クリスマス③
「わー、人多いですね」
店を出た途端来夢が言った。
店の外は一層恋人たちでいっぱいになっていた。
まだイルミネーションも始まってもいないのにその場は煌めいて見えた。
「これじゃあ、イルミネーション見るのも一苦労しそうですね」
残念そうに言った。
実はクリスマスプレゼントを買ったついでにイルミネーションを二人で見られたらいいなと思っていたのだ。
だが人が多すぎてゆっくりと見られないと思った。
来夢がため息をつくと匠が来夢の手を取った。
「えっ?」
少しふぬけたような声を出した。
手を取られたかと思うと匠が歩き出したのだ。
それにつられて来夢も歩くがどんどんイルミネーションの場所から離れていっている。
「来てみればわかる」
匠はそれだけ言うとどんどん進んだ。
来夢の中にはまだ不信感が残っていたが身を任せることにした。
「ここって・・・・・・花火を見た公園ですよね」
「そうだ」
匠はゆっくりと公園の中に入っていった。
来夢もその後を小走りで追いかけた。
忘れられない、忘れたくない、約半年前のこと。
匠が初めて過去を明かしたときのこと。
「多分、ここもいいとは思うんだが・・・・・・」
匠はスマホを見ながら言った。
来夢は何が「ここも」「いい」のかわからなかったが、何かやりたいことがあるのだけはわかった。
匠が少し不安そうにしているのを来夢は見た。
そしてそれが自分のためだという根拠のない自信を持った。
「そろそろイルミネーションの時間だな。来夢、こっちに来い」
匠が高台のフェンスになっているところに呼んだ。
来夢は言われるがままにそこに向かった。
昼間ならそこそこいい眺めであることは想像がついたが夜だとビルの明かりが見えるだけだった。
まぁ、それも幻想的だったが感動するほどでもなかった。
来夢は少し匠の感性を疑い始めた。
だがその疑いはこの後すぐにはれることになる。
「よし、頼むぞ」
匠が腕時計を見ながらぼそりとつぶやいた。
「見てろよ。五、四、三、二、一・・・・・・メリークリスマス!」
「わー!!!!」
来夢の目が光った。
精神から来る光りと物理的な光りが混ざっていた。
眼下に見える景色が青、白、赤、緑・・・・・・様々な色に輝いた。
この町のイルミネーションを一望しているのだ。
まるで宝石・・・・・・いや、世界に一つだけの宝箱だった。
「す、すごい・・・・・・」
感嘆の声を上げた。
「匠先生・・・・・・これって」
眼下の景色から目を離して匠の方を見た。
匠は少し照れくさそうに笑っていた。
「はは、上手くいってよかった。急いで探したから心配だったんだがな」
匠は眼下の光景に視線を落とした。
その横顔が幸せそうに見えたのは気のせいだろうか。
その言葉を聞いて来夢が嬉しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。
「私のためですか?」
「もちろんだ」
匠はゆっくりと来夢にむき直した。
二人が見つめ合った。
一秒が一分にも、一時間にも感じるほどゆっくり流れていた。
二人に寒いなどという概念はなかった。
匠はそっと来夢の左手をとった。
来夢は抵抗せずに匠のリードに合わせて左手を伸ばした。
来夢の胸はもう爆発寸前だ。
胸が苦しい。
自分の鼓動が頭に響く。
手も震えている。怖いからではなく嬉しすぎるから。
自分のために匠がきれいな景色を用意してくれている。
匠が優しく自分の手を取っている。
動悸が速くなる。
熱い、体全体が熱い。
顔が真っ赤になっているのがわかる。
匠が袋の中からきれいな袋をとりだす。
見たことのあるゴロだ。
確か有名なジュエリーショップか何かだったはず。
匠がその中から何かを取り出す。
来夢は目を瞑った。
ジュエリーショップ、左手・・・・・・
思考回路が追いつかない。
匠がそれを取り出し、来夢につけた。




