第3話:ドキっ! ゴリラだらけの高校生活(ゴリラがいるよ)
「………はぁ」
……終わった。もうだめだ。
目の前では無数のゴリラが蠢いていた。
昨日も似たような光景を見たのに、新鮮さが少しも薄れていない。
俺は学校に来たつもりだったのだが、道を間違えたかな? ここは動物園だろうか。
それにしては、ゴリラの数が多すぎる気がするけども。むしろ、ゴリラしかいないんだけども。なんなら檻にすら入れられていないんだけども!
……そろそろ認めよう。学校に来ても状況は好転していないという現実を。
わが愛すべき、爽山高校はゴリラの巣窟と化していた。昨日と同じで、見渡す限りゴリラしかいない。ただ、昨日と違い、全てのゴリラが制服を着ているので不気味さは倍プッシュ! 何だこれ地獄かよ。
…………はぁ。やっぱだめかぁー。そうだよな、そんな都合よくないよな。学校だけゴリラ化を免れてるわけないよなー。……はぁ。わかってたよ、期待なんてしてなかった、全然してなかったよ!
俺は、最初から1人でいいから美少女がゴリラになってなければいいな、としか思ってなかった。だから落ち込んでない、断じて落ち込んでない。……はぁ。
これからどうすればいいんだろう? このままゴリラの中を1人で過ごさなきゃいけないの?
なにそれ嫌だ。てか怖い。でもこのまま何も起きなかったら、必然的にそうなる。そして、それを防ぐために何をすればいいのかもわからない。わぁお困った。
ただ、実害はないのだ。ゴリラとは会話は出来るし、襲われてもいない。つまり、普通に過ごすうえで、特に困ることはないのだ! ただ、人間がゴリラの見た目をしているだけなのだ! わぁい困った。
どうにか状況を肯定的に受け止めようとしたけど、無理だ。ゴリラが邪魔すぎる。
※※※※※
重すぎる足をどうにか動かして教室にたどり着いた俺は、美少女の到着を待った。
しかし、扉から入ってくるのはゴリラだけ。次から次へとゴリラが扉から入ってくる様子は軽いホラーだった。
クラスメイトが登校してきているだけなのに、精神的にどんどん追い詰められている。大丈夫だ、実害はない。精神が削られているだけだ。……実害あるのでは?
昨日から結構な数のゴリラを見てきて分かったことがある。全員同じゴリラだが、よく見れば見た目にも違いはあるのだ。つまり、頑張ればゴリラの見分けもつくかもしれない。
学校生活を送るなら、クラスメイトの顔と名前ぐらいは把握したい。約40匹のゴリラの見分け……ハードルが高すぎる。
席と声から判別するんだ。がんばれ俺!
「…………」
教室のいたるところで、女子が集まって女子高生らしいキャッキャウフフな会話をしている。けど、見た目はウッホウホホなジャングルだ。やばい。昨日までとのギャップがすごい。全く萌えない。
「……ふぅー」
負けるな俺!
……数分間のゴリラウォッチングにより俺のメンタルは犠牲になったが、何人かの判別に成功した。
その成果として、我がクラスの麗しき女子高生を紹介しよう。
1人目は、山田さん。以前はとても立派なお胸をお持ちだった。それが今や凄まじい胸筋だ。もはやアーマーをつけてるようにしか見えない。てか、全員もれなく胸筋がすさまじいので、俺の中での山田さんの特徴が消えた。
2人目は、谷川さん。以前は小動物的な愛くるしい見た目の可愛い女の子と評判だった。それが今や類人猿最大のたくましい体だ。周りと比べると小柄かもしれないが、断じて可愛くない。前は守ってあげたくなる感じだったが、今はすごい頼りになりそう。でも、守って欲しくはない。
3人目は、高橋さん。クラス委員長なだけあってまじめな生徒だった。それが今や…………いや、性格は変わってないか。変わってないよね? クラスみんなが風紀を乱してるよ、ただしてくれ委員長。あと、あなたがいると黒板が見えにくそうなんですけど。どいてくれない?
他にも女子は何人もいるが、席に座っていないので判別不能だった。
もちろん男子もいるのだが、男子高校生なんて元からゴリラみたいなもんだろう。女子ほど見た目に変化がない気がする。……ゴリラの見過ぎで感覚がマヒしてきたかもしれない。
ただ、顔だけでは男女の区別すら怪しいので、みんな小学生みたいに名札を付けてくれないかな。
※※※※※
淡い期待で膨らませてきた胸は、深い絶望に叩き潰されてしまった。
分かったのは、結局みんなゴリラだったという絶望的な現実。
美少女を見つけるために、ある程度のゴリラは受容する覚悟をしたつもりだったが甘かった。俺の想定以上にゴリラが精神にダメージを与えてきやがる。もうこれ実害あるよ。このままだと、俺のメンタル死んじゃうよ。
避難すべきだ。いったん、教室から避難しよう!
閉鎖空間に40匹近いゴリラと閉じ込められているという状況は精神に負担がかかりすぎる。
どこでもいいから避難したいけど、どこにいってもゴリラがいるよ。くそが。
ゴリラのいないところを求めて、廊下をふらふらと進む。もちろん下を向いて。下手したらゴリラと目が合っちゃうし、目に悪すぎるからね。
そして、気付きたくなかった事実を発見。ゴリラって足も威圧感あるんだね! なんかこう人間の足と比べてがっしりしている。あともっさりしている。毛皮め。
そんな日常生活にあふれる小さな不幸せを見つけている俺に、突如して声がかかった。
「……っ。おい、司っ⁉」
周りがうるさくてよく聞こえなかったが男の声だ。できれば全力で無視したい。美少女じゃないことが確定してるし、どうせゴリラだ。だが、下手に刺激してゴリラに絡まれたくない。それだけは嫌だ。
俺は気力を振り絞って、「何だ?」と務めて明るく答えるために上を向く。と同時に、ゴリラと顔を合わせることによるダメージに備える。がんばれ俺のメンタル!
しかし、そこにいたのは、もはや見慣れつつあるゴリラ――
「なんっ、は? ……えっ、し、慎吾?」
――ではなく、俺の親友、浦仮慎吾だった。
ゴリラの見た目は、
“サルサルの実” モデル“ゴリラ”を食べた“ゴリラ人間”のイメージ。