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文化祭⑦

「「「わー!!!!」」」

 体育館はすごい熱気だった。

 ちょうど一組のバンドが終わったところだ。確か次は来夢たちの番。


 来夢は顔を落とした。

 あの場に立てなかったからではなく、あの場に立つクラスメイトに迷惑をかけたから。

 自分のせいでせっかく練習した曲ができなくなったから。

 そんなことを思っていると再び涙が出てきた。


「さぁ、お待たせしました!いよいよラストのバンドです!」

 普段の紗椰からは想像もできない声が響く。

 会場のボルテージもマックスになった。

「ここで皆さんにお知らせです!次のバンドのボーカルを務めるはずだった生徒が少し怪我をしてしまったので大事をとってお休みします」

 申し訳なさそうなトーンになった。

 ほとんどの生徒がそのボーカルのためだと思ったが、事情を知っているものからすれば自分自身の不祥事に対してだ。


「・・・・・・やっぱり、私帰る」

 来夢がクラスメイトの方においていた手を離して体を反転させた。

 動かそうとするとズキンと痛んだが歩けないほどではないと思った。

 来夢がそのまま帰ろうとすると信じられない言葉が耳から入ってきた。


「なので、その生徒の担任の松雪先生がピンチヒッターとして参加してくださいました!」

 ステージに匠の姿が現れた。

 会場にいた生徒は匠が、あの匠がバンドをするなど思ってもみなかったので動揺していた。

 ある生徒は固まり、ある生徒はひそひそと友達と話し、ある生徒は面白半分に匠の姿を撮っていた。


 来夢はステージの方にむき直していた。

 (匠先生・・・・・・)

 匠が文化祭のために。

 匠が生徒のために。

 匠が来夢のために。

 その場に立っていた。




「ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー」

 努の合図で演奏が始まった。

 来夢は息をのんだ。その曲は自分たちが演奏するために練習していた曲だった。

 イントロが少し走っていたが匠のリードですぐにインテンポに戻った。

 Aメロに入った。匠は練習をしてないにもかかわらずピッチが合っていた。

 Aメロ、Bメロ、サビ、そのどれもが完璧だった。

 間奏に入った。来夢は匠を見ていた。

 なぜならここは自分がギターソロをやるはずだった部分だ。


 その視線に応えるように匠のギターソロが始まった。

 かっこよかった。

 その一言では足りないような、十分なような、そんな複雑な想いだった。


 もう会場に動揺は見られなかった。

 汗ばむような熱気が戻っていた。

 そこかしこから「松雪先生」コールや「匠先生」コールが飛び交っていた。

 はじめの曲が終わると周りの生徒の歓声はさらに大きいものになった。



「みんな盛り上がっているかー!」

「「「いぇーい!!!」」」

 匠の声かけに会場全体が応える。

 普段の匠からは想像もつかない姿であるにもかかわらず、もう誰も疑問を抱いていなかった。

 

 来夢はただステージ上にいる匠の姿を見つめていた。

 その姿が嬉しかった。

 この状況が申し訳なかった。

 匠が動いてくれたことに感謝していた。

 自分があの場にいないことを悔しく思った。


「朝比奈!いるか!」

 スピーカーから大音量で自分の名前が呼ばれ体をびくつかせた。


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