部活
その日の五,六時間目は部活動のオリエンテーションだった。
例年新入生が本格的に部活に参加するのは五月頃だがその前に体験入部ができる。
帰りのホームルームの後、二組では部活の話がそこかしこで聞こえた。
匠はホームルームを終えたので職員室に戻ろうとした。
「そう言えば、先生って顧問とかやってるんですか?」
男子生徒の声に引き留められた。
九条 努。
体格がよく、肌も焼けている。頭を坊主にしているのは野球部に入りたいからか。
「いや、俺は何も」
匠は努を振り返って言った。
「へぇ。じゃあ放課後とか何やってるんですか」
「別に何も」
全くキャッチボールができていないという自覚は匠にもある。
「九条は野球部か?」
だから自分から聞いた。
「そうです。まぁ俺そんなうまくないんですけど」
へへっ、と努は力なく笑った。
いつもの匠なら「そうか」と言って去るかもしれない。
だが匠も自分のしたいことをすることの楽しさを知っている。
たとえその後に何があったとしても、その楽しさは心の奥底には存在する。
だからなのか、
「別に、上手い下手とかいいんじゃねぇか。やりたいことやれば」
その言い方は《《いつも通り》》ぶっきらぼうだ。
だがその台詞は《《いつもとは違った》》。
だから努もはじめ何を言われたのかわからなかった。
だが、応援してくれていることがわかった。
「あざっす!」
努は頭を下げて荷物を持って体験入部に向かった。
(俺、変だな・・・・・・)
久しぶりの担任を任されて調子が乱れていると匠は思った。