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第6話:ボーイ・ミーツ・G ②

 とりあえず、落ち着いた――とは、ならなかった。


 無理だ。さっきはゴリラへの熱い思いをぶちまけてスッキリしたが、今度はそう簡単じゃない。


 親友だと思っていた慎吾(にせゴリラ)は、裏切り者だったらしい。


 慎吾(くそやろう)は、今も「落ちて着いて聞けって言っただろうが! てか、俺も困ってるんだよ!」などとほざいている。それに「ちょっと黙ってろ殺すぞ」と極めて理性的な返事をして静かにさせる。


 このまま勢いで慎吾を始末したいが、我慢だ。たった2人の人間だし、まだ聞くべきことは多い。今、慎吾を失う訳にはいかない……はず。

 ……慎吾、美少女じゃないし、もう始末しようかな。いや、美少女と出会える保証はない。早まっちゃだめだ。


 状況を整理して、慎吾の必要性を再確認しよう!



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 世界はゴリラだらけになったよ♪ 人間は俺と慎吾の2人だけ! 慎吾は唯一無二の存在だ! ただ、この状況を望んだのは、なんとびっくり慎吾くん! 今、俺はそのことでキレているのに、慎吾に「落ち着け」って言われてるゾ☆


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 ………………やっぱ、慎吾を始末すべきでは?




 ※※※※※




 …………ふぅーーーーーーーーーー。

 今度こそ、とりあえず、落ち着いた。

 

 その過程で、脳内で13人ほど慎吾を始末したが、必要な犠牲だ。俺は、自分の理性を褒め称えていい。


 極めて理性的で冷静な俺は、慎吾の責任追及をいったん置いておくことにした。慎吾をシバキ倒したい気持ちをぐっとこらえて、詳しい話を聞きだすのだ。シバキ倒すのはその後でいい。

 

 落ち着いて冷静に、事実だけを確認するんだ。


「確認するぞ。昨日、お前は『世界みーんなゴリラになぁれ』と願った。そうだな?」


 気分は取り調べをする刑事だ。私情を挟むな、冷静に。


「まぁそういうことになるな」


「冷静にコメントしてんじゃねぇよ‼ てめぇどういうつもりでこんなことしやがった、あぁ⁉」


「聞いてくれるか?」


「教えろって言ってんだよ!」


 だめだ、全然落ち着けてねぇ。


「……実は昨日、ゴリラカウンターが記録的な数値に達したんだ」


「あ? ゴリラカウンター? なんだよそれ?」


 ゴリラってついてる時点で碌なもんじゃないのは確かだ。

 

「俺のあだ名がゴリラなのは知ってるだろ?」


「当たり前だ。今となってはそんなに似てない気もするけど、普通に考えてお前のあだ名はゴリラだよ」


「それは分かる。確かに俺はゴリラに似てるよ! だけどさぁ、みんながゴリラって呼ぶのは違うだろ。みんな俺の名前知らないんじゃねぇの」


 たしかに言われてみれば、俺以外の人は慎吾のことを「ゴリラ」か「ゴリ」って呼んでる。俺は、子供のころからの習慣で慎吾って呼んでるけど。


「で、結局、ゴリラカウンターって何だよ? 話の繋がりが見えないんだが」


「俺が人から『ゴリラ』って呼ばれた回数を数えたものだよ」


 え、こいつ何やってんの? なんで数えたんだよ。バカなの?


「ちなみに何回になったんだ?」


「…………聞きたいか?」


「……やめとこう」


 表情から大体察した。こいつも色々悩んでたんだな。親友として相談に乗ってやるべきだったか。

 

 それは、さておき、だ。


「だから、『世界みーんなゴリラになぁれ』って願ったのか?」


「ああ。ちょうど七夕だったから、夜空に浮かぶ星を見上げながら、ついポロっと」


 よくもまぁ、そんなロマンティックな状況で、ここまで酷いお願いが出来たな。星に謝れよ。


 てか、みんなにゴリラと呼ばれたからって、世界がゴリラまみれになることを願うなよ! 何でゴリラって呼んだ相手をゴリラにしなくちゃならんのだ。あれか、『バカって言う方がバカなんですぅ!』と同じ理屈か。


 と、ここで1つ疑問が生じた。


「なんで俺はゴリラになってないんだ?」


 慎吾は『世界()()()()ゴリラになぁれ』と願ったのに。慎吾はまだしも、俺は?

 ()()()に俺は含まれてないのだろうか。なにそれ悲しい。……いや、まぁゴリラになんてなりたくないんだが。


「……司は俺のことをゴリラって呼んでなかったから、とか?」

 

 なるほど。慎吾の『お願い』は復讐的な意味合いを持つから、俺は関係ない。その結果、俺はゴリラにはならず、ゴリラだらけの世界を満喫できている。


 …………ふむ。つーまーりー?


「ふっざけんじゃねぞクソったれ。結局、全部お前のせいじゃねぇか! 何のために俺が一旦冷静になったと思ってんだよ。お前の衝撃発言を全力でスルーしてやった俺の努力が無駄じゃねぇか!」


「はぁ? ふざけてねぇよ、こっちは真剣だ。てか、お前は今の話に少しも同情しなかったのか⁉」


「同情はしたけど。お前のせいで、世界がゴリラになってんだよ!」


「願っただけで俺は悪くねぇ!」


「お前の願いが叶っちゃてるんですけど⁉」


「だとしても俺は悪くないだろ。願うのは自由だ!」


「でも、叶っちゃたらお前を責めるしかないだろうが!」


「そこは、ほら、あれだよ。俺じゃなくて、神様とかを責めるべきだ」


「神? お前正気か?」


「こんなこと出来るの、もう神様しかいないだろ」


「………それも……そうだな。なんか俺も神が悪い気がしてきた」


「だろ? 絶対、()()神様のせいだよ」


 お願いをしやがった慎吾が悪いという事実は1ミリも消えない。が、世界を変えた諸悪の根源が、慎吾とは別にいるのも事実だろう。神が悪いというのも一理ある。


「出てこい!」


「元に戻せ!」


「せめて、説明しろ!」


「ついでに、責任をとれ!」


「なんならゴリラになっちまえ!!」


 俺たちは、必死に神に呪いを捧げた。それはもう気持ちを込めてお呪いした。


 だが、本当に神がいるなんて思っちゃいない。ただ責任を神に押し付けて、少しでも落ち着こうとしているだけだった。


「「とりあえず、神(様)がいるなら出てこい!!」」


 こんな風に叫んでも意味がないのは分かっていた。大声を出してスッキリして、それで終わりのはずだった。

 

 なのに――



「呼ばれて飛び出て神様登場!」



 ぽふんっ、という間抜けな音とともに、()()()は高らかに宣言した。

 やっと登場した。

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