体育祭⑥
「あれは莉子ちゃんのせいじゃないよ」
「元気出して!転んでなかったら莉子ちゃんが勝ってたよ」
保健室にクラスメイトたちの声が響く。
「うん。ありがとう」
莉子はベッドに座ったまま返事をした。
「あーあ、でもこれで体育祭終わりかー」
伸びをしながらいつもの感じで言う。
「そんなことはないですよ。怪我と言ってもちょっとひねってるくらいだから激しく足動かさない競技なら平気です」
養護教諭が声をかける。
その言葉を聞いてクラスメイトが「よかったねー」と声をかけ、莉子が「うん」と返事をするがその声にはいつもの元気がない。
体育祭に出られなくなることが莉子の気持ちのモヤモヤの原因ではないのだからしょうがない。
「ほら、ほら、早く行かないと。次は大縄ですよ」
と言いながら生徒を保健室から追い出す。
「はーい。じゃあ、莉子ちゃん、また来るね」
「うん!頑張ってー!」
手を振って見送る。
無理矢理笑顔を作りながら。
「じゃあ、私も行かないといけないからこれで冷やしておいてね」
「はい、ありがとうございます」
莉子は氷の入ったバッグを受け取ってお礼を言った。
そのまま養護教諭が保健室から出て行くのを見送った。
保健室には静寂と孤独が訪れた。
一人になった瞬間、莉子はうつむいた。
悲しい、と言うよりも悔しい。
こんなことで何もできなくなる自分が情けない。
今だって本当は大縄をしているはずだった。
なのに、自分はここにいる。
無力でちっぽけな自分。
涙が出てくる。
握っている手に雫が落ちる。
悲しみを表すかのごとく雫は冷たかった。
人前では泣かないのに一人のときは我慢できない。
(私、弱いね・・・・・・)
「綿貫、いるか?」
不意に入り口の方から声が聞こえた。
莉子は慌てて入り口の方を見た。
入り口には匠がいた。
いつものようにポケットに手を入れていた。
だが様子がいつもと違った。
莉子は大急ぎで涙を拭くと笑顔を作った。
「どうしたんですか、たくみん?」
いつも通り振る舞うことができているかどうか不安だった。
匠はゆっくりと保健室の中に入った。
莉子の近くに行くとベッドを指さした。
「いいか?」
「え?ああ、はい」
「座ってもいいか?」という問いだとわかった。
匠は莉子の横に座ると肘を膝にのせ、手を組んでその上に顎をのせる形で前のめりになった。
その状態で黙っていたので莉子はどうしていいかわからなかった。
「あ、あの・・・・・・大縄は大丈夫なんですか?」
「もう少し時間があるからな」
そこで会話が終わった。
再び二人の間に沈黙が訪れる。




