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2 コンビニ店員の社長と秘書

11万文字まで執筆済み。★毎日更新予定です。

異世界(黄泉世界)は第4話から、戦闘シーンは第7話からの予定です。

*黄泉世界=現世と来世の間にある世界です。

*討伐者=冒険者みたいな物で妖怪を滅する者です。

「おはようございます」


 午後十時ごろになると、もう一人のバイト店員がやってくる。

 河原崎かわらざきという40歳代後半の男性だ。


 たけるも「おはようございます」と返した。

 社員は午後十一時頃帰り、朝の七7時まで、たける河原崎かわらざきの二人が店番となる。



 深夜二時ごろのことだ。

 店内にお客は一人もいなかった。

 駐車場に国産高級車がやってきて、スーツの若い女性が降りた。

 店に入ってきたときたけるはその女性がかなりの美人だと気づいた。


「いらっしゃいませ」


 たけるは、その時入荷したばかりの書籍の束を開封し、陳列作業をしていた。

 スーツの女性は、店内を見回してから、たけるの方に近づいてきた。


 河原崎かわらざきはその時バックヤードで、ドリンクの追加作業をしていた。


「すみません、河原崎かわらざきはいますか?」


(うわっ、こんな美人が、河原崎かわらざきさんの知り合いなのか?二十歳台にみえるから、娘さんかな……)


 たける河原崎かわらざきとはあまりに不釣り合いな美女だったので、その関係をつい詮索してしまう。


「えっと、奥にいますので、呼んできます」


 たけるは抱えた雑誌の束を床に置いた。


「すみません、お手数おかけいたします」


 女性は丁寧にお辞儀して、すまなそうに言った。


(なんか社長秘書っぽい感じだな)


 パックヤードにいって河原崎かわらざきを呼ぶ。

 

「社長、すみません」


 その美人が、河原崎かわらざきの顔を見てそう言ったので、たけるは驚いた。


「牧田じゃないか、なんだこんな時間に?!」


「すみません、緊急の要件だったのですが、携帯がつながらなくて。ご迷惑かとも思ったのですが、仕方なくこちらへ」

「ああ……すまん、バッテリー五パーセントになってたから、電源切ったままだった」

「そうでしたか」

「で、要件は?」

「はい、二十二時ごろからサーバがダウンして、サービスの提供ができていません。緊急メンテを依頼してあるのですが、今夜中には普及が難しいようです。一時的に別のサーバで運営するように勧められたのですが……でも代替えサーバだと、サービスの六割しか提供できないのです。それだったら、普及まで待つという選択肢もあります。そのご判断を仰ぎたくて」

「なるほど……今井はなんといっている」

「専務も判断が難しいと言っておられまして、ここは社長にご判断いただくべきかと」


(まじか、河原崎かわらざきさんて社長なのかよ!でもなんで社長が、コンビニで働いてんだ!?)


 たけるは、すぐに雑誌陳列作業に戻ったが、あまりにも意外な出来事だったので、聞き耳を立てていた。


「分かった。では代替えサーバを動かしてくれ。もちろん、状況は利用者に直ぐ一斉メールで連絡し、サービスは一部しか稼働していないことを知らせておくように」

「分かりました。では早速に」


 牧田はお辞儀して、直ぐに店を出ていき、車の中で携帯を手にしていた。


「悪いねてすね。多神たがみ君」


 河原崎かわらざきは右手をあげて、少し苦笑いをした。


「いえ、大丈夫です」


 たけるは、雑誌を並べる手をとめて、河原崎かわらざきの方を向いて笑顔で返した。

 聞きたいことが山ほどあったが、河原崎かわらざきは直ぐバックヤードに戻っていったので、その時は諦めた。


 駐車場の車がエンジンをかけて去っていった。


(ほんと、凄い美人だったなあ……。40歳を過ぎてコンビニの深夜バイトをやってるから、リストラされた中年おっさんだとばかり思っていたのに)


 なんだか自分の将来像を見ているようで、同情しつつも、こんな中年にはなりたくないなと思っていたことが少し恥ずかしかった。

 河原崎かわらざきの物腰はとても低く、年下の自分にも敬語で、丁寧で穏やかなのだ。

 だからまさかそんな社会的地位のある人とは思ってもみなかった。

 むしろ心の奥底ではバカにしていたともいえる。

 "実るほど首を垂れる稲穂かな"そんな言葉が浮かんだ。


 その後入荷したパンの検品、ドリンクの品出し、ポリッシャーでの床清掃を終えた。

 午前四時時過ぎ、お客もなく、次の食料品の入荷まで仕事が途切れた。


多神たがみ君、先に休憩入って」


 河原崎かわらざきがそう言うのを待っていたかのように、たけるは切り出した。


「あの、すみません、聞いてもいいですか?」

「はははっ、さっきの事ですよね?いいですよ。隠していたわけではないので」


 河原崎かわらざきはちょっと照れくさそうにしながら、中華まんの補充を始めた。


河原崎かわらざきさんって社長だったんですか?」


 たけるはバックヤードの椅子に座り、レジの中の河原崎かわらざきに話かけている。

 いつもなら、弁当を買って食べるが、今日はそんな気になれなかった。


「ええ。でも小さな会社ですよ。ギリギリ運営しているって感じです」

「コンビニでバイトしなければならない程なんですか?」


「うーんと、まあ会社のためにやっているというのは、そうなんですが……バイト代が必要って訳ではなくって、別の目的があります。でもごめんなさい。ちょっとそれは説明困難です」


