9p
悠希は頭からあのうたが離れなかった。
もし、その悠希の予想が当たっていれば、あと二人は死ぬことになる。
それだけはまぬがれなければならない。
でも――
ただの思い過ごしだったら……?
そうだ。冬香はうたのせいなんかではない。ただの…事故だ。
うん。そうだ。事故だ。悠希はそう思い込んで、わらべうたのことを誰にも言わなかった。でも悠希の心の中では何かがずっと引っかかっていた。
「みんな、冬香の体を運ぼう。一回別荘に帰ろう」
悠希はできるだけ冷静になりながら言った。皆は黙って立ち上がった。亜海は冬香の体を担いで、静かに別荘への道を歩いた。
沈黙。誰も言葉を発さなかった。
「冬香の体…どうするの?」
美香はすがるように椿己に聞いた。椿己は目を瞑って静かに言った。
「冬香は、青竜の間に荷物を置いて、そこで寝るはずだったんだろ?だったら…そこで……安らかに眠らせて置こう」
その会話を聞いていた悠希は椿己が言葉を選んでいるのが分かった。
別荘について、五人は青竜の間へと足を運んだ。静かに寛也が扉を開く。青系の色でまとめられた、見ていて落ち着くような部屋だった。亜海はベットにやさしく冬香の体を置いた。そして、静かにしゃがんで、手を合わせた。隣で、美香も同じようにしゃがんで手を合わせた。そして、しぼりだしたような声で小さくつぶやいた。
「…ごめんね、冬香…私が…私が泳ぎなんて競わなかったら…!…」
ぽたぽたと美香の涙が眠っている冬香の頬に落ちる。寛也も手をぐっと合わせて目もぎゅっとかたく瞑っていた。椿己は壁に寄りかかり、どこかうつろな目で顔をしかめていた。
悠希は、何を口にすればよいのかも、どんな顔をすればよいのかも分からなくなっていた。
その日は、誰も眠りにつかなかった。