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クリスマス④ ラスト

 来夢は()()に何かがつけられたのを感じた。

 恐る恐る目を開けると左腕にブレスレットがつけられていた。


「これ・・・・・・」

 左腕を自分の方に引き寄せて眺めた。

 二つのチェーンからなるピンクゴールドのブレスレットには小さな星がアクセントとしていくつもついていた。

 細い形状が気品を醸し出していた。

 夜なので輝きがないはずなのにそのブレスレットは光って見えた。

 宝石もついていないのにまるでそれ自体がこの世に一つしかない宝石のような存在感を出していた。


 来夢は固まってしまった。

 動きも、思考も何もかもが止まった。


「・・・・・・き、きれい」

 ようやくその三言だけが出た。

 その三言が来夢の中で繰り返されていた。


「よかった。喜んでもらえて」

 そこで匠が恥ずかしそうに指でほおをかきながら発言した。

 来夢ははっとして匠の方を見る。

 視界がゆがんで見えるのはどうしてか。


「先生、これ・・・・・・」

「ああ、クリスマスプレゼントだ」

「私に・・・・・・」

「もちろんだ。ああ、お返しはいらないぞ」

 両手を前に出してジェスチャーをした。


 だがその言葉に納得がいかなかった。

 来夢は話し始めると涙がこぼれるかもしれないと思いながら聞いた。

「どうしてですか?」

 匠が何と言う予想できなかった。

 だが、必ず自分を優しく包み込むだろうという確信はあった。


 匠は優しく微笑むと右手を来夢の頭に優しくおいた。

「俺は来夢からたくさんのものをもらいすぎている。来夢が花火大会で俺に言ってくれた言葉。夏休みに海に誘ってくれたこと。俺を認めてくれたこと。来夢がいなければ今の俺はない。まだ殻に閉じこもったままの何もできない俺のはずだ。俺は来夢の担任ができて幸せだ。二組の担任ができて幸せだ。もしもお礼がしたいのならば来夢がこの先助けてもらったと思う人物にしてくれ。来夢が幸せそうにしているのが、俺の幸せだ」

 右手で来夢の髪をすっとときながら離した。


 そのとき匠は気づいた。

 自分の心の声を聞いて気づいた。

 来夢の幸せが自分の幸せなのだと。

 自分が来夢を特別な存在に感じているのだと気づいた。


 (私が助けてもらってるのは・・・・・・)

 来夢は匠の言葉を考えていた。

 「助けてもらっている」人物はすでに存在している。

 文化祭のとき、準備でてんやわんやになっていた自分に声をかけてくれたのは。

 バンドに出られなくなったときに助けてくれたのは。

 自分の好きな二組を上手くまとめてくれているのは。

 同じ人物の顔がずっと思い浮かぶ。

 わかっていた、だが改めて気づく。

 自分が匠を特別な存在に感じているのだと気づいた。


 (俺は・・・・・・)

 (私は・・・・・・)


 (来夢のことが・・・・・・)

 (匠先生のことが・・・・・・)


 (好きだ・・・・・・)

 (好きなんだ・・・・・・)


 静寂が二人を包み込んだ。

 眼下で光り輝くイルミネーションよりも二人は輝いていた。

 胸からあふれる想いを必死にこらえていた。

 言いたい、でも言っていいのかわからない。

 生徒と教師。

 学生と大人。

 二人の間にある壁は高すぎる。

 だがそれでも超えたい。

 だが相手の気持ちもわからない。

 どんなに考えても答えの出ない問い。

 口にしてしまえばそれで終わりだが、口に出す勇気が湧かない。

 もしこの想いがおもすぎたら・・・・・・

 大切な人を困らせたくはない。


 二人の想いが複雑に交差する。


「先生!来年もまた担任してくださいね!」

 ほおを涙が伝う。

 言いたいことはたくさんあったがそれしか言えなかった。


「もちろんだ」

 匠のほおにも光るものがある。

 花火大会の時以来の涙だ。

 伝えたい想いが、伝えていいのかわからない想いが胸の中にある。

 

 二人の涙が、それぞれの気持ちを伝えていた。

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