「そうなんですか、俺てっきり、リストラとかされて、仕方なくコンビニバイトしてるんだろうと思ってました。すみません」


「いやいや、それ間違ってないですよ。私は四十二歳でリストラにあいました。それから学歴も資格も技術もないので、再就職できなくて、それでコンビニバイト始めたのですから」


「えっ、じゃあ、社長になったのって最近のことなんですか?」


「ええ、まだ二年目ですよ。まあ売り上げはようやく1億に届いたってところです。利潤は2割程度ですけれどね」


「そっ、それ充分凄いです!大逆転の人生ですね」


「色々後悔ばかりの人生だったんですが、あるチャンスが舞い込んできて、必死に頑張りました。この四十年近く、なんの努力もせず、ただただ楽なほうに楽なほうに流れ流されてきた人生でした。もっと若い時に勉強しておけばよかった。努力しておけばよかったと後悔しっぱなしでしたから」


「四十歳からでもその気になったら取り戻せるんですね!俺も何かのチャンスが欲しいです。俺の人生も後悔ばかりなんで」


「なにをおっしゃる。まだまだ若いじゃないですか。これからいくらでも努力できる時間があるじゃないですか。人生後悔ばかりなんて言うのにはまだ若すぎます。取り戻せますよ」


「――いえ、俺、実は高校中退なんです。浪人装っていますが、大学受験資格もないんです」

「えっ、そうなんですか……」


「はい、親にさんざん尻たたかれて、中学の時はがり勉して、一応進学高といわれる高校に入ったですが……そこで力尽きたというか、周りが頭のいい奴ばかりで、ついていけなくて。でも、結局それも言い訳なんですけど――」


「ああ、無理矢理勉強させられて、力つきちゃったってパターンですね」


「高一の夏からMMOに、あっ、オンラインゲームのことなんですけれど。それにはまってしまって、廃人状態でした。だから出席日数もぎりぎりで、試験は赤点ばかり。再試も受からなくて留年が決定して、それで退学ってことになって……」

「あらら、退学はきついですね」


「親にもあきれられて、家を追い出されて今はアパートで暮らしています。生活のために、就職したんですが、建設会社とか、警備会社とか、その他もろもろ。でも、高校中退の雑魚扱い、下っ端扱いでさんざんこき使われて、ののしられて、バカにされて、安月給で小間使いされて、それが悔しくて、悔しくて――」

「それ分かります、というか同じかも……」


「もちろんそんなの自業自得、実際に学歴も能力も社会経験もないのだから当然のことなんですよね。何もできないくせに、俺って変にプライド高い最低な奴で。『ここは俺のような人間のいる場所じゃないだ!』なんて思ってしまって……」


(あれ、なんだ水がおちた……)


 たけるは無意識に涙がこぼれていたことに気づいた。

 それまで、ずっと溜めていた思いを、言葉にして河原崎かわらざきに吐き出した。


「だから絶対見返してやるって、大検とって、一流大学入って逆転してやるぞって思ったんです。それから、コンビニの深夜バイトをして、日中は勉強し始めました。でも、ダメなんです、毎日の生活でいっぱいいっぱいで」

「なるほど理想と現実の違いですよね」


「予備校の学費なんて作れないし、教材だってろくに買えないし。万一合格したって、入学金やら授業料やらどうせ払えないしって思ったら……また勉強にも身が入らなくなって。結局気づいてみれば、もう同級生の多くは大学進学していて、焦って焦って、毎日毎日後悔ばかりで何も手につかなくて。アニメみたいに時間が戻ってくれないかな、なんて夢のようなことばかり考えていて、結局無駄な時間を過ごしているだけなんです……」


「なるほど。なるほど、そうですか、そうですよね。分かります」


 河原崎かわらざきは驚くほど真剣にうなずき、『そうですか、そうですか』と真剣に愚痴を聞いてくれた。


「すみません。こんなこと河原崎かわらざきさんに聞いてもらうようなことじゃないですよね」


 心の中のもやもやを吐き出したたけるは、なんかスッキリした気持ちになっていた。


「いや、歳は違えでど、私も同じようなものです。私だってなんどもやり直したい!時間が戻って欲しいと願いましたよ。中学生の時に戻れたら、いや、高校生の時でもいいって、四十過ぎても思いましたよ。だからその気持も、痛いほどよくわかります。全く私と同じですよ」


「でも、河原崎かわらざきさんはちゃんと逆転したじゃないですか、でも俺には――」


「いや、私もチャンスがあったから逆転できたのです。だから多神たがみ君もチャンスがあればきっとできる。強い後悔の気持ちがあるならば。そうだ私がチャンスをあげられるかも」


「――えっ、チャンスをくれるんですか?」


(もしかして学費とか援助してくれるのか?出世払いと……)


「はい。あげるのは簡単なのですが……それが本当にチャンスになるかどうかは多神たがみ君次第です。だからやってみないと分からないのですけど。MMO好きってところが、かなり向いてそうなきがするのですよ」


「えっ、MMOが関係あるんですか……」


(河原崎かわらざきさんって、ゲーマー?)


最後までお読み頂きましてありがとうございました。

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