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文化祭①

 長かった夏休みが終わりを告げた。

 山の丘高校には今日もたくさんの生徒が登校していた。


 始業のチャイムが鳴り始めた。

 入学式が始まった。

 体育館には1学期とは異なり、肌が真っ黒に焼けている者や、徹夜明けなのか眠そうにしている者、もっとすごい者は夏休みを持ってきて隠れながらやっている生徒もいた。


「えー、皆さん。いい夏休みは・・・・・・」


 山の丘高校の理事長である(うしお) 源藏(げんぞう)が挨拶を始めた。

 校長ではなく理事長が挨拶をしているのは普通の高校からしたら少しずれていると思われるかもしれないが、源藏は普段から校内を徘徊しているのでこの高校の生徒にとっては逆に理事長らしいことをしていると思う瞬間であった。




 入学式が終わり、生徒がそれぞれの教室に戻った。

 今日は授業はない。それ以上にといっていいほどの大事なことがある。

 1年2組ではすでにそれが行われていた。


「じゃあ、これから文化祭で俺たちのクラスが何をするかを話し合いたいと思います」

 クラス委員の穂高が教卓の前で話している。

 女子のクラス委員の心春はチョークを持って黒板に向かって文字を書いている。おそらく『文化祭』と書こうとしているのだ。


「はい、はーい。私メイド喫茶がやってみたーい!」

 莉子が手を挙げて、中腰の状態で前のめりになりながら発言した。

「メ、メイド喫茶・・・・・・」

 穂高が少し面食らった。

 確かに男子から提案されるのなら予想できていたのだろうがまさか女子から出てくるとは思っていなかったのだろう。

「そう!だって、メイド服着られるなんてこんな機会しかないじゃん!」

 莉子の発言にクラス中がざわめきだした。


「いいじゃん。そうしようよ」

「私も着てみたい」

「えー、私は嫌だなぁ」

「私たちもー」

「俺たちは賛成だな」

「女子がメイド服着るなら、男子は執事の衣装だからね」

「はー、何でそうなんだよ」

「普通そうでしょ!」


 クラスの統制がとれなくなっていた。

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて・・・・・・」

 穂高が両手で落ち着くようにジェスチャーするが全く落ち着く気配がない。


「ふー」

 そのとき穂高の後ろから大きく息を吸う音が聞こえた。

「静かにしなさい!!!!」

 教室中に心春の声が響き渡った。

 普段のおとなしい心春からは想像のつかない声にクラス中が驚きのあまり沈黙した。

 当の本人クラスの注目を一点に集めほおを赤く染めて恥ずかしがっていた。

 そしてとうとう恥ずかしさに耐えきることができずにうつむいてしまった。

「い、伊織君。つ、続きを・・・・・・」

 穂高にようやく聞こえる聞こえるような小さな声でつぶやいた。

「あ、ああ。そうだね」

 驚きでフリーズしていた穂高の時間が動き始めた。




「えっと、意見は割れているようだけど、とりあえずここでは意見を出し合って後で多数決をとればいいんじゃないかな」

「でも、もともと不可能なんじゃない?メイド喫茶なんて」

 クラスの女子のひとりが手を挙げていった。

「メイド喫茶って高校生ができるの?」

「それは・・・・・・」

 穂高は文化祭の経験者ではない。

 故に可能かどうかなどわからなかった。


 穂高が答えに詰まっていたそのとき、

「確か去年は2年の5組が似たようなことをやってたな。その前は2年の3組だったかな。毎年恒例行事のように行われてる。そのせいで衣装屋とのコネクションもできてるから難しくは無いと思うぞ」

 窓の近くでもたれかかったまま匠が言った。


 クラス中が(来夢を含めたいつもの六人以外)が心春のとき以上に驚いた。

 六人以外の生徒は匠が少しずつ心を開き始めていることを知らなかった。

 故に生徒の中では今まで通り無口で無愛想で、それでも憎めない優しい教師という印象だったた。

 さらに匠がこんな長文を言ったのは授業以外なかったのだ。

 

 匠はなぜ自分が見られているのかわからなかったが授業で生徒に見られることは慣れていたためそれほど苦ではなかった。


 その様子を来夢を含めた六人が温かく見守っていた。

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