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クリスマス①

 世の中が(うわ)つく季節がやってきた。

 テレビでは子供用のおもちゃやケーキのCMが流れるようになっていた。

 最近では大手スーパーやコンビニ、ファストフード店でもチキンが買える。

 朝のニュースでもイルミネーションがきれいなスポットの特集をしていた。


 匠は商店街を一人で歩いていた。

 これから待ち合わせというわけではなく、高校が冬休みに入ったのでスーツをクリーニングに出した帰りだった。


 周りは恋人たちであふれかえっている。

 幸せそうな笑顔がそこかしこでこぼれていた。


 (俺もこんなときがあったな・・・・・・)

 匠は恋人たちの明るく輝く姿を見て彩羽(いろは)との思い出を思い出していた。


 もう戻らない、だが永遠に残る日々。

 匠の大きな喜びであり、重い枷であったあの日々。


 匠はふと足を止めた。

 目の前に広がっているのはどこにでもある普通の駅だ。

 待ち合わせスポットとして有名ではないはずなのに恋人が集まっている。


 昔から変わらない駅の姿に見入っていた。

 匠は普段は自転車通勤なので電車は使わないし、このあたりも通勤のコースではないのでこの駅をよく使うということはない。


 だが、匠にとっては思いでの駅だった。

 よくここで彩羽と待ち合わせをした。

 彩羽の自宅からは少しはなれていたがこの駅を待ち合わせ場所にすると聞かなかった。


 (さすがに走ってるやつはいないか・・・・・・)

 匠は思い出し笑いをした。

 思い出し笑いと言っても普通に見ていると少し口角を上げたようにしか見えなかった。

 それでも匠には十分だった。

 彩羽との思いでは自分の中にしっかりとしまっておきたかったので外に出す必要はなかった。と言うよりも出したくはなかった。


 匠は駅とは反対方向にむき直した。

 思い出に浸るのをやめたのだ。


 ゆっくりと歩き出そうとしたそのとき、

「あれ、匠先生じゃないですか?」

 自分を呼ぶ声に動きを止められた。

 この声には聞き覚えがある。

 聞き覚えどころではない、なぜかいつもこの声を聞いている気がする。

 それは違うと匠にはもちろんわかっていた。

 だが、実際の時間よりも、実際の回数よりもその声は、その人物は匠の中に刻み込まれていた。


 歩き出そうと少し前のめりになっていた体を戻して後ろを振り返る。

「どうした、来夢」




「匠先生こそどうしたんですか?」

 匠は来夢を見た。

 ボアブルゾンにタートルニット、さらにマフラーと完全防備の姿が目に入った。

 もこもことした姿が来夢のかわいらしさをより一層引き立てていた。


 匠は少し目をとられていたがすぐに意識を戻した。

「俺はクリーニングに」

 手に持っていた袋を少し上げて見せた。

「ふーん」

 来夢はすっと手を後ろに回して組んだ。

「先生、この後暇ですか?」

「ああ」

 何もなかったと思いながら頷いた。


 すると来夢はくるっと反転した。反転するとマフラーがふわりと浮いた。

 あざといと言われれば、あざといようにも見えるが、来夢がやると単純にかわいかった。

「それなら、ちょっと付き合ってもらえますか?」

 顔だけ振り返って匠に聞いた。

「・・・・・・ああ」

 特段断る理由もないので付き合うことにした。


 匠は来夢に案内されるがままに後ろをついていった。


 なぜか来夢に誘われたことが嬉しかった。

 その理由はわからない。

 いや、もしかしたら心の中でもうわかっているのかもしれない。

 あの花火大会の日、来夢が一番始めに自分に声をかけてくれた。

 来夢が自分にかける言葉にいつも助けられ、感謝していた。

 それがただの感謝なのか、それとも・・・・・・

 開いた心が、揺れ動いていた。


 (どうしよう、勢いで誘っちゃった・・・・・・)

 後ろに匠がいることを感じながら顔が熱くなるのを感じていた。

 もうマフラーをとろうかどうか迷うほどだった。

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