文化祭⑤
「あー、捻挫ですね。骨には異常はないと思いますが安静にいていた方がいいと思います」
八人 (匠、紗椰、穂高、努、仁志、心春、莉子、来夢) は保健室に来ていた。
来夢が保健室のベッドに座って養護教諭に診てもらっていた。
養護教諭は冷凍庫から氷を取り出して袋に詰めた。
「よし。これで足を冷やしててね」
と言うとその袋を来夢に渡した。
「・・・・・・ありがとうございます」
来夢が浮かない顔でぼそりとつぶやいた。
「では松雪先生、私はまだやることがありますので、後はお任せします」
「わかりました。ありがとうございます」
匠が丁寧にお辞儀すると養護教諭は保健室から出た。
「・・・・・・朝比奈さん。本当にごめんなさい」
いつもの明るさはない。本当に申し訳なさそうに紗椰が言った。
「いえ、大丈夫ですよ。しょうがないです」
来夢が紗椰を落ち着かせるために言った。
その顔には笑みが浮かんでいたが、取り繕った笑みであることはその場にいた誰もがわかっていた。
気まずい沈黙が保健室を覆った。
「あっ、双葉先生、ここにいたんですか。そろそろ有志バンドの時間なので司会の準備をお願いします。他の皆さんも準備してください」
保健室に『実行委員』の腕章をつけた生徒がが入り、声をかけた。
司会である紗椰を呼びに来たのだ。と同時にそろっていなかったバンドメンバーの穂高も見つけて声をかけた。
全員が気まずそうに来夢を見た。
来夢もうつむきいて何かを考えていたが今できる精一杯の笑顔を作って、
「みんな頑張ってね。練習したことをしたら大丈夫だよ」
と言った。
悲しみを胸の奥にしまい込んで。
「穂高くん、ボーカル任せていい?こういうときのために練習してた曲が何曲かあるでしょ」
来夢は涙を我慢していた。
我慢しすぎてもう二度と涙が出ない体になるのではないかと思うほど強く。
「・・・・・・わかった」
来夢が強がっているのは他の誰にもわかった。
だからそれ以上つらい思いをさせないようにという思いで穂高は返事をした。
その考えは他の人にも伝わったのでバンドの準備のために体育館に向かい始めた。
紗椰は何か言おうとしていたがそれを言葉にしてしまったらすべてが台無しになると思って喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
そして保健室には静寂がもたらされた。




