花火大会③
別に過去のことを話す必要などなかった。
いつも通り「何でもない」と言えばよかった。
そうすれば生徒も何も聞かなかったはずだ。
普段の匠ならそうしていたはずだ。
だが、今回は違った。
なぜか・・・・・・
(頼りたかったのか・・・・・・)
自分の過去を理解してくれる者が必要だったのだろうか。
(違う!俺は他人と関わらなくていい!関われば巻き込んでしまう!不幸にしてしまう!)
(生徒たちに赤井さんの言葉を鵜呑みにしてほしくなかったのか・・・・・・)
自分の過去の一片を知られることで自分と関わってくれなくなるのを恐れたのだろうか。
(違う!俺の過去をすべて話せば関わらなくなる以上に軽蔑され、また嫌われるかもしれない!)
(俺は・・・・・・)
(俺は・・・・・・)
(俺は・・・・・・)
匠と来夢たちは人気のない場所に場所を移していた。
匠を中心にして来夢たちがそれを囲むように座っていた。
匠はすべてを話した。
志保と何があったのか。
異動先の学校で何があったのか。
そして自分がどうなったのか。
匠はすべてを話した。
細かな詳細は省いていた。
だが、過不足なく話していた。
来夢たちはその話を黙って聞いていた。
話しの途中で莉子、心春、そして話しの一部しか知らなかった仁志、来夢が涙を流した。努と穂高は目に涙をためてはいたが流してはいけないと思って我慢した。
「・・・・・・以上だ。これが俺の過去だ」
匠は話し終えた。
匠の顔色は病人のように青かった。
実際、話をしている途中で匠は吐き気を覚えていた。
その目には涙が輝いていた。
だが、泣いてはいなかった。
匠が話し終わって一体どれほどの時間が経ったであろうか。
実際には1分も経っていないだろう。だが何分、何十分、何時間が過ぎたようなそんな重たい空気だった。
重力が増したような、空気に押しつぶされそうな、それほど重く、居心地の悪い雰囲気だった。
そこにあったのは負のメロディーを奏でる少年少女の泣き声だけだった。




