はいるって信じてる!
「待って待って、待ってよ! なんで帰ろうとしてるの? 何か話があって呼んだんでしょ⁉」
「「………………」」
今度こそ無視だ。もう知らん。固まったままでも話は聞いていたのか、慎吾も自称神と関わる気はないようだ。
「このままボクと話しないでほんとに良いの⁉ 冷静に判断してよ、司!」
無視するはずが、思わず振り返ってしまった。こいつ、なんで俺の名前知ってるんだ?
「そのまま落ち着いて考えて。そうすれば、ボクを無視するなんてあり得ないって気付けるから」
…………ふむ。こいつ明らかに何か知ってる感じだし、美少女だ。こいつの言葉に従うのは癪だが、たしかに無視すべきではないかもしれん。
(司、大丈夫か? 俺、こいつと話す自信ねぇぞ)
(俺が頑張ってみるから、そのまま横で聞いといてくれ)
(任せた。がんばれ)
キャッチボールしょうぜ、自称神!
「やっとまともに話が出来そうだね。何でも聞いていいよ!」
なぜドヤっとした顔してるんだ、腹立つな。
「結局、お前って何なの?」
「それはボクという存在が何なのか、という哲学的な問い?」
「ちげぇよ。単純な疑問で、純粋なクエスチョンだ」
「ボクは神だよ。さっきから言ってるじゃん」
こいつ、いつまで神を自称するんだよ。厨二病なの? そういう設定なの? 学校でコスプレまでしてるイタイ奴なの?
「……神を自称するのやめて?」
「自称じゃなくて、ボク、ほんとに神様なんだけど」
「……はぁ。分かったよ。じゃあ、空でも飛んでみてくれ」
あくまで神だって言い張るなら証拠を見せやがれ。
「はぁ? そんなの無理に決まってんじゃん! ボクを何だと思ってんの?」
「自分で神だって言ったよなぁ⁉」
「ボクはほんとに神様だけど、無理なものは無理だよ!」
「そこら辺の無理難題を乗り越えるのが神じゃねぇのかよ!」
「いや、そんな格好良いこと求められても困る」
「……じゃあ、何が出来るんだよ?」
めんどくさくなって、投げやりな気持ちで聞いたのに、
「んー、そうだね。司たちにも分かりやすいのだと、世界をゴリラにする、とか?」
――とんでもない答えが返ってきた。
自称神の服のイメージはてるてる坊主。