バレンタイン①
クリスマス、正月が終わると次はこれだ。
あちこちが赤色、ピンク色、黒色、白色で彩られている。
テレビでもチョコレート特集をやったり、バレンタインレシピなどを公開したりしている。
毎年のことながら「こんなお菓子メーカーの商戦にのるか!」と言っているアンチが街にはびこっているが恋人たちには聞こえていないようだ。
「どうしよう・・・・・・」
来夢は自宅のキッチンで腕を組んで立ち尽くしていた。
目の前には明日のためのチョコレートマフィンのための材料が用意されていた。
「どうしよう」というのはこのバレンタインのお菓子を作るのをやめようかどうかという問いではない。
今、問題なのは誰に対して作るかなのだ。
クラスの人や部活の人に作るのはもちろんだがそれはあくまで義理チョコや友チョコであって本命ではない。
本命は・・・・・・
「はぁ、渡していいのかな・・・・・・」
匠に作ろうかどうかを迷っていた。
作りたい気持ち、渡したい気持ち、この想いを伝えたい気持ちはいっぱいにまで膨れ上がっている。
ならば作ればいいじゃないか、と思うがそれでももし渡して匠が困ってしまうのが来夢にとっては一番つらかった。
義理チョコとして渡すのも一つの手だったが、本命の相手に義理を渡すのは少々気が引けた。自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。
「お姉ちゃん、早く作ってよ!」
キッチンの前で何度もため息をついていた来夢に後ろから声がかかった。
来夢は自分のこんな姿が誰かに見られているとは思っていなかったので、驚いて後ろを振り返った。
「か、華鈴! いつからそこにいたの?」
慌てながら聞いた。
急に振り返ったせいでキッチンに用意していた材料を危うくひっくり返しそうになってしまった。
華鈴は家族なのだからそんなに驚かなくてもいいのでは、と目の前であわあわしている自分の姉を見て思った。
そんなに慌てられたら自分が悪いことをしたように感じた。
朝比奈 華鈴。
朝比奈家の次女にして来夢の妹である。
現在中学三年生で今年度、山の丘高校を受験しようとしている立派な受験生である。
来夢に華鈴・・・・・・朝比奈家の親(ちなみに名付けたのはどちらも母親)は柑橘系が好きなのだろうか?




