文化祭④
文化祭当日になった。
2組のメイド・執事カフェにも多くの人はいっていた。
とは言うもののメイド・執事カフェと言うよりも、
「あ、あの、伊織くん。一緒に写真撮ってもらってもいい?」
「綿貫さん!!!!俺たちと写真撮ろうよ」
「来夢ちゃん、こっち、こっち」
「おい、努。馬子にも衣装だな」
とどこかのコスプレ喫茶ののりになっていたのだが。
人気を集めていたのは生徒だけではなかった。
男子生徒の注目を一番集めていたのは、
「双葉先生、俺たちと!」
「今度は僕たちとも!」
コーヒーを運んでいた紗椰に声がかかる。
さっきからずっと紗椰には声がかかりっぱなしだ。(男子生徒からの)
そのたびに嬉しそうな笑顔を向けるので連鎖は止まる気配がない。
紗椰もほぼ新任のようなものなので生徒たちに声がかけられて本当に嬉しいのだろう。
このすべてを前向きにとらえることができるのは紗椰の長所だろう。
一方女子の人気を一番集めていたのは、意外にも穂高ではなく、
「あ、あの、松雪先生!私と写真撮ってもらえませんか?」
「あー、ずるーい。私も」
「先生。私たちもいいですか」
いつものように窓にもたれかかっていた匠に(接客はしっかりとやっていたがこのときは注文が入らなかったので休憩していた)女子生徒が群がる。
「い、いや・・・・・・俺は・・・・・・」
匠は女子生徒をキョロキョロ見渡しながら小さな声でうなった。
心を開きかけているといってもこれだけの相手はきついだろう。と言うか、芸能人でもなければ慌てるのも無理はないか。
結局、匠はほとんど全員の女子と写真を撮った。
ここで断らないのはやはり匠の心の根が優しいからだろう。
(何であんなに仲よさそうなんだろう・・・・・・)
匠の様子を注文のクッキーをさらに並べながら見ていた来夢が少しむっとした表情を浮かべていた。
(あれ?匠先生が先生らしくなることはいいことじゃ・・・・・・)
来夢はふと自分の心に思ったことに違和感を覚えていた。
来夢たちは匠になりたかった教師になってもらうために夏休みなどに連れ出したはずだ。故に生徒との交流が増えることは歓迎すべきことのはず。
なのに、
(私、どうして・・・・・・)
答えの出ない、いや、まだ答えに気がついていない問いを自身に問いかけた。
2組の人いりも落ち着きだしていた。
なぜかというと、
「来夢ちゃん、莉子ちゃんもそろそろバンドの時間じゃない?」
女子生徒が二人に声をかけた。
「そうだね。来夢ちゃん、そろそろ準備始めようか」
「うん。おーい!伊織くん、九条くん、近衛くん、心春ちゃん。そろそろ準備しよ!」
来夢が手を挙げて呼んだ。
「そうだね、努、先にあがらせてもらおう」
穂高が隣にいた努に声をかけた。
「雨宮さん、僕たちも行こう」
仁志も声をかけた。
六人が教室から出ようと準備をしていると、
「双葉先生、こっち、こっち」
「はーい」
未だに男子生徒から声がかかる紗椰が男子生徒の方に行向かった。
するとずっと動きっぱなしの上に、慣れないメイド服のせいだろう。足がもつれてしまった。
「あわわわわ」
そのまま紗椰は前のめりになって倒れてしまった。
不運にも前には来夢がいた。
紗椰は来夢を押し倒すような形で地面に突っ伏した。
「大丈夫か!」
いち早く駆けつけた匠は二人の様子を確認した。
他の生徒たちも回りに駆けつけて各々が心配そうな顔をして声をかけている。
「いてててて。朝比奈さん。ごめんなさい、大丈夫?」
先に起き上がったのは紗椰だった。
起き上がるやいなや心配そうに聞いた。
だが来夢は起き上がらなかった。
その代わりに足を押さえながら顔をしかめていた。
「朝比奈!」
匠の声が教室に響いた。




