体育祭⑤
「パン!パン!」
青空の下に白い煙が現れた。
その乾いた破裂音とともに体育祭が幕を開けた。
匠はテントにいるわけでもなくグラウンドの端にいた。
源藏に秋と言っても日差しが強いのでテントにいたほうがいいと言われたがなんとなく落ち着かなかったので出てきた。
フェンスにもたれかかるようにしてグラウンドの中央を見ていた。
中央には生徒たちが集まっていた。
これから一年生の女子学年別リレーが始まるのだ。
二組のアンカーは莉子だ。
リレーがスタートした。
全員が一生懸命走っている。
その姿輝いて見えた。
応援しがている姿が生き生きとしているように見えた。
そう言えば最近は世界が明るく見えるようになってきた、と匠は思った。
その理由はきちんとわかっていた。
(ありがとう、みんな・・・・・・)
心の中で、小さく、強くお礼の言葉を述べた。
リレーは残すはアンカーのみになった。
一番を走ってるのは二組だった。
二番を走っている一組との差は体二つ分ほどだ。
アンカーの莉子にバトンが渡される。
一組もその後を追うようにバトンを渡す。
一組のアンカーも確か莉子と同じ陸上部所属だ。
二人の激しいデッドヒートが繰り広げられる。
莉子が必死になって逃げ、一組のアンカーがその後に食らいつく。
ゴールまで残り二十メートルほどになって二人の差は体一つ分莉子がリードしていた。
(綿貫、頑張れ!)
右手を堅く握りながら匠が応援した。
匠の応援が届いた・・・・・・らよかったのだが。
「あっ・・・・・・」
一組のアンカーが無理矢理内から追い越そうとして莉子の体とぶつかった。
莉子はそのままバランスを崩して転倒してしまった。
「「「莉子ちゃん!!!」」」
走り終えて待機していた二組の生徒が慌てて駆け寄った。
だが、莉子がそれを手で止めた。
「まだ、ゴールしてないから・・・・・・」
と言うと立ち上がろうとした。
だが転んだ拍子に足の筋を痛めたようで上手く立ち上がれなかった。
ようやく立ち上がったがよろけていた。
莉子が立ち上がるまでにすでに他のクラスはゴールしていた。
審判役の教師も辞めるように言っているが莉子はかたくなにゴールすると言っている。
クラスメイトが肩を貸すと言っても笑顔を作って「大丈夫!このくらい平気だから!」といつもの調子を装う。
片足を引きずりながら莉子はゴールした。
ピストルの二発の音がリレーの終了を告げた
その音が莉子の空虚な心に響き渡った。




