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「どうせなら……両思いのほうが…いいだろ?」
椿己は手のひらに全身の力をこめた。扉は閉めかかって、同じように、椿己の体も消えかかっていく。
「お前、惚れられてるんだから…ちゃんとやってけよ?それと、美香」
椿己は消えかかる顔で、最後に言った。
「今まで、ありがとな」
そして椿己は扉を閉め、白い光とともに、消え去った。
ひじまで上がっていた水位も、引いていき、島は浮上していった。
あの気持ち悪い声も、聞こえなくなった。
あの幻も、見えなくなった。
悠希はよろよろと、美香に歩み寄った。
「なあ、美香…そうなのか?」
美香は少し、頬を赤らめて、かすかにうなづいた。
「はあ…これで、うまくやっていかなかったら、椿己に呪われそうだな………あ、あと寛也にも…はは、呪われまくりだな…おれ……」
「ふふっ。確かに。私、椿己のこと、振っちゃったし」
美香は困ったように笑う。この島に来る前に、美香は椿己のことを振ったのだ。
悠希に想いを伝えるために。
「悠希、でも大丈夫だよ。みんなきっと…」
悠希もうつむきながら、声だけで笑う。
「美香にそういわれると、何か…楽になる。ありがと…でもさ…」
悠希は同じ背丈くらいの美香の肩に少しだけ、よっかからせてもらった。
すこし、ほんのすこし、恥ずかしいと思うところもあったが、今は、誰かのそばに、居たかった。
「ゆ、悠希…?」
美香が心配そうに悠希に言った。悠希は、静かにつぶやいた。
「い、いやだったら、いいけどさ……」
悠希の目から白い筋が通った。ぽろっと涙が落ちる。
「今、ちょっとだけ…肩、貸してくれ…」
悠希はしぼむような声で、美香に言った。美香は別に驚いた様子も無く、悠希と同じように、悠希の肩に顔をうずめた。
「うん…良いよ」
悲しい旅は終わった。