体育祭④
「「「せーの!一!二!三!・・・・・・」」」
今は体育祭で行う大縄の練習をしている。
山の丘高校の体育祭は各学年縦割りで三チームが作られる。
競技で三位までに入ったチームにはポイントが与えられ、その合計得点で優勝を決める。
だが大縄は他の競技とは異なりチームにはポイントが入らず、各学年のクラス対抗戦になる。
各クラスが半々に別れて三分間ずつ大縄を飛び飛んだ合計で勝敗を決める。
テストの平均点で競うことはあってもなかなかスポーツで競うことはないので生徒たちも気合いが入っている。
「「「一!二!・・・・・・あー」」」
仁志が縄に引っかかった。
所々から落胆の声が漏れた。
仁志が気まずそうに顔を下げた。
「痛っ」
「「「心春ちゃん、大丈夫?」」」
今度は離れた場所で練習していた方から声が聞こえた。
心春が縄に引っかかってこけてしまったのだ。
「ったく、これだから女子は」
「ちょっと!どういうことよ!」
心春の様子を見た男子生徒の毒づきに女子生徒がかみついた。
回りも巻き込んだちょっとした騒動になってしまった。
引き金となってしまった心春はばつが悪そうにうつむいてしまった。
「いい加減にしろ」
言い争いが続いていた集団に巧みがわって入った。
ポケットに手を突っ込んでいるのはいつものことだが、こういうときにその姿だといつもよりも威厳があるように見えた。
「・・・・・・すみません」
「私たちもごめんなさい」
匠の言葉はクラスでは鶴の一声と等しいほどの力を持っていた。
その匠に言われてしまえば反省するしかない。
「ピリピリするのはわかるが、もっと楽しめ。体育祭なんて楽しんだ者勝ちだ」
微笑みながら言った。
「「「はい!!!」」」
クラス中から返事が聞こえる。
それほど匠は教師として復活していた。
大縄の練習は休憩に入った。
休憩と言っても続けたい人は続けているので、大縄をしている人、休んでいる人が半々くらいだったが。
匠は周りを見渡した。
そして二人を見つけた。
同じところで座って休んでいる。
ゆっくりと歩み寄る。
匠の気配に気づいたのか二人が同時に顔を上げた。
「疲れたか?」
匠は二人の横に座りながら聞いた。
「・・・・・・みんなの足を引っ張ってるのに休んでいいんですかね」
仁志が重たい口を開いた。
心春は何も言わなかったが小さく頷いたように見えた。
「足を引っ張るか・・・・・・」
匠はふっと笑った。
「引っかかってもいいじゃないか。大縄は続いた回数じゃない、飛んだ回数の合計だ。大切なのは諦めない心だ。前を向け、二人とも。最初の頃よりも飛べてるじゃないか。人は成長するものだ。それを教えてくれたのは君たちだろ」
二人の顔を見ながら言った。
仁志と心春は最初、信じられないという顔をしていたが、すぐに笑顔が現れ始めた。
「「「おーい!二人とも!始めるよー!」」」
そこで練習開始の合図がかかった。
二人はどうしようか迷っていたが匠が目で合図をすると立ち上がった。
「「ありがとうございます」」
同時に頭を下げて走って行った。
また一つ、全員が成長した。




