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体育祭③

 匠は職員室に戻ろうと廊下を歩いていた。

 廊下を歩いているのは匠だけだった。

 無理もない。準備も部活もないならば帰って当然だ。


 職員室に向かう途中に2組の教室があった。

 別に用もなかったが習慣なのか匠は教室の中をのぞいた。

 廊下と同じように誰もいない、と思ったら真面目に勉強をしている男子生徒がいる。

 真面目にペンを走らせ参考書を解いている。

 

 匠は教室に入った。

 すると物音に気づいたのかその生徒が入り口の方を見た。

 男子生徒と匠の目が合った。

「すまん。邪魔したか?」

「いえ。大丈夫ですよ」

 穂高が机の上にシャーペンを置いて答えた。


「すごいな。こんなときにも勉強か」

 ゆっくりと穂高の方に歩みを進めながら言った。

 机の上には数学の参考書と計算用のノート、筆記用具がおかれていた。


「勉強は毎日の継続ですから」

「本当に熱心だな」

 匠が穂高が毎日部活の後、学校の自習室の残って勉強をしていることを知っていた。

 そんな穂高の様子を見て匠は聞きたいことができた。

「進路とかは決まっているのか?」

 山の丘高校の学力は平均的なので地元の大学や専門学校、短大、大学への推薦、一般など幅広い進路に進んでいた。

「まぁ、一応・・・・・・海の崖大学を目指しているんですけど・・・・・・」

 海の崖大学は相当な有名大学だ。

 山の丘高校からは一年に一人二人くらいしかいくことができない。


「ただ、学力が追いつかなくて」

 穂高は自分のノートに目を落とした。

 それにつられて匠もノートを見ると、ノートが赤く染まっていた。


「見ての通りこのざまですよ」

 平常を装っているが声からは、かすかに悲しみの色が届いてくる。

 匠はノートから顔を上げ穂高を見た。

 そしてゆっくりと口を開いた。

「安心しろ。伊織より学力が下だった、それこそ山の丘高校で底辺くらいのレベルだった生徒が海の崖大学に合格したのを俺は知っている」

「・・・・・・本当ですか?」

 自分を励ましているのだろうかと思った。

 そんな学力の生徒がいくことのできる大学ではない。


「ああ、本当だ。数学を教えていた女性教師に憧れて、同じ大学に入るために毎日毎日猛勉強をして合格したバカな男子生徒だった。教師になるんだって意気込んでたな。まったく、呆れた話しだ」

 匠はふっと笑った。

 その話を聞いて穂高が口を開いた。

「それって・・・・・・」

 だがそこで口を閉じた。

 自明なことを聞く必要はない。

 匠が高校時代の話をしているところを穂高はあまり見たことがなかった。

 だから嬉しかった。


「だから、諦めずに頑張ることだな」

 と言うと匠は体を反転させて教室から出て行った。

 その顔が少し赤くなっているところを穂高は見た。

 (照れ隠しなんて、らしくないですね)

 匠の意外な一面を見ることができて穂高は少し優越感に浸っていた。

